6-9
健太は行動計画を練るため、まず母の白石に会った。
キッチンで湯気の立つお茶を淹れながら、白石は静かに息子を見つめる。
「世間を変えるっていうのは、簡単なことじゃないよ」
その声には、厳しさよりも心配の色が濃かった。
「反発されるかもしれないし、嫌なことを言われることもある。……それでも、進むの?」
健太は迷わずうなずいた。
「うん。美咲を守りたい。俺たちのことを、ちゃんと世間に知ってほしい」
白石は少し黙ってから、柔らかく笑った。
「健太。あなたは昔から、人のために動ける子だったね。でもね、守るっていうのは、ただ前に出て戦うことだけじゃない。時には引くことも、回り道も必要なの。……それを忘れないで」
健太はその言葉を胸に刻んだ。
母の声は、不思議と背中を押すようでありながら、同時に自分を落ち着かせてもくれる。
その後、小宮に会い、研究資料や世間の反応について聞いた。
「公にすれば必ず批判も浴びる。特に匿名での攻撃は避けられない」
小宮の声は冷静だったが、健太の心は揺れなかった。
「批判があっても、黙っているよりはマシです」
その一言の中に、美咲を守る強い想いがあった。
しかし、初めて会った記者は最後にこう言った。
「世間は“特別な存在”を受け入れる準備ができていない。記事にするには、もう少し話題性がほしい」
その夜、美咲と会った健太は、少しだけ弱音を吐いた。
「俺たちのことを、ただの見世物にされるかもしれない」
美咲はそっと手を握り返し、優しく言った。
「無理はしないで。守るって、必ずしも戦うだけじゃないと思う」
その瞬間、母の言葉がふとよみがえる。
回り道も、守るための道のひとつ——。
健太は静かに、美咲の手を握り返した。




