幕間 男子生徒の叫び
今年の進級考査が、二人組での実技試験だと発表されたのは、試験前日のことだった。
王立学院の進級考査は、学部や学科によって試験方法が大きく異なる。
中でも、タイラーの通う武学部剣術科は、毎年違う形式で実技試験をおこなうため、対策がたてづらく留年する者も少なくなかった。
そして今年は、試験直前に『二人組形式で指定の魔物討伐』と発表されたことにより、生徒たちは大慌てで自分の成績を託す相手を探さなければならなかった。
戦闘技術に優れている者や魔物の知識が豊富な者、索敵に長けた者などは、優良物件とばかりに声をかけられ、そこそこ腕の立つタイラーも、朝からひっきりなしに誘われ続けてうんざりしていた。
休み時間になり、タイラーは群がってくる者たちをなんとか撒きながら、先日偶然出会った一人の生徒を探す。
戦闘を直接見たことはないが、食費を削ってまで自分の武器を求める姿はかなり印象的で、干し肉をやったあの日以降も演習場へ行くところをよく見かけた。
友人に聞いた話では、武器を手に馴染ませたいがために、ほとんどの授業をサボって演習場へ入り浸っているんだとか――。
珍しい二刀流。
無類の刀好き。
実技にしか顔を出さない変わり者。
そんな噂を耳にした時から、相棒にするならあいつしかいないと決めていた。
「イコルネいるか?」
同じ剣術科だろうと目星をつけ、ひとまず隣の教室を訪ねる。
返事がないのを確認すると、他の教室へも声をかけていく。
剣術科すべての教室を当たってみたが、結局どの教室にもイコルネの姿はなく、他に思い当たる場所は一箇所しかないので、演習場へ行くことにした。
早足で中庭を突っ切っていると、気だるげに歩く濃い赤土色の髪が目に入る。
寝癖がついて跳ねた髪に、着崩した制服はシワが寄っていてなんともだらしない。
何人かの生徒と談笑しているようだが、口の端にはタイラーが袋ごと分けてやった干し肉がくわえられている。
周りが全く気にしていないところを見るに、普段からあんな感じなのだろう。
相変わらず顔色は悪いが、演習場で座り込んでいた時よりはいくらか元気そうな姿に安心した。
「おーい、イコ」
「あの! タイラー・シルベリートさんですよねッ!」
タイラーの声を遮るように、後ろから勢いよく声をかけられる。
振り向くと、同年代の中では背が低めの自分より頭一つ分低い位置に、キラキラと光る銀髪があった。
こちらを見上げる女子生徒は、くせ毛気味の髪を緩く編み込み、真っ直ぐに切られた前髪の下から空色のタレ目が覗いている。
彼女はずいっと距離を詰めると、捲し立てるように話し出す。
「あのですね! 私ライラ・ターナーと申します! 武学部剣術科で選択授業は魔法学と薬学を取っています! 以前からタイラー・シルベリートさんの豪快な剣技に憧れておりまして! というのもですね、私、剣術科に在籍していながら剣がからっきしでして。筋力が付きにくい体質のせいか、細身の剣でも持て余す始末なので、いっそのこと筋力は諦めて魔法で補う方向に変えようかと思っていた矢先、小柄ながら大剣を扱うあなたの噂を聞き、もしかして補助魔法の使い手なのではないかと思いまして、ここ一ヶ月ほど観察させていただいておりました! これは憶測なのですが、その体格で扱うのは難しいであろう大きな武器を使いこなせているのは、基礎的な《増力》の魔法による筋力強化、もしくは部分的な《加速》を組み合わせた……」
「ま、待て待て待て! いきなり何!?」
「あぁ、失礼しました! 本題といたしましては、進級考査の実技試験、私と組んでいただけないでしょうか! タイラーさんを研究するうちに見出した私なりの《増力》魔法を、実践の中で是非とも検証したく!」
「いや、マジで勘弁してほしいんだけど……」
「そんなこと仰らずに! あなたが入眠前に毎日おこなっている、魔力操作の練習方法など、とても参考になったのです!」
「……ッ!? ストーカーかよ!! 勘弁してくれ!」
叫ぶようにその場を逃げ出し、そのまま前を歩いていたイコルネの元へ走っていく。
「イコ! 俺と一緒になってくれ!!」
女子生徒に追いかけられながら、必死の形相で懇願する。
その場が凍りついたことは言うまでもなく――完全に言葉を間違えた。
自分でも驚くほどの声量で叫んでしまったせいで、居合わせた生徒たちが一斉にこちらを向き、ヒソヒソと小声で話し始める。
みるみる顔に昇る熱を感じながら、今すぐこの場を逃げ出したい衝動にかられていると、ゆっくりと振り返ったイコルネは、怪訝な顔で言い放つ。
「いや、俺そういう趣味はないから……」
「違っげぇ! 試験の話だ、馬鹿ッ!!」
次回の投稿は、明後日9月8日(火)となります。
※明日は活動報告にて登場人物紹介③を投稿しますので、興味がある方は覗いてみてください。




