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母から「あなたは奇跡の子なのよ」と告げられた瞬間、葵の胸の奥で何かが崩れ落ちた。
ずっと、名乗り出ないだけで、どこかに父はいるのだと信じていた。
会えない理由があるだけで、自分にも普通の家族のかたちが隠されているのだと思っていた。
けれど、母の言葉は違った。
父そのものが存在しない――そう突きつけられたのだ。
「私って普通の子じゃなかったの?」
声に出した瞬間、胸がきしむ。
父の面影を探すこともできない。
そもそも、自分の存在は何なんだろうか、奇跡なんて言葉、全く意味が分からない。
「奇跡の子」という響きは、誇らしいよりもむしろ重く、冷たい鎖のように葵の心を縛りつけていった。
「私は普通の子だよ…だって、そうでしょ。普通に学校に行って、勉強もそこそこだし、何か特別なんて言われるものもない。どこにでもいる普通の子だよ」
胸の奥では、違和感がくすぶる。
母は自分を「奇跡」と言ってくれたけれど、ニュースで見る健太くんの特別さと比べると、自分は本当に平凡でしかない——
「葵は葵でしかない、葵は私の子どもよ。葵も奇跡の子だけど、どんな風に生きるかは、あなたが決めれば良いのよ」
そう言われても、何も浮かばなかった。
胸の奥ではまだ戸惑いと不安が渦巻く。
でも、知りたい気持ちがそれ以上に強くなる。
幼い頃から抱えていた違和感がじわじわと滲み出てくるようだった。




