4:決戦! 女湯 その1
俺は今、絶壁を登っている。
なぜかというと、そこに女湯があるからだ。
というのは、嘘だ。女性客がいない、というか、すでに女性客が男湯に流れ落ちている状態で、なんで女湯に好き好んで行きたがるヤツがいるか。いやいない。おまけに女湯は滝の上にあるのだ。
が、ローネはまだ女湯にいるはずだった。刺客が来ている以上、助けないわけにはいかない。
「ジェイくん、早く登ってね~」
「ジェイト、ファイト」
「おまえらなぁ……」
必死になって壁を登っていく俺を横目に軽やかに追い抜いていく幼馴染み――宙を飛んでいくファミと、絶壁を走っていくセイル。
「くおーっ!」
俺は甲冑の力を最大に使って、手甲を岩に叩き込んだ。ボコッと小さく穴が空き、それを手がかりに体を引き上げる。それを猛スピードで繰り返し繰り返し繰り返し繰り……ついに女湯の頂を登り切った。
「やっ、やったぞーって、なんか、あんまり達成感がないな」
「ジェイくん、ご褒美に脱ぐね!」
「ジェイト偉いから見せてもいい」
ふたりがまた普段なら言いそうもないおかしな事を言い出した。温泉のせいか? 湯あたりでもしたのか?
「いいから水着を脱ごうとするな」
「ジェイくん、やっぱり不能疑惑浮上だー」
「ジェイトは朴念仁」
「不満そうな顔をするな! それよりローネを探せ」
「う~んとね~、ローネちゃんはね~」
ファミは周囲をぐるっと見回すと、腕を伸ばして指さした。
「あっち?」
指の先が微妙に左右に揺れているのが気になるが、大体湯本の方だろうか。目の前にある大浴場はその先の湯本からお湯が来ている。
「よし、行くぞ」
大浴場はほとんどお湯がなくなって、風呂の中というより、水たまりになっていた。湯本からの湯はそのまま滝になって男湯に流れ落ちていく。
その湯の流れの大本は、亀のような巨大な岩が居座り、その割れ目から湯が噴き出していた。
その岩の上にローネがいた。
しかも、素っ裸で張り付けのように大の字になっていた。意識はないようだ。
しかし、ローネの裸はすでに甲冑脱がしっこの際に見てるし触ってるから珍しくはないのだが。いや、さすがに股間の大事な部分までは見てなかったな。ファミとセイルもそこまではさらけ出してなかったし。
それはそれとして、綺麗な体だ。
「ジェイくん、やっぱりファミもあれくらい出した方がいいかなー?」
「ジェイト、目が皿」
「そうじゃない! 罠があるかと探っているんだ!」
「ないんじゃないかなー?」
「ローネ助ける」
セイルが動き出すと、
「はい、そこまでー」
ローネの背後から見知った顔がひょいと現れた。
「あれ? イッカじゃないか。おまえ、溺れてなかったか?」
「ジェイトくん、助けに来てくれるかと思ったのにさ、来てくれないんだもん」
「場所がわからなかったからな」
「あ、そっか。教えてなかったかー。失敗だー。あそこなんだけどね」
一角族の少女はそう言って、右手にある女湯の入り口を示した。
「呼びつけてどうするつもりだったんだ?」
「ん? 助けに来てくれたらまとめて捕まえられるかなーって思ったんだけど」
「なぜ温泉に誘い込んだ?」
「裸にすれば武器とか持ち込めないから、こっちが有利になるって思ったんだけど、甲冑持ち込んじゃうんだもんなー。反則だよ」
イッカは肩をすくめてローネの体に手を回す。
「じゃあ、ローネはウチの依頼人が欲しがってるからもらっていくね。リンナ、後よろしく」
イッカがローネの胸に手をかける。たぷんとした胸が指の形に変形し、俺は思わず自分で掴んだ時の感触を思い出してしまった。
「ジェイくん、手がおっぱいの形になってるよ?」
「はっ!?」
我知らず手を胸の前に掲げてにぎにぎしていた。
「いや、違うんだ! ローネの胸を思い出したのは事実だが、やましい思いではなくてだな、つまり、そう! 羨ましかっただけだ!」
「ジェイくん正直だねー」
「ジェイト最低」
「こいつが最低なのは確かだが、逃げるぞ?」
魔王の声が割り込み、俺は我に返った。どうしてあんなにおっぱいに執着していたのかわかるけれどもわからない。
「リンナ! 術のかかりが浅いじゃない!」
「ごめーん! だって、相手が魔王と勇者の甲冑なんだもん! 無理!」
イッカの背後からもうひとり一角族の少女が現れた。というか、そっくりの双子か?
「リンナでっす!」
「私はリンナの姉ハンナ」
「いや、お前はイッカだろ」
「それはあんたが勝手につけた名前でしょーが!」
「いやもうイッカで決まってるから」
「その前からハンナで決まってるんですよ!」
「お姉ちゃん、早く逃げないと仕事失敗するよ?」
「ああ、そうだった! じゃあね!」
「じゃあねじゃねぇよ! 行かせるわけないだろ。よくわかんねえ術もかかってないってのに」
「ああ、そうだった! なんてね」
イッカ改めハンナは軽々とローネを抱え上げると、駆け出した。
「待てっ!」
勇者の甲冑の力を一気に開放して地面を蹴る。矢のように跳んだつもりだった。イッカを掴んでローネを奪い返す。ついでにイッカを軽くお仕置き。そんな流れがイメージ出来ていた。
が――。




