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AHEAD~再動したパーティは止まれない~  作者: あこね
第四章

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9話 脱出


「あったぞ!」


 パキパキと音を立てて崩れる巨木。

 その残骸を漁っていたタイラーが、こちらを振り向きながら声を上げる。

 持ち上げられた手の中には、拳大ほどの限りなく黒に近い濃緑の魔核が握られていた。


「マリー! ロープかなにか下ろせるか?」


 イコルネは声を張りながら頭上を仰ぐ。

 穴の縁から顔を出したマリアテールは、小さく手を振ると、すぐさま頭を引っ込め、代わりに太く長い蔦がするすると降りてきた。

 足元まで届いた蔦を掴み、何度か引いて強度を確かめていた時、隣へやってきたタイラーに肩を叩かれる。


「俺が先いく」

「……別にいいけど」


 眉を寄せつつ先を譲れば、彼は岩肌が剥き出しになった壁に足をつき、蔦を伝って素早く登っていった。

 煙草をふかしながら待つこと数分、蔦が二回引かれ「登ってこい」と合図される。

 おもむろに穴の縁を見上げると、光の差し込むそこには、既にタイラーの姿はなかった。

 イコルネは両手で蔦を握り、岩の窪みに足を掛ける。

 ゆっくりと体重を預けて登り始めようとした途端、ギシリと軋んだ蔦が大きく揺れ、そのまま上へと引かれ始める。

 あっという間に宙へ浮いた体は、難なく引き上げられていく。

 地上の光に目を細めながら、なすがままぶら下がっていると、穴の縁へ着くなり伸ばされた手に、右腕を強く掴まれた。

 勢いよく引っ張り上げられ、前のめりに地上へと出る。

 転びかけつつ顔を上げれば、蔦の束を肩に担いだタイラーと目が合った。


「……ありがと」

「おう。それよりお前、手は平気か?」


 彼の言葉にピクリと動きを止める。

 掴まれたままのイコルネの腕は、霜焼けの赤みが残り、わずかに熱を持っていた。


「大丈夫。ちょっと違和感があるくらい」

「凍傷……にはなってねぇな。ったく、お前は……昔っから無茶し過ぎなんだよ」

「まぁ、寒いのは得意だから」

「そういう問題じゃねぇだろ……」


 タイラーは諦めたようにため息をつくと、腕を離してもう一度蔦を穴の中へ投げた。

 ほどなくして、トーカも地上へ戻ってくる。


「ここ、早く出た方がいいわ」


 石柱の上で辺りを見回していたマリアテールが、降りてくるなり硬い声を出す。


「もう崩壊が始まってる」

「は? 核が死んでから、まだ十五分も経ってねぇぞ?」

「上から見ただけでも、もう遺跡の外側はなくなってたわ」

「マジか、早すぎんだろ」

「入口の位置は?」

「多分変わってるわね。目印に残したナイフがもう崩壊に飲み込まれていたから。遺跡のどこかは、まだ外に繋がってると思うけど……」

「イコ君、目の調子は?」

「なんとか。だいぶ魔力が薄まってきたし、入口を探すくらいならいける」


 それを聞くなり全員が動き出す。

 トーカは《障壁》を広範囲に展開して、崩壊の制御。

 マリアテールは再び石柱へ登り、高所から状況の把握と伝達。

 タイラーは目立つマリアテールへ集まる魔物を蹴散らしつつ、入口の捜索。

 そしてイコルネは右目を赤紫に染め、魔力が流れていく先へ駆け出した。

 指示などなくても各々の役割を理解し、現状でとれる最適の行動を瞬時に実行できる――それは、生還率六割と言われる『魔窟潰し』において、なによりも大事なことだ。


 核となる魔物の死後、魔力の供給源がなくなった魔窟は崩壊を始める。

 崩壊の進む速さはまちまちで、丸一日以上形を保つ場合もあれば、数十分で外へ繋がる穴が消えてなくなってしまう場合もある。

 万が一、魔窟内に取り残されれば、待っているのは死を自覚することすらできない完全な消滅だ。

 だからこそ、広く複雑な魔窟では、迅速な現状把握と柔軟な対応、そして『脱出しやすい崩壊』を引き当てる運が、必要不可欠だった。



 * * *



 イコルネたちが魔窟を転がり出たのは、閉じかけた入口の穴が直径一メートルを切ってからだった。


「あっぶねー!」

「流石にやばかった……」

「ギリギリだったね」

「久しぶりにハラハラしたわぁ!」


 息を弾ませながらその場に寝転がる。

 目の前でジリジリと閉じていく魔窟は、脱出してからものの数分で跡形もなく消え失せた。

 それを見届けた四人は、緑蜥蜴(グリーンリザード)の死骸を積み上げたまま残してきた場所へと引き返す。

 トーカが張っていた《障壁》のおかげか、それほど食い荒らされた形跡はない。

 しかし、これからやる作業を考えると、イコルネはどうしても憂鬱な気分にならざるを得なかった。


 魔物を倒したら――後処理は必須。


 大量の魔物を倒す魔窟潰しにおいて、この後処理こそ一番面倒な作業と言っても過言ではなかった。

 魔窟内のものはどうせ消滅するので放置できるが、外で倒した魔物はそうはいかない。

 目の前に積み上がる緑蜥蜴(グリーンリザード)の山。

 そして、辺りに散らばる百近い魔物の死骸。

 これらから魔核や素材を切り出し、残骸を処分していく作業は、どう考えても討伐より重労働だ。


「ほらイコ! ちゃっちゃと終わらせるわよ!」


 回収作業が苦手なはずのマリアテールに背中を押され、イコルネは渋々作業に取り掛かった。



 * * *



 ひたすら魔核を切り出しては山を作り、ある程度まとまったらトーカの魔法で焼く。

 気の遠くなるような作業をようやく終えたのは、日が完全に落ちた後だった。


 重い体を引きずって焚き火のそばへやってきたイコルネは、はち切れんばかりの麻袋を地面へ放り投げる。

 結んでいなかった口から色とりどりの魔核が転がり出たが、一瞥することもなく、その横へ腰を下ろした。


「おい、投げんなよ」


 焚き火に枝を放り込みながら、タイラーがじっとりとした視線を向けてくる。

 小言も説教も聞きたくないと乱暴に足を投げ出せば、彼は諦めたようにため息をつき、魔核を集め直してくれた。

 丁寧に袋の口を縛って自分の横に置いたタイラーは、焚き火にかけられた小鍋をかき混ぜる。

 湯気の立つ中身は、申し訳程度の山菜が浮かんでいるだけ。

 しかしそこへ、鞄から取り出した自作の固形調味料を二つ入れて溶かすと、空腹を誘う優しい香りがふわりと広がった。


「腹減った……」

「すぐできっから、もうちょい待っとけ」

「無理……」

「ったく、腹減るとまじでポンコツだな」


 タイラーはいつもの干し肉を数枚取り出し、一枚をイコルネへ投げて寄越すと、残りを適当な大きさに千切って鍋へ入れた。

 作っているのは、パーティで唯一ちゃんとした料理のできる彼が、野宿の時によく振舞ってくれた干し肉のスープだ。

 懐かしい匂いに溢れる涎を飲み込み、貰った干し肉に齧りついた時、木々の闇間からマリアテールとトーカがやってきた。


「まーたタイラーがイコの世話焼いてる」

「イコ君の怠け癖は、タイラーが甘やかすせいもある気がするよね」

「そうそう、昔から全部やってあげちゃうから、イコが何にもしなくなるのよ」

「イコ君、もうタイラーを嫁に貰えばいいんじゃないかな」

「それがいいわ、お似合いよ」


 言いたい放題の二人は、楽しげに笑いながら焚き火を囲む。

 顔を顰めて鍋を混ぜるタイラーの隣へ座ったマリアテールは、「ねぇ」と声をかけて、おもむろに両手を差し出した。

 華奢な手に乗っているのは、きめ細かなサシの入った肉の塊。


「一緒に焼いて」

「これ……まさか緑蜥蜴(グリーンリザード)の肉か?」

「そう! いっぱいあるんだもの、食べなきゃ損よ!」

「お前、ほんとこういうの好きだよな……。腹壊しても知らねぇぞ」


 タイラーは渋い顔をしつつも肉を受け取り、手際よく串を作っていく。

 なんだかんだ言う割に、焚き火のそばに並んだ数はきっちり四本だった。

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