↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AHEAD~再動したパーティは止まれない~  作者: あこね
第四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
35/78

4話 準備運動


 イコルネの目の前を真っ二つになった鳥が吹っ飛んでいく。


「……っぶな!」

「ごめーん」


 後ろから聞こえたのは、全く悪びれる様子のない謝罪。

 軽く振り返るが声の主は見当たらず、代わりにタンッと軽い足音を鳴らして、マリアテールが前方の木の枝に着地していた。


 味方を巻き込んだトーカの爆撃の後、山となった緑蜥蜴(グリーンリザード)の死骸からは大量の血と魔力が流れ出ていた。

 新鮮な血肉と芳醇な魔力。

 それらは森に住む生き物たちにとって格好の餌だ。

 立ち込める匂いに早速寄ってきた魔物は、その場にいたイコルネたちへ血走った目で牙を剥いていた。

 

 襲い来る敵を斬り伏せつつ、イコルネは高く積まれた緑蜥蜴(グリーンリザード)の上へ登る。

 不安定な頂上へ器用に仁王立ちすると、目線は木々を見下ろせるほど高い位置にあった。

 視界の端で枝葉が不自然に揺れ動く。

 視線を向ければ、右目にはかすかに淡い金色が映り、おそらくマリアテールが木から木へと飛び移っているのだろう。

 着地と同時に揺らした枝からは、五十センチはあろうかという三ッ目の鳥が頭と体に別れてドサリと落ちた。

 縦横無尽な彼女から死骸の山を挟んでちょうど反対側では、タイラーが角のある熊へ大剣を叩き込んでいる。

 彼の身長の倍以上あるその熊は、低い風切り音を立てた大剣を脇腹に受け、そのまま数メートル横へ吹っ飛んでいった。

 そこからぐるりと九十度の位置には、細い両刃剣を手にしたトーカが尾の割れた狐の群れへ剣を振り下ろしている。

 素早く跳んで逃げる狐たちだったが、刃先に触れていないはずの身体は赤い魔力で絡め取られるように八つ裂きにされ、一振りで群れの半数が地に横たわっていた。


 各々に戦闘をこなす友人たちから視線を外すと、イコルネは木々の先へ意識を移す。

 赤紫に染めた瞳で視るのは、色鮮やかな緑の魔力が川のように枝分かれして流れていくその根元。

 寄り集まり、濃くはっきりと視える本流の始まる場所。


 ――みつけた。


「北に1キロ!」


 声を張りあげ指させば、マリアテールとタイラーが一斉に駆け出す。

 目の前の敵など後回しだと言わんばかりに魔物の間をすり抜け、競うように森の中へ消えていった。

 相変わらず信頼され過ぎているというか、なんというか。

 それを見越して必要最低限のことしか言わない自分も自分だが、言い間違いでもしていたらどうするつもりなのか。

 あまりに判断が早すぎる二人に苦笑していると、下からトーカに声をかけられる。


「イコ君も追うかい?」

「いや、ここ片付けてからにする」

「そっか。魔力遮断の《障壁》は張るけど、手伝いは必要?」

「大丈夫。こいつの調整も兼ねて準備運動したいから」


 腰の相棒をポンポンと叩くと、トーカは納得したように頷く。

 そして、軽く辺りを見回してからパチンッと指を鳴らした。

 音が響くと同時に光が地面を走り、山となる死骸を取り囲んでいく。

 光の線と線が繋がり綺麗な円を描いた瞬間、フッと消え、溢れ出ていた魔力はまるで壁でもあるかのように、外へは漏れ出さなくなっていた。

 魔法の発動を見ていなければ気づかないほど、自然な《隠蔽》と完璧な《障壁》。

 相変わらず見事な魔法に感心していると、「じゃあよろしく」と言い残し、トーカは二人の後を追って駆けていった。


 トーカの背中が見えなくなると、イコルネは大きく伸びをする。

 身体をほぐすように数度屈伸してから、ゆっくりとした動作で乙女ノ炎舞(メディカラ)を抜いた。

 辺りを見渡せば、イコルネを取り囲む魔物はざっと三十程度。

 友人たちが散々暴れていたお陰でだいぶ減ったので、それほど時間はかからないだろう。


「やるかぁ」


 間延びした声を出しながら口の煙草を吐き捨てる。

 血溜まりに落ちてジュッと小さく鳴った音を合図とするように、イコルネは蜥蜴の山を勢いよく飛び降りた。

 着地に選んだのは、魔物が一番密集しているあたり。

 構えた刀を重力のままに振り下ろし、目の前にいた角熊(ホーンベア)を脳天から両断する。

 刀を斜めに抜き切ると、動きを止めることなく隣の魔物へと振り抜いた。

 次々と斬り捨てられていく魔物に、思わず笑みがこぼれる。

 散々手こずった乙女ノ炎舞(メディカラ)の扱いは、待たされていた一週間の間、ソロの討伐依頼を手当り次第こなしたおかげで、ようやく掴むことができた。

 今では左右に流す魔力量の調節も、斬り方に合わせた身体の使い方も、それほど頭を使うことなく戦える。

 乙女ノ炎舞(メディカラ)という姉妹刀は、意のままに操ることができれば、面白いようになんでも斬れる――最高の相棒だった。


 腕を斬り落とし、胴を二つに割り、首を刎ねる。

 まるで柔らかいものを切っているような感覚に、夢中になって魔物を斬り捨てていく。

 刀を振ることは楽しい。

 何を切るかではなく、いかに理想と近い動きができるかを探究していくことが、心底楽しい。

 頭に思い描いた軌跡を、寸分違わず辿れた時の万能感は何物にも代えがたい。

 強敵討伐の武勇伝を語りたがる冒険者たちから、少しズレた感覚なのは自覚している。

 それでも、自らを高めていくためには、日常的に『斬ること』を許された冒険者という職が、自分に一番合っていると思えた。


 集まっていた魔物を狩り尽くすと、そのまま北へ向かう。

 友人たちが通ったであろう木々の間には魔物の死骸が点在し、赤い道ができていた。

 追跡に魔眼がいらないほど分かりやすいその道を進んでいくと、足元に散らばる死骸とは別に、木に打ち付けられた蜥蜴が目につき始める。

 道案内でもするかのように等間隔でぶら下がるそれらは、おそらくトーカの仕業だろう。

 すべて頭だけが潰されており、木の幹を濡らす赤色が、わざわざ見えやすい位置に揃えてある。

 彼なりの気遣いなのかもしれないが、やることの几帳面さと容赦のなさに、性格が透けて見えるようだった。


 目印のおかげで迷わず走ること数分。

 友人たちの姿を視界の先に捉えたのも束の間、奥にある異質なものに目を奪われる。

 森の景観に全く溶け込んでいないそれは、直径三メートルほどの黒い大穴。


 ――魔窟の入口だった。


 洞窟でも、木の洞でもなく、木立の真ん中にただ佇んでいるその穴は、まるで深淵の口が開いたかのようだ。

 しかし、先行したはずの三人は魔窟へ入る素振りを見せず、なぜかその場に立ち止まっている。

 自分が言うのもなんだが、彼らは標的が目の前にいるのに足並み揃えるような、できた人間ではない。

 魔窟を見つければ我先に飛び込んでいき、獲物の取り合いをするような者たちだ。

 それなのに三人揃って立ち止まっているということは、なにかトラブルでもあったのか――。

 ひとまず合流しようと近づいていけば、そこにいるのが友人たちだけではないことに気がつく。

 見知らぬ人影は三つ。

 紺色の魔力を纏った大柄な男を真ん中に、鉛色の長身な男と土色の小柄な男が、魔窟の入口を塞ぐように立ちはだかっていた。

 中央の男が野太い声を張り上げる。

 それを正面で受け止めているのは、淡い金色のマリアテールだ。

 内容までは聞き取れないが、どちらも興奮した様子で怒鳴り合いをしていた。

 イコルネは気配を消しながら近づく。

 彼らとの距離が、およそ二十メートルを切った時、大柄な男の腕が背中へと伸ばされた。

 背負われているのは、大きな戦鎚(・・)。

 背に伸びる太い柄を男の手が握った瞬間、イコルネは自身の足に《加速》をかけ、思い切り飛び出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。