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奇跡の胎動  作者: めい


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13/86

3-3


厚い防音扉が閉まる音が、腹の底まで響いた。

室内は冷房の効きすぎた空気と、消毒液の匂いで満ちている。

壁一面のスクリーンには、染色体配列の画像と、地図上に点在する赤いマーカーが表示されていた。


「これが、現在までに確認されたSRY遺伝子の保有者の分布です」

白衣の若い研究員が指し棒で地図を示す。

赤い点は、離島だけでなく都市部にも広がっていた。


小宮は無意識に眉をひそめた。

この短期間で、これだけの数が見つかるはずがない。

つまり──前から存在していたが、調べられていなかっただけだ。


「単為生殖による出生例は、これまでに計八件。そのうち二件は雄」

研究員が次のスライドを映す。

遺伝子解析のグラフが並び、全てに共通する特徴が赤字で示されていた。

 

母体の核型はSRY遺伝子の転座があり

環境ストレス下で性決定遺伝子SRYが異常発現

女児は遺伝的に母とほぼ同一、男児は性決定遺伝子SRYがY染色体領域に相当する形で活性化していた。


男は内閣官房の特命担当官だと名乗った。

机上の資料には「PPR計画(Population Preservation and Reproduction)」と印字されている。

要は──人口維持と再生産のための国家プロジェクトだ。


「だが、倫理的な問題が──」

小宮が口を開きかけた瞬間、担当官は遮った。

「倫理より優先すべきは国家の存続です」


会議室の空気が一段と重くなった。

その時、小宮はスクリーンの片隅にある新しいデータを見つけた。SRY遺伝子の保有者の出産率が、過去三年からデータが存在していた。


「これは偶然の産物とは思えません……」

小宮は声を潜めて呟いた。


しかし特命担当官は冷たく言い放つ。

「それが事実だとしても、我々は国家の存続を最優先する。倫理的な議論は後だ」


会議室の重苦しい沈黙の中で、研究員たちは表情を曇らせた。だが誰も異論を唱えられなかった。


小宮は胸の奥に沸き上がる疑念と戦いながら、決意を新たにした。

「真実を解き明かし、この命の未来を守らなければならない」


だが、その決意が、彼をさらなる深淵へと引き込むことになるとは、まだ誰も知らなかった。


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