【新大陸編】近代経済
1. 黄金の新大陸と、不敵な挑戦状
大陸全土を巻き込んだ大十字連合軍の包囲網を、一滴の血も流さずに「経済デフォルト」と「吸魔性兵糧」だけで完全無血開城させてから数ヶ月。
グラン・エルバ帝国は、敗戦国から巻き上げた天文学的な賠償金と関税利権を背景に、歴史上類を見ない大繁栄の絶頂期を迎えていた。
しかし、世界の中心に上り詰めたルミエラ・フォン・アルカディアの頭脳が、その程度の成功で満足して止まるはずがなかった。
「――ここが、世界のフロンティア(最前線)、『新大陸エルドラド』ですのね」
果てしなく広がるエメラルドグリーンの海。その向こうにそびえ立つ、未開の巨木と未知の古代魔導鉱脈が眠る広大な大地。
帝国の最新鋭魔導戦艦『ミネルヴァ号』の甲板に立ち、潮風に燃えるような赤髪を揺らしていたのは、帝国の最高経済顧問であり、未来の女帝として名実ともに世界の頂点に立つルミエラだった。
今日の彼女は、船上での活動を考慮した白銀のトリムが美しい漆黒の提督服を纏い、その腰にはギルバート皇太子から贈られた帝国最高位の儀礼剣を佩いている。その佇まいは、もはや一国の令嬢などという器を遥かに超え、世界の運命を切り拓く若き女帝そのものだった。
「お嬢様、新大陸の最大貿易港『ポート・ロイヤル』への入港準備が整いました。……ですが、港の空気は、あまり歓迎ムードとは言えないようでございます」
背後に控える執事のハンスが、単眼鏡を覗き込みながら不敵な笑みを浮かべた。
それもそのはずだった。この新大陸は、未開の天然資源や古代の超魔導具が無限に眠る黄金の大地であるが、同時にその利権を巡り、海の向こうのもう一つの超巨大勢力が利権を独占してきた無法地帯でもあったのだ。
その勢力の名は、『ヴァンダル連合共和国』。
帝国のような皇帝を戴く国家ではなく、大陸西部の巨大な7つの商会が合議制で支配する、純粋な「資本の力」だけで成り立っている商業超大国だ。彼らは強大な民間魔導私設艦隊を擁し、新大陸の原住民たちと狡猾な「不平等条約」を結ぶことで、金や銀、魔力結晶をタダ同然の価格で独占搾取し、莫大な富を築き上げていた。
「ハハハ! 待っていたぞ、帝国の『死神』の飼い犬、いや……『悪役令嬢』のルミエラ相談役とやら!」
ミネルヴァ号が港の桟橋に横付けされると同時に、豪華絢爛な、だがどこか成金趣味の派手な衣装を身に纏った一人の男が、数十名の私設兵を従えて大股で歩み寄ってきた。
男の名は、アントニオ・バロック。ヴァンダル連合共和国を牛耳る「セブン・チャームズ(七大商会)」の一つ、バロック重商会の若き総帥であり、新大陸の総督の座を狙う、傲慢と計算高さの塊のような守銭奴だった。
「わざわざ古い大陸からこんな僻地まで、何の用だ? まさか、この新大陸の『黄金のパイ』を、自分たちも一口齧れるなどと思ってやってきたわけではあるまいな?」
アントニオは、ルミエラの提督服や美しい容姿を値踏みするように見つめると、手にした黄金の杖を地面にコツンと突き、下品な笑みを浮かべた。
「ここは君たちが得意とする『国家の威信』や『血統の誇り』など、1リーブルの価値もない『資本主義(カネがすべての世界)』だ。この新大陸における全貿易航路、全採掘権の**92%**は、すでに我がヴァンダル共和国が法的に独占契約を結んでいる。帝国がどれほど軍隊を誇ろうとも、この経済的『不平等条約』の牙城を崩すことは、天地がひっくり返っても不可能だ。……お嬢ちゃんは大人しく、帝都へ帰って刺繍でもしているんだな!」
アントニオの後ろに控える共和国の商人たちが、一斉にドッと品のない笑い声を上げる。
彼らは、帝国が先日の戦争で4ヶ国連合を破ったことは知っていたが、それはあくまで旧大陸の中での武力やハメ技の類であり、自分たちの牙城である「新大陸の独占資本契約」という法と数字の防壁の前には、どんな軍隊も無力であると、狂信的に確信していたのだ。
だが、その傲慢な挑発を受け、ルミエラは怒るどころか、扇を口元に当てて、クス、クス、と深海のように冷たく、だが最高に愉悦に満ちた笑い声を響かせた。
「あら、アントニオ総帥。資本の力、そして独占契約、ですか。……ルミナス王国のバカ王子たちよりは、ほんの少しだけマシな言葉を使うのね」
ルミエラはゆっくりとタラップを下り、アントニオの目の前でピタリと足を止めると、その知的な瞳を妖しく光らせた。
「ですが、あなた方の言う『資本の力』なんて、私に言わせれば、ただの『未開の原始的な物々交換』の延長に過ぎませんわ。――あなた方が誇るその独占契約という名の砂の城、私がこれから、わずか数日間の『近代経済学』の講義で、跡形もなく破産させて差し上げますわよ?」
2. 『先物取引』という名の不可視の牙
その翌日、ポート・ロイヤルの大交易網の中心にある、共和国主催の『中央商品取引所』。
そこは、新大陸で採掘された大量の『純魔力結晶』の価格を決定する、世界最大の現物取引の場だった。
「さあさあ! 本日も採れたての上級魔力結晶、1ラージ・ボックスあたり金貨40枚からのスタートだ! 買い手はいないか!」
オークションの活気ある声が響く中、アントニオをはじめとする共和国の商人たちは、二階のVIP席から、現物が右から左へ動き、莫大なマージンが自分たちの懐に入る光景を満足げに見つめていた。新大陸の原住民を奴隷同然に働かせ、タダ同然で掘り出させた結晶を高値で世界に売る。このシンプルな搾取システムこそが、彼らの絶対の資金源だった。
そこへ、白磁の書類ホルダーを携えたルミエラが、ハインリヒや帝国の数理官僚を引き連れて優雅に入場してきた。
「おいおい、悪役令嬢のお出ましだ。何をしにきた? 今日の現物結晶は、すでに我が商会がすべて買い占めているぞ。君たちに回す端切れなど、1グラムも存在しないな」
アントニオが上から目線で嘲笑する。しかし、ルミエラは取引所の掲示板を見上げながら、手元の黄金の魔導ペンを軽快に回転させた。
「アントニオ閣下、私は現物(その場にあるゴミ)など、1グラムも買いにきておりませんわ。――私が本日、この市場で開始いたしますのは、現物ではなく**『3ヶ月後の魔力結晶の引渡約束(先物取引・フューチャーズ)』**の売買ですわ」
「さ……、先物取引……? 3ヶ月後の約束を売買するだと……!? 何をバカなことを言っている!」
アントニオや周囲の商人たちが眉をひそめる。彼らの生きる時代には、まだ「今ここにある現物」を取引する概念しかなく、未来の価格を指標化して売買するという、近代的なデリバティブ(金融派生商品)の概念が存在しなかったのだ。
「ハインリヒ男爵、始めなさい」
「はっ!」
ルミエラの合図とともに、ハインリヒが市場のシステム(魔導掲示板)に、ルミエラが開発した『先物決済術式』を同期させた。
『3ヶ月後に引き渡す魔力結晶を、1ボックスあたり【金貨50枚】の固定価格で、帝国が【10万ボックス】一括で「空売り(ショート)」いたしますわ』
空売り。それすらも、この世界の守銭奴たちには理解不能な概念だった。
「な、何を考えている! 3ヶ月後に引き渡す結晶の約束を、今持ってもいないのに売るだと!? しかも現在の市場価格(金貨40枚)より遥かに高い金貨50枚で売るなど……帝国の頭脳は頭が狂ったのか!?」
「狂っているかどうか、今に分かりますわ」
ルミエラは不敵に微笑むと、手元の魔導書状を一枚、アントニオの前に滑らせた。
「アントニオ閣下。あなた方が新大陸の原住民の村と結んでいる『独占採掘契約』、その第8条に【原住民への報酬は、毎月の現物市場の価格に完全連動して支払う】という一文がございますわね?」
「……それがどうした? 現物の価格が高ければ高いほど、原住民のモチベーションも上がる。我が商会の完璧な統治システムだ!」
「ええ、そうですわね。――では、もしその現物の市場価格が、明日から**『10分の1』**に大暴落したら、どうなりますかしら?」
「はあ!? 大暴落するわけがないだろう! 大陸全土で魔力結晶の需要は高まる一方だ! 供給が追いついていないんだぞ!」
アントニオが鼻で笑ったその瞬間、取引所の巨大な扉がドタドタと開き、バロック商会の筆頭番頭が、顔面を土気色に変えて飛び込んできた。
「た、大変でございます、アントニオ総帥!! 我が商会が所有する、新大陸最大の『第一・第二魔導鉱山』の周辺で、原因不明の『超高濃度魔力飽和』が同時に発生いたしました!!」
「何だと!? 魔力飽和だと!?」
「は、はい! その影響で、地中深くに眠っていた結晶が、信じられないほどの速度で自己増殖を始め、今や鉱山の周囲一帯に、これまでの100倍以上の魔力結晶が『雑草のように』噴き出してきております! もはや、掘り出す手間すら必要のないほど、地表が結晶で埋め尽くされています!」
「な……、なぁっ……!!??」
アントニオの頭の天辺から、引きつった悲鳴が上がった。
供給不足だからこそ、1ボックスあたり金貨40枚という高値を維持していたのだ。それが、一瞬にして「世界の需要を遥かに超える天文学的な量」がタダ同然で地表に溢れ出てきた。
当然、市場のルール(需要と供給のバランス)に基づき、掲示板に表示されていた魔力結晶の現物価格の数字が、凄まじい速度でカウントダウンを始めた。
40……、30……、20……、10……、5……!
「ば、馬鹿な……! 結晶の価値が……我が商会の資産価値が……一瞬にして、4分の1、いや10分の1に……!!」
商人たちが頭を抱えて絶叫する。
だが、彼らの絶望は、ルミエラが仕掛けた「近代経済の罠」の、まだ序章に過ぎなかった。
3. 資本主義の神をハメ殺す
「――これで、現物の市場価格は1ボックスあたり【金貨4枚】まで暴落いたしましたわね」
大混乱に陥る取引所の中で、ルミエラだけが、美しい紅茶を一口啜りながら、静かに、そして神の如き冷徹さで盤面を見つめていた。
「さて、アントニオ閣下。先ほど、私はあなた方に『3ヶ月後に金貨50枚で結晶を引き渡す約束(空売り)』を10万ボックス分、売買いたしましたわね?」
「あ……、あ……」
アントニオの顔から、完全に血の気が引いていた。
「私は今から、市場に溢れかえっている金貨4枚の現物結晶を10万ボックス、タダ同然で買い集めますわ。そして、それを3ヶ月後に、あなた方に【1ボックスあたり金貨50枚】の約束通りの価格で、法的に強制的に買い取らせて(決済させて)いただきます。――差し引き、1ボックスあたり金貨46枚の純利益。10万ボックスで……金貨460万枚の利益が、今この瞬間、我がアルカディア公爵家とグラン・エルバ帝国の懐に転がり込みましたわ」
金貨460万枚。それは、バロック商会、ひいてはヴァンダル連合共和国の「国家予算の半分」に匹敵する、天文学的な巨額の資金だった。
「ひっ……、あ、あり得ない……! 鉱山の魔力飽和など、ただの自然災害だ! なぜ、なぜお前がそのタイミングを完璧に知って、そんな、そんな悪魔のような投資ができるんだ!!」
アントニオが卓を叩き、狂ったようにルミエラを指差す。
「自然災害? あら、心外ですわね」
ルミエラはフッと冷たい微笑みを浮かべ、手元の白い書類ホルダーを開いた。
「1週間前、我が帝国の最新鋭魔導戦艦が、新大陸の沿岸部に存在する『大地の地脈』の魔力伝導率の微調整を行いましたの。これまでの3年間、あなた方が原住民の村から強引に魔力を吸い上げていたせいで、地脈には莫大な『魔力の歪み(ストレス)』が蓄積されていましたわ。私はただ、その歪みの限界値を数理計算し、ほんの少しだけ、地脈のバルブを『ロジック通りに解放』してあげただけに過ぎませんのよ?」
すべては、ルミエラの完全な計算の上の出来事だったのだ。
地脈の破裂による結晶の大増殖(大暴落)のタイミングを1秒の狂いもなく予測し、その瞬間に合わせて「先物空売り」の罠を仕掛ける。自然の流動性すらも、彼女の数理モデルの前には、完璧に制御可能な「インサイダーの道具」に過ぎなかった。
「さらに、アントニオ閣下。あなた方の結んだ『価格連動式の独占契約』に基づき……現物価格が10分の1になったことで、原住民の村への本月の報酬は、これまでの10分の1……すなわち、生活すら不可能な『金貨数枚』にまで法的に引き下がりましたわね?」
「それがどうした……! 契約は契約だ! 文句があるなら原住民どもが我が商会に……」
「ええ、文句がありますわ。ですから、我がアルカディア公爵家が裏から資金を100%提供し、彼ら原住民の全労働ギルドを**【完全買収(M&A)】**させていただきましたわ」
「な……、買収……だと……!?」
アントニオの目の前に、ルミエラが署名済みの『新大陸全域・原住民労働権委任状』を突きつけた。
「本日をもって、バロック商会が原住民と結んでいた不平等条約は、国際法に基づき『不当搾取による労働契約の無効化』が成立いたしました。明日から、新大陸のすべての鉱山、すべての港湾、すべての流通ルートにおいて、あなた方の命令で動く平民は『一人も存在いたしません』わ。――あなた方の誇るその『独占契約』という名の紙切れ、ただの無価値なゴミクズになりましたの。お分かりかしら、海の向こうの守銭奴の皆様?」
「ア、アァ……、アバ……、アァァァ……!!!」
アントニオは言葉にならない絶叫を上げ、口から泡を吹いて、そのまま取引所の床へと無様にひっくり返った。
彼のバロック重商会、そしてヴァンダル連合共和国が数十年かけて築き上げてきた新大陸の「搾取の帝国」は、ルミエラという本物の悪役令嬢が持ち込んだ『近代経済学』の牙の前に、開始わずか24時間で、一滴の血も流さずに完全買収・社会的にハメ殺されたのだった。
4. 帝国の死神、甘き独占
「――素晴らしい。相変わらず、君の『知の蹂躙』は、いかなる軍隊の進軍よりも残虐で、そして息をのむほどに美しいな、ルミエラ」
その夜、ポート・ロイヤルを見下ろす最高級ホテルのVIPバルコニー。
夜風に漆黒のマントを揺らしながら、ルミエラの腰を後ろから力強く、愛おしそうに抱きしめたのは、ギルバート皇太子だった。彼の極夜の瞳には、昼間の取引所でのルミエラの大無双の報告を受け、狂おしいほどの情熱と独占欲がギラギラと渦巻いている。
「殿下、驚かさないでくださる? 帝都での国務はお忙しいのではなくて?」
ルミエラは顔を少し背けながらも、自らギルバートの広い胸に身体を預け、フッと妖艶に微笑んだ。
「君が新大陸の利権をわずか1日で丸ごと買い占めて、金貨460万枚もの富を帝国にもたらしたんだぞ? 帝都の書類などすべて官僚どもに丸投げして、最速の魔導飛行艇で飛ばせてくるに決まっているだろう。……私は一秒でも早く、世界を跪かせた我が最愛の女帝を、この手で抱きしめたかったんだ」
ギルバートの大きな手が、ルミエラの細い顎を指先でクイと持ち上げる。
「バロック商会の解体に伴い、ヴァンダル連合共和国の残りの六大商会は、今や恐怖でガタガタと震えながら、帝国への全面降伏の使者を走らせている。新大陸の『黄金の大地』は、すべて名実ともに君のものだ、ルミエラ」
「あら、私のもの、ではなく『私たちのもの』ですわ、ギルバート殿下。……この豊かな大地の数字を使って、これからさらに、世界を私たちの思い通りに書き換えて(ハメ殺して)いきましょう?」
「ああ、どこまでも付き合おう。君のその完璧な頭脳も、その美しい赤髪も、すべて私のものだ――」
ギルバートは低く狂おしい笑みを漏らすと、ルミエラの唇に、新大陸の海の鳴動さえもかき消すほどの、深く、情熱的な独占のキスを落とした。
旧大陸を平定し、新大陸の資本をも完全に手中に収めた二人の天才。彼らの前には、もう遮るものなど何一つ存在しなかった。
5. 炭鉱の底の、届かぬ『新世界』
その同じ時刻。
新大陸でのルミエラの大無双と、帝国が「新世界のすべての黄金」を手に入れたという通信ニュースは、旧大陸の最果て、ルミナス王国の『ガルバ地熱炭鉱』の泥の底にも、無慈悲に響き渡っていた。
「ハァ……、ハァ……! 寒い……、お腹が減った……」
かつての第一王子エドワードは、年中無休の過酷な労働によって完全に指の骨が変形し、窶れ果てた顔で、看守が落とした泥まみれのジャガイモを拾い上げていた。
「おい、エドワード……。また、あの人のニュースだぞ……」
隣で同じように死んだ魚のような目で泥を掘っていた元側近のロバートが、震える指で、壁の古ぼけた魔導受信機を指差した。
そこには、新大陸の総督(実質的な女帝)に就任し、純白のドレスを纏って、ギルバート皇太子と共に大歓声の平民たちに手を振るルミエラの、神々しいまでの姿が映し出されていた。
彼女が手にした富は金貨460万枚。ルミナス王国の国家予算の、実に数十倍の天文学的な輝きだった。
「ルミエラ……。金貨、460万、枚……? 新大陸の、すべての黄金……?」
エドワードの目から、煤と混じった黒い涙が溢れ、泥の中にポタポタと落ちる。
かつて自分が学園の狭い中庭で、「悪役令嬢め! お前のような冷酷な女に、王太子の隣に立つ資格はない!」とマリアを抱きしめながら叫んだあの瞬間。
あの時、自分が手放したのがどれほどの大いなる『神の領域の怪物』であったか。
もし、あの夜会でルミエラを裏切らず、彼女の言う通りに公務の勉強をしていれば、今、新大陸のすべての富を手にし、世界の王としてあの美しい赤髪の少女とキスを交わしていたのは、自分だったのだ。
「ルミエラ……、ルミエラぁ……! 俺が悪かった、俺が、俺がすべて悪かったんだ! だからお願いだ、俺の前に戻ってきて、もう一度だけ俺の名前を呼んでくれ……! ルミエラぁぁぁーーー!!!」
エドワードの血を吐くような絶叫は、年中吹き荒れる地熱炭鉱の冷たい風にかき消され、誰に届くこともなく暗闇の底へと沈んでいった。
執務室の最奥の地下牢で、生涯終わらない汚物の洗濯労働を命じられたマリアの「あんたのせいでマリアのシンデレラストーリーが台無しよ!!」という怨念の呪い詛詛詛詛詛だけが、彼の耳の奥で永遠にループし続ける。
彼らが「悪役」と呼んで踏みつけようとした本物の天才は、もう二度と、その泥の底にいる虫けらどもの姿を振り返ることはないのだ。




