表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AHEAD~再動したパーティは止まれない~  作者: あこね
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/20

1話 討伐依頼


 軋む扉を開けて冒険者ギルドに入ると、目立つ白金色の長髪が目に入った。

 イコルネは賑わうロビーを縫うように進み、掲示板の前に仁王立ちしているマリアテールへ声をかける。


「おはよう、マリー」

「おはよー! イコ!」


 振り返った彼女は満面の笑みを浮かべる。

 昨日羽織っていたパーティ揃いのローブは着ていないが、しなやかな黒のノースリーブに、臙脂色の巻きスカート、膝下まで覆うロングブーツという、身軽さ重視の彼女らしい装いだ。


「とりあえずこれ持って! 受付行こ!」


 テンションの高い彼女はいきなり数枚の紙を押し付けてくる。

「待って待って」と宥めながら紙に目をやると、それはFランク用の魔物討伐の依頼書だった。


「討伐依頼が……三枚?」

「そ! これ雑魚の討伐だから、ちゃちゃっと終わらせてランクを上げるの!」


「そんな勝手な……」とぼやくイコルネなど気にもとめず、彼女は腕を掴むと、ぐいぐい受付まで引っ張っていく。

 強引なところも人の話を聞かないところも、昔から全然変わっていない。

 そのせいで起こした騒動は数しれず、仲裁や後処理に走り回った学生時代が懐かしかった。


「ティアナー! これ受けるからお願い!」

「え、ちょっとマリー、俺まだ依頼の内容も見てないんだけど。…………あと頭に響くから、もうちょっと声小さくして……」


 頭を押えながら訴えるイコルネに「だらしないなぁ」とマリアテールが呆れる。

 彼女はそのままくるりと向きを変えると、ティアナと呼んだ受付の女性職員へ視線を移した。

 長い黒髪を高い位置でひとつに括った女性は、緊張した面持ちで口を開く。


「おはようございます、マリアテールさん。新規の依頼ですね。依頼用紙をいただけますか?」

「はぁい! ほらイコ、紙出して!」

「だから待ってって……これ、なんの討伐?」


 イコルネはとりあえず持っていた依頼書を受付のカウンターへ広げる。

 紙には大きく書かれた『討伐依頼』の赤文字と、右上にFランクを示す印。

 その下には討伐対象の魔物の種類や挿絵、報酬額、素材回収の条件などが細かく記載されていた。

 今回の依頼書には、それぞれ角兎(ホーンラビット)珠鼬(カーバンクル)飛鼠(エアラット)が書かれており、数は各十匹ずつ、魔核のみの回収が条件のようだ。

 十匹とはFランクにしてはなかなか多い依頼だが、この依頼を達成すれば既にEランクへの昇級ノルマが完了することになる。

 マリアテールはおそらくそれを見越して選んできたのだろうが、Bランクの冒険者が新人用の掲示板の前に何時間も仁王立ちしていたことを考えると、なんだか新人たちに申し訳ない気持ちになった。

 ティアナは依頼書を確認すると、カウンター奥の棚から資料の束を持ってきて説明を始める。


「こちら、西門側の森の縁で多数目撃されている魔物の討伐依頼ですね。魔物自体の討伐難易度はそれほど高くないですし、少し数は多いですが達成条件も討伐後に魔核を回収するだけなので、Fランク指定での依頼となります」


 説明を終えた彼女は資料から視線を上げると、イコルネをじっと見つめてくる。

 まるで品定めされているような視線に居心地の悪さを感じていると、彼女はおずおずと口を開いた。


「……あの、念の為確認なのですが。依頼を受ける際、ランク上げが目的ですと、他ランクの方との共同討伐は昇級ノルマ対象外となってしまうので……あまりお勧めはしておりません……」


 イコルネの真新しいプレートへちらちらと視線を送る彼女は、どこか落ち着きがない。

 昨日登録したばかりのFランク。それがいきなり多頭討伐の依頼を三件も受けようとしているのだから、気になって当然だろう。

 駆け出し冒険者が自分の実力を見誤り、命を落とす事例は少なくない。

 そして、そういった無謀を未然に防ぐのも、ギルド職員の仕事なのだ。

 だが、目の前で強引に依頼を受けさせようとしているのは、実力も実績もある高ランク冒険者のマリアテールで、しかもイコルネと親しげに話している。

 関係性を知らないティアナからすれば、不自然でしかない。

 口を出していいものか迷いつつ困っている彼女に、なぜか自信満々のマリアテールが食ってかかろうとする。

 イコルネはそれをなんとか遮り、依頼書を指さしながら尋ねた。


「あのさ、ここに『森の縁および草原』って書いてあるんだけど、最近ってこんな所にも魔物が湧いてんの? 前は、森の奥から滅多に出てこなかったと思うんだけど……」

「いえ、そういうわけではなく、数日前から王都西側の草原で魔物の目撃情報が多発しているんです。調査に向かった職員の報告によれば、原因は森の比較的浅い場所で石化鳥(コカトリス)が巣作りを始めたとのことで、他の魔物たちが縄張りを移しているのではないかと」


 ティアナが説明しながら手元の書類をめくろうとした時、じれったいというように、マリアテールがシワの寄った依頼書をもう一枚カウンターへ叩きつける。


「で、これが私が受けた依頼!」


 依頼書には『石化鳥(コカトリス)』の文字とともに、Bランクを示す印と討伐条件がびっしり書かれていた。


「私はコイツ。イコは逃げた他の魔物。これなら共同討伐にもならないでしょ!」


 渾身のドヤ顔を向けてくるマリー。

 そのあまりにも嬉しそうな顔につられ、イコルネは諦めたように苦笑した。


「そしたらこれでお願いするよ。何かあったらマリーに助けてもらうけど、その時は昇級ノルマの対象外にしてもらって大丈夫だから」

「か、かしこまりました」


 心配と動揺を隠せない表情のまま、ティアナは自分たちの依頼書を受け取ってくれた。


「最後に、こちらの欄へサインと遺品受取人をお願いします」


 差し出された紙には、依頼遂行中の弁償責任や報酬額の規定などが事細かく書かれていた。

 それらを軽く読み飛ばしたイコルネは、紙の一番下まで視線を滑らせ、下線の引かれた『受注者名』の空欄に自分の名前を書く。

 そしてその下、もうひとつの空欄。

 受注者が死んだ場合に荷物や報酬を受け取る者――遺品引受人を書く欄で手が止まる。


 昔なら迷いなく母の名前を書いていたその欄――。

 しかし、書ける人はもういない。


 暗い記憶が脳裏をかすめかけ、頭を軽く振って掻き消す。

 こんな小さな空欄で立ち止まっているわけにはいかない。

 横を見ると、マリアテールが『兄さん』と適当すぎる内容で提出しようとしていた。

 イコルネは止まっていたペンを動かし、大剣使いの友の名を書いて受付の女性に渡す。


「ありがとうございます、こちらで受理させていただきますね。それではマリアテールさん、イコルネさん、くれぐれも無理はなさらないよう、気をつけて行ってきてください」


 添えられた言葉はとても暖かい。

 無駄に心配させているのが申し訳ないイコルネは、安心させるように「いってきます」と微笑んで、マリアテールとともにギルドを後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ