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そっと立ち上がり、椅子の背に手を添える。
「ごめんなさい……少し、外の空気を吸ってきます」
声は震えていたが、逃げるように店の外へ出た。
外の風は、夏の光とともに私を包み込んだ。
胸の奥の小さな命が、柔らかく動く。その鼓動を手のひらで感じながら、私は深く息をついた。
…
夫はしばらく、店の外に立つ妻の姿をじっと見つめていた。
太陽の光に照らされ、微かに汗ばんだ髪をかきあげる仕草。妻の手がお腹に触れる様子に鼓動がこちらにも伝わってくるようだった。
妊娠しない原因は自分の所為なんじゃないか
男として、不出来な自分。
それを認めれば、自分の価値が崩れてしまうような気がして、心の奥で必死に否定してきた。妻の幸せそうな様子を目の前にして湧き上がる妬みと、誰も自分を理解してくれない孤独感。
どうして、素直に喜べないんだ……。
胸の奥のもやもやが、言葉にならない怒りや妬みと入り混じり、胸を締めつける。
視線の先で、妻は立ち止まり、風に髪を揺らしながら遠くを見つめる。その表情には覚悟と、不安と、少しの希望が混ざっているように見えた。夫は、胸の奥で押し殺してきた感情をひとつひとつ思い返す。
あんなに望んでいた子どもが、今、妻のお腹にいる。
その現実だけは、否定できない。
彼はゆっくりと立ち上がり、妻を追いかけた。
店の外は木漏れ日がまぶしかった。




