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見慣れない男の影は、その日だけでは終わらなかった。
数日後、美咲が一人で駅へ向かう途中、後ろから声をかけられた。
「君、健太くんの彼女だよね?」
振り返ると、手に小さな録音機を持った男が立っていた。
スーツ姿だが、その笑顔は妙に薄気味悪い。
「やっぱりそうだ。少し話を――」
「やめてください!」
美咲は声を震わせて拒絶し、そのまま駆けだした。
しかし翌日、学校の正門前で同じ男が待っているのを見つけ、足がすくんだ。
健太はすぐに異変を察した。
「……何された?」
「大丈夫。何もされてない。でも……怖い」
美咲の声は、初めて出会った頃よりずっと小さかった。
その夜、健太は母に電話した。
「……俺、どうしたらいい?」
受話器の向こうで母はしばらく黙った。
けれど、その声はいつもより柔らかかった。
「健太……大事な人を守るっていうのは、ただ隣にいることだけじゃないんだ」
「……」
「時には距離を置くことも、その人を守る方法になる。
でもね、それは“諦める”ってことじゃない。
離れても、心の中でつながっていられる関係もあるんだよ」
健太は唇をかみしめた。
母の言葉は、自分の胸の奥の痛みを優しく撫でるようで、同時に深く突き刺さった。




