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全国に広がった「奇跡の子の家族ネットワーク」。
月に一度のオンライン交流会には、北から南まで数十組の家族が画面越しに集まり、笑顔と涙が入り混じる時間が流れていた。
「紬ちゃん、大きくなったね」
画面の向こうから声が飛び、紬は照れくさそうに白石の膝に顔をうずめた。
その様子に、美咲も白石も自然と笑みをこぼす。
活動は順調に広がり、病院からは医療監修の協力が、企業からは寄付や物資の支援が届き始めていた。
白石も美咲も、忙しさの中に確かな手応えを感じていた。
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だが、その陰で、健太の体調は少しずつ変わっていった。
ある日、交流会の後片付けをしているとき、美咲はふと健太の背中を見つめた。
以前よりも肩の動きがぎこちない。手に力が入っていないようにも見える。
「…疲れてる?」
美咲が声をかけると、健太は笑って「大丈夫」とだけ答え、すぐに別の話題に変えた。
だが、その笑顔の奥に、何かを隠していることは美咲にも感じ取れた。
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夜、リビングで書類を整理していた白石は、キッチンから水を飲みに来た健太を見て、動きを一瞬止めた。
コップを持つ手がわずかに震えている。
その表情も、以前より少しだけ疲れが色濃くなっているように見えた。
母として胸の奥に冷たいものが広がる。
だが、声をかければ、健太はまた「大丈夫」と言うだろう。
その瞬間、白石はあえて何も言わず、その背中を見送った。
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それから数週間後、健太の動作のぎこちなさは少しずつはっきりしてきた。
物を落とす回数が増え、紬と遊んでいる最中に動きが止まることもあった。
美咲は白石に、小さな声で言った。
「…やっぱり、進んでますよね」
白石はゆっくり頷きながら、息を飲むようにして答えた。
「でも、私たちが一緒にいる。支える方法はいくらでもある」
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それでも活動は止まらなかった。
健太は、症状が進む中でも可能な限り会合や交流会に顔を出し、笑顔で参加者を励ました。
その姿は、多くの家族に勇気を与えた。
白石は心の中で強く願っていた。
――どうか、時間よ、少しでもゆっくり流れてほしい。




