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小宮はすぐに会議室へ向かい、端末を叩きながら状況を確認した。
SNSでは「遺伝子が母親と同じ」「男児も誕生」「人類の新たな扉」などと無責任な見出しが拡散されている。
写真こそ出回っていないが、記事の描写から場所や人物を割り出すのは時間の問題だった。
政府からの連絡はまだない。
だが、このままでは外部の取材班が先にたどり着く可能性が高い。
小宮はデスクに手をつき、短く決断した。
「……彼女たちを移動させる」
その直後、白石からの着信。
声は焦りに満ちていた。
「瑞稀さん、昨日まで居た場所からいなくなってます。知り合いにも連絡を取っていないみたい」
「……彼女、もう動いたか」
「でも、子どもはまだ小さい。人目を避けて暮らすのは……」
白石の言葉は途切れ、代わりに小さな息を呑む音が聞こえた。それが心配のためか、恐怖のためか、小宮には判断がつかなかった。
小宮は端末を操作し、政府プロジェクトの専用回線へ接続する。だが返ってきたのは事務的な声だった。
「PPR計画に関する情報は全て極秘です。移動許可には理由書と承認が──」
「理由ならある。彼女が捕まれば、この国も世界も混乱する」
通話を切ると、小宮は白石に連絡した。
「準備してくれ」
冷たい蛍光灯の下で、小宮の目は決意の光を帯びていた。守るべきは研究データではない。
未来を担う、あの「奇跡の子」なのだ。




