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AHEAD~再動したパーティは止まれない~  作者: あこね
第四章

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1話 魔窟潰し


「ほらほら! シャキッと歩いて!」


 背中を押すマリアテールに、イコルネは気だるげな相づちを打つ。

 妙に張り切っている彼女は、後ろで呆れ顔のタイラーや、微笑ましげに眺めるトーカのことなど、視界に入っていないようだった。


 先日Cランクとなったイコルネを加え、Bランクパーティ《ただ前へ(アヘッド)》は正式に再結成を果たした。

 ギルドでの登録を済ませ、早速パーティ対象の依頼を受けようとした時、マリアテールが「復活の初陣はどうしても『魔窟潰し』がいい!」と駄々をこねた。

 イコルネ個人としては、手頃な魔物討伐あたりで早く金欠から抜け出したかったのだが、彼女は一度言い出したら意見を曲げない。

 報酬の良い討伐の依頼書を見せても「魔窟じゃなきゃ嫌!」の一点張りで、全く聞く耳を持ってくれなかった。

 そして、マリアテールが嫌がる依頼には、リーダーのトーカが絶対に許可を出さない。

 結局、彼女のお眼鏡にかなう依頼が見つかるまで、イコルネはソロで食い繋ぎながら待つことしかできなかった。


 マリアテールが訪ねて来たのは、それから一週間後。

「明日行くわよ!」とテンション高く言い放った彼女は、大きく『緊急依頼』と書かれた依頼書を握りしめていた。


 その翌朝。

 遅刻させまいと迎えに来たマリアテールに引きずられ、こうして日の高いうちから、四人で森の縁を目的地へと向かっている。

 煙草を咥えながら気だるげに歩くイコルネへ、マリアテールが不満そうに声を上げた。


「もう! 久しぶりのパーティ依頼なんだから、少しはやる気出してよ!」

「やる気はともかく、やることはちゃんとやってるよ……」


 そう言いながら欠伸をしたイコルネの右目は、鮮やかな赤紫に染まっている。


 今回受けた依頼は、Bランク向けの『魔窟潰し』だ。

 ターナリア大森林の北西部で魔物が多数目撃され、魔窟であると断定されたために、緊急依頼として出されたものらしい。

 依頼書に記されているのは、大まかな魔窟の発生位置と『爬虫類型の魔物多数』の文字だけ。

 事前情報としてはかなり乏しいものの、時間とともに危険度が増す魔窟は大抵の依頼がこんなもので、受けた冒険者は正確な場所や魔物の種類を現地で探らなければならなかった。


 先頭を歩くイコルネは、赤紫の視線を木々の合間に巡らせる。

 魔眼にはいくつもの魔力が映っているが、いまだ魔窟から発生した魔物の群れは見当たらない。

 しかし、どこか浮き足立つ森の空気には友人たちも気づいているようで、他愛のない会話を交わしながらも、周囲への警戒は怠っていなかった。


 それから北西へ二キロほど進んだ頃、イコルネは世間話でもするように後ろへ声をかける。


「ここから北に百メートルのところ、魔物がちょっと固まってる。その奥は十と二十くらいの群れが続いてるな。多分、全部緑蜥蜴(グリーンリザード)」

「おっけー、さすがイコ!」

「手前のはこっちに向かってるから、すぐ見えると思う」


 満面の笑みを浮かべたマリアテールが、跳ねるように前へ出ると「いっちばん!」と言い残して駆けていく。


「あッ! 抜け駆けしてんじゃねぇよ!」


 そう叫んだタイラーも、背の大剣を抜くなり、彼女を追って森へ飛び込んでいった。

 二人の姿はあっという間に見えなくなり、代わりに遠くから騒がしい物音が響き始める。


「そんな急がなくても、向かってきてるって言ってんのに……」

「イコ君は行かないの? 昔はあっち側だったでしょ」


 からかうように微笑んだトーカが歩調を早めて二人を追う。

 その背にため息をこぼしたイコルネは、バツが悪そうに頭を掻いた。


 獲物を見つけるなり、先を争うように駆け出していく光景は、昔と何一つ変わらない。

 まだパーティに遠慮の残るイコルネのことも、四年間の空白も、友人たちは些事だとばかりにお構いなしだ。


 当たり前のように仲間として接してくれる――それが堪らなく嬉しくて、イコルネは小さく笑いながら森へと入っていった。



 * * *



 イコルネたちが先行した二人に追いついたのは、森を北に一キロほど進み、木々が少し開けた場所だった。


 草の生い茂る地面には、体長二メートルはあろうかという緑蜥蜴(グリーンリザード)がひしめき合っている。

 鱗のこすれる鈍い音が響き、獲物に食らいつこうと牙を剥く姿は、なかなかの迫力だ。

 しかし緑蜥蜴(グリーンリザード)たちは、顔を上げると同時に上顎が跳ね飛んでいく。

 まるで噴水のように次々と鮮血を噴き上げるそれは、恐ろしい速さで駆けながら、口を開けた個体だけを斬りつけるマリアテールの仕業だった。

 イコルネの右目でも魔力の残像しか捉えられない彼女の速さは、知らぬ者が見れば風魔法か何かだと勘違いされるだろう。

 動き回るマリアテールとは対照的に、群れの中心を陣取って大剣を振るうタイラーは、自身の身長ほどもあるその武器で、襲い来る緑蜥蜴(グリーンリザード)を次々と薙ぎ払っている。

 胴体だろうと頭だろうと力任せに叩き切っていく姿は、大男かと錯覚させるほど圧倒的だ。

 およそCランク相当の魔物を易々と倒していく友人二人は、イコルネから見ても凄まじい。

 しかしそんな戦闘の中で、時折聞こえる金属音に思わず苦笑してしまう。

 音の正体はマリアテールとタイラーの刃が交わる音。

 昔から周りに合わせるということが壊滅的な自分たちは、パーティなんて言っても連携や助け合いなど、一度もできた試しがない。

 それどころか、獲物は基本的に奪い合いで、仲間同士の攻撃がぶつかることも日常茶飯事だ。

 駆け出しの頃の《ただ前へ(アヘッド)》を見て「まるでソロの寄せ集めだ」と先輩冒険者に言われていたのが懐かしい。


 激しい戦闘の中、マリアテールとタイラーは互いに避けるような素振りは一切見せなかった。

 邪魔だと言わんばかりに刃を交えては、何事もなかったかのように戦い続ける。

 この程度で怪我などしない――という信頼なのは分かるが、味方の攻撃を捌きながらの戦闘なんてのは、効率が悪いことこの上なかった。


 煙草を燻らせつつ、トーカとともに二人の戦闘を眺めていると、緑蜥蜴(グリーンリザード)の間を跳び回っていたマリアテールが一足飛びにやってくる。

 足音もなくふわりと着地すると、そのままトーカの足元へと座り込んだ。

 何事かと見れば、彼女は不貞腐れたように口を突き出している。


「もう蜥蜴ばっかり飽きた! 数が多いだけで手応えなくてつまんないのよ! 兄さん交代!」


 投げやりに文句を言う彼女は、とうに成人を超えた女性とは思えない、子供じみた口調だ。

 しかし、トーカにはそんな妹さえ可愛く見えるのか、目を細めて彼女の頭を優しく撫でる。

 構図だけでいえば犬と飼い主のよう――だが、美男美女のこの兄妹がやると、なぜか少し気品がある気がするので不思議だった。

 イコルネがそんなことを考えていると、愛おしそうに頭を撫でていたトーカが「よしっ!」と顔を上げる。


「とりあえず、数だけ減らしてみようか」


 そう言いながらゆっくりと両手を広げたトーカは、おもむろにパチンッと手を打ち鳴らす。

 その途端、鳥肌が立つほどの魔力が地を這うように広がり、瞬く間に充満していく。

 広がった魔力は不規則に収束し始めたかと思えば、大小様々な陣を作ると同時に、なんの予兆もなく地面を吹き飛ばし始めた。

 一つ一つの爆発には、それほど威力はない。

 だが、爆風にはトーカが攻撃の際によく使う《風刃》の魔法が混じっており、緑蜥蜴(グリーンリザード)も木々も地面も、辺り一帯を切り刻んでいく。

 どこに起こるか分からない爆発と、無数に飛び交う透明な風の刃。

 魔眼を使ってようやく予測できるそれらは、トーカとマリアテール以外のすべてを巻き込んでいき――

 案の定、足元で魔力が収束し始めたタイラーの名を叫びながら、イコルネも後ろへ飛び退く羽目になった。


 平らな地面がなくなるほどの魔法の嵐が終わると、大剣を盾になんとか防ぎきったタイラーが鬼の形相でこちらへ駆けてくる。


「おい、トーカ! ふっざけんなよマジで! 殺す気か!!」 

「早く逃げないからだよ」

「はぁ!?」

「この前、特定の魔力を自動で避ける範囲魔法を思いついてさ。試すのに丁度良かったんだ」

「俺らには全然当たってたんだが!?」

「僕とマリちゃん以外は対象に入れてないからね」

「ッてめぇ!」

「人間を判別できるかの実験もしたかったんだよ」

「確信犯じゃねーか! マジでいい加減にしろよッ!!」

「君らはちゃんと防げるし、いいじゃない」

「開き直ってんじゃねぇ!!」


 叫ぶタイラーをよそに、ようやく立ち上がったマリアテールが、唯一平らなまま残った自分の足元を見て首を傾げる。


「でも兄さん、《障壁》張ってたわよね?」

「まだ制御が甘いから念の為ね。おかげで改善点も見えたし、まだまだ実験を重ねないとかな」

「兄さんの魔法いじりは、もう趣味みたいなものね」

「んなことに俺らを巻き込むんじゃねぇ! 毎回毎回、お前の魔法は敵の攻撃よりタチ悪ぃんだよ!」

「でもほら、緑蜥蜴(グリーンリザード)は全滅したでしょ。結果オーライってことで、ね?」


 爽やかに笑って見せたトーカの指さす先には、息絶えた蜥蜴の山がいくつも出来上がっていた。

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