4:決戦! 女湯 その2
「はいそこまでですよ」
「え?」
ハンナではなくてリンナが笑顔で言うと、イッカを掴んでいたはずの俺は床に押さえつけられていた。いつの間に何をされたのかわからなかった。
「なんっ!?」
勇者の甲冑を身につけた俺より速く動けて、俺より力が強くヤツなんているとは――
「ジェイト、ゴメン」
俺の上に乗った奴が謝った。
「セイルか!?」
「ボクは大丈夫なんだけど、勇者がなんかの術にかかった」
「なんとか出来るか?」
「口だけ動かせる」
仕方ない。甲冑を脱いでまず脱出か。そう考えていると、ファミがリンナに詰め寄り、指を突きつけていた。上手い具合に俺とリンナの間にいる。タイミングを合わせて奇襲するか。
「貴様ら、メディアの下っ端どもか?」
ファミが魔王の声音で詰問した。さっきはファミの意識が操られてたのか、魔王は対抗出来なかったのかわからないが、今は大丈夫のようだ。
「失礼な! 我らは第2王女エリザベト殿下直属の諜報機関《鮮血の薔薇》の執行員だ」
「わっ、出たよ、問題の妹」
思わず声を上げてしまって、リンナににらまれる。ローネから妹怖いと聞いてたからなぁ。
「お美しいエリザベト様を化物のように言うとは……。ここでとどめを刺しておかなければいけないようですね」
リンナはファミと俺に刺すような目を向けたまま、視線を俺の上に乗ったセイルに向けた。操るのに相手を見てないといけないのか?
「後はよろしくねー」
ハンナがローネを抱えたまま歩き去る。ハンナは男の子みたいとはいえ子供の背格好。ローネは俺よりちょっと身長が高いし、筋肉質だ。あの体格差をものともしないってのはなんか秘密があるのか。
予定変更だ。ローネを取り戻す。魔王頼んだぞ!
「裸が好きっ!」
叫ぶと、フッと背中から押さえつける力が消えた。一気に起き上がり、ハンナを追う。
「行かさない!」
「余所見している余裕なぞあるのか?」
リンナと魔王の言葉が交わされ、なんか破壊音が轟く。が、俺は真っ直ぐにローネを抱えたハンナに向かって走っていたので何が起こっているのかわからない。
「装着っ!」
走りながら勇者の甲冑を再装着。足を緩めることなく一気に追い上げる。
よし、追いついた!
「こら待て、イッカ!」
「イッカじゃないっての! 私には殿下にもらったハンナって立派な名前があるの! それを汚すヤツには死あるのみ!」
ハンナが空いた片手を振り返りざまに一閃した。俺に向かってなにかが飛んでくる。
ガツンガツンと鉄の塊をぶつけられたような音と衝撃。いったい何投げつけたんだ?
「わあ! スッゴい頑丈! 岩の塊ぶつけられても大丈夫なんて!」
「そんなもん投げるな! 死ぬだろ!」
はしゃいだ声を上げるハンナに突っ込む。
一閃した腕で温泉の岩を砕いて俺に向かって放ったのだ。
片手で意識を失ったローネを抱きかかえたまま、あの身軽な動き。おまけにあんな代物を投げつけるとは、どんだけ力があるんだ。
「ジェイト、避けて」
感心していると、静かな声が背後から注意を呼びかけた。セイルってことは、つまり――
「あ、こら、また勇者かっ!」
背後からセイルが甲冑に跳びかかってきた。
「ジェイトごめん」
勇者は俺の首をグイッと締めつける。言葉と態度が不一致過ぎる!
しかし、この状況じゃ甲冑を脱げない。勇者に首を絞められて無事なのは甲冑のおかげで、脱いだら窒息してしまう。それに脱いだところにまた岩を投げつけてきたら潰されてしまう。
ハンナのヤツ、あんな軽そうなくせに考えて手を打ってるな。
「じゃあ、そこで遊んでてね~」
「くそっ! ローネ!」
ハンナはヒラヒラと手を振って姿を消す。
俺の叫びは虚しく虚空に消えていった。
また仕事モードになってしまうので、しばらくお休み!




