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夜半、白石のスマホが震えた。
画面には、見覚えのある名前――瑞稀。
通話ボタンを押すと、受話口から小さく押し殺した声が聞こえた。
「……助けて」
背筋に冷たいものが走る。
「瑞稀さん? 今どこにいるんですか」
しばらく沈黙が続き、ようやく答えが返ってきた。
「港の近くの……倉庫街。誰にも言わないで」
背景には、赤ん坊のかすかな泣き声。
白石は心臓が早鐘を打つのを感じた。
「分かりました。すぐ行きます」
電話を切ると同時に、小宮へ連絡を入れる。
潮風の匂いが濃くなる倉庫街の一角。
白石が指示された場所にたどり着くと、古びたシャッターが少しだけ開き、中から瑞稀の顔がのぞいた。
頬はこけ、目の下には深い隈。腕には毛布に包まれた赤ん坊がいた。
「……やっぱり、あの子のこと、もう隠しきれない」
瑞稀はそう言って、白石の胸元に視線を落とした。
赤ん坊の瞳は、母と同じ琥珀色に光っていた。
小宮は一瞥して口を開く。
「政府が動き始めています。政府の保護施設に入れば、安全は確保できます。ただし、外界との接触は制限される」
瑞稀は即座に首を振った。
「そんなところに入ったら、この子は……ただの“標本”になる」
会話の間にも、赤ん坊の琥珀色の瞳がこちらを見ていた。
小宮は数秒黙り込み、やがて低い声で言った。
「……分かった。俺が守る。白石さん、あなたも協力してください」
白石は迷わずうなずいた。
「もちろん。私の家に来て」
こうして瑞稀と赤ん坊は、白石の部屋で暮らすことになった。
夜の倉庫街を離れるとき、誰も口にはしなかったが、三人とも、この選択が平穏とは程遠い未来を呼び寄せることを、薄々感じていた。




