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葵は役所で自分の戸籍を確認した。
母・瑞稀の欄はあったが、父の欄には何も記されていなかった。
日常生活で父について聞いたことがない理由が、ここでひとつ、はっきりと理解できた。
「…父、いないんだ」
胸の奥がざわつく。幼い頃から漠然と感じていた「普通であること」と、母が父について語らない理由。
その違和感が、今、確かな形を持って胸に浮かび上がる。
葵は家に戻り、昔の写真や母の日記、古い手紙などを整理してみる。
父に関する情報はもちろん見つからない。けれど、幼い頃に母と過ごした記録や場所、出かけた日付など、些細な記録が残されていた。
「母は、どうして話してくれないんだろう…」
健太にも再度尋ねてみる。
「健太、昔のこと覚えてない? 私の父のこととか…」
健太は首を振る。
「ごめん…あんまり覚えてないな」
健太は葵の母が白石家から出た理由を知っていたが、健太にはそれしか言えなかった。
父がいないという現実と、母の口を閉ざす態度。
それでも葵は諦めず、資料の断片をつなぎ合わせながら、母の思いや自分の存在の意味を考え続ける。
幼い頃から漠然と抱えていた違和感が、今、探求心として確かな形になり、葵の胸を突き動かしていた。




