3-2
白石真理子の出産の日が訪れた。
元気な男児がこの世に生を受けた。
医療スタッフは慎重に赤ん坊の状態を確認し、すぐに遺伝子検査を開始した。
白石は母としての喜びとともに、医師としての使命感が入り混じった複雑な思いを抱いた。
この子の存在は、島の奇跡の子たちの謎を解く鍵であり、同時に新たな科学の扉を開くものでもあった。
小宮ははすぐに分析を始めた。
解析結果が出た瞬間、小宮は息を呑んだ。
Y染色体が、あった。
「……そんな馬鹿な」
彼は論文データベースを漁った。
昆虫、爬虫類、特にコモドオオトカゲやヘビの一部が、環境ストレス下で単為生殖によって雄を生む例は報告されている。しかし、哺乳類では理論的に不可能とされてきた。
顕微鏡モニターに映る染色体配列を見つめながら、
小宮は指先で机を無意識に叩いた。
母親の染色体にはSRY遺伝子の転座が見つかった。
そして、今回の男児はその配列から、性染色体の一部が組み替えられた新しい構造を持っていた。それは通常のYではなく、母親のX染色体の一部が変異し、性決定遺伝子SRYがY染色体領域に相当する形で活性化していた。
これは進化なのか、それとも種の悲鳴なのか。
背後で、再びあの声がした。
「小宮くん、例の件……政府プロジェクトが動き出した。君も来てもらう」
所長の吉村が無表情で立っていた。
「政府……?」
「詳細はそこで聞け。ただし、この現象は国外に漏らすな」
小宮の胸に、研究者としての興奮と、得体の知れない不安が同時に広がっていった。これがもし人類全体に広がれば…




