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朝の陽光が薄くカーテンを透かして部屋に差し込む。瑞稀はそっと目を開け、隣で静かに眠る娘の顔を見つめた。柔らかな髪の感触に触れ、自然と口元がほころぶ。
「おはよう、葵」
小さな声で呼びかけると、葵は目を覚まし、じっと瑞稀を見つめ返した。無垢な瞳が彼女の心を和ませる。
隣の部屋からは、白石が息子の健太を抱き上げる声が聞こえてくる。
「おはよう、健太。今日も元気いっぱいだね」
その声に瑞稀は微笑みを返し、ふたりで過ごす穏やかな朝の時間に安らぎを感じていた。
二人は都心のマンションで一緒に暮らしながら、それぞれの子どもたちと向き合っていた。
白石は日中は都会の病院で医師として忙しい日々を送り、夜になると家に戻り、瑞稀と子どもたちの笑顔に癒される。
キッチンでは瑞稀が葵のミルクを用意しながら、白石と目が合う。互いに疲れた表情を見せながらも、家族としての絆を感じていた。
時折、子どもたちの世話を分担し合い、互いに支えあう日々。
離島での出来事が遠く感じられるほど、穏やかな時間が流れていた。
しかし、その裏側には白石の胸を重くする思いがあった。
夜、子どもたちが眠った後、白石は都会の病院の休憩室で小宮からの連絡を受け取った。
「新たにSRY遺伝子保有の患者が見つかった。増加傾向は確実だ」
白石は眉をひそめながらスマートフォンを握り締めた。
「離島だけの話かと思っていたが、ここでも起きているのか……」
医師として、母として、研究者としての重責が静かに彼女の胸を締めつける。
「答えはまだ見えない。でも、逃げるわけにはいかない」
窓の外の街灯が揺れる都会の夜景を見つめ、白石は深く息をついた。




