6-5
美咲と健太の交際は、静かに、でも確実に深まっていった。
学校の帰り道、互いの歩幅を合わせて歩き、時折交わす視線に胸が熱くなる。
美咲の友達は、健太が「奇跡の子」であることを知っているせいか、妙に二人を気にかけるようになった。
その優しさはありがたいけれど、どこか壁のような距離も感じられ、美咲の胸に小さな棘のような違和感を残した。
母には、付き合い始めたことだけを明るく報告した。
「ちゃんとした子? 勉強は?」
母の質問に、美咲は笑って「大丈夫」と答える。
ただ、その「大丈夫」の中に、たったひとつだけ伏せたことがある。
それは――健太が、世間で噂される“奇跡の子”であるという事実だった。
数週間後の休日。
リビングのテレビでは、偶然にも特集番組が流れていた。
「――こちらが、数年前に生まれた“奇跡の子”たちのひとりです」
画面には、幼い頃の健太の写真と、名前がはっきり映し出される。
「……え?」
母の手が止まった。
横でスマホをいじっていた美咲は、心臓が跳ねるのを感じた。
次の瞬間、母の視線が鋭く彼女に向けられる。
「美咲。この“健太”って……あの健太くん?」
息が詰まりそうだった。
今まで守ってきた秘密が、あまりにあっけなく崩れ落ちる音が、胸の奥で響く。
母は言葉を続けた。
「どうして黙ってたの? あんた、本気で……」
言いかけて、母は息をのむ。感情が混ざりすぎて、うまく言葉にならないようだった。
美咲は必死に口を開いた。
「お母さん、健太は健太だよ。奇跡の子とか関係ない」
その声は震えていたけれど、瞳の奥には揺るぎない想いがあった。
母は何も言わず、ゆっくりと目を伏せた。
それが理解の沈黙なのか、反対の予兆なのか――美咲にはわからなかった。
だがその日の夜、スマホの着信履歴には、知らない番号からの着信が残っていた。
そして次の日、学校の帰り道、見慣れない男が二人の後をつけていた。
美咲はすぐに悟った。
――世間が、二人に迫ってきている。




