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新時代

1. 鳴り響く凱歌、無血の終戦

ルミエラによる「世界への宣戦布告」から、わずか3日後。

大陸の歴史上、最も大規模であり、そして最も「無残で滑稽な自滅」を遂げた戦争が、一滴の血も流れることなく終結を迎えていた。

四方の国境から帝国へと進軍していた大十字連合軍の50万の兵士たちは、ルミエラの数理モデルが完全に予測した通り、魔力霧の地帯で「吸魔性の乾燥芋」を口にした瞬間、胃袋を限界まで膨張させ、全軍がその場にひっくり返って悶絶。戦うどころか、自力で立ち上がることすらできなくなった。

さらに本陣である聖シュトウヴァル教国をはじめとする4ヶ国は、戦時公債のハイパーショートによって一晩で国家財政が完全にデフォルト(破綻)。兵士への給与も払えず、国内の全ギルドからの一斉の資産差し押さえに遭い、文字通り「一文無し」となったのだ。

戦うための武器を買う金も、兵士を動かす飯もない。

連合国の王や神官たちは、帝国の軍隊が国境を一歩も越えていないにもかかわらず、自ら白旗を掲げ、泥水に頭を擦り付けながら降伏文書にサインを請うしかなかった。

「――勝った。我がグラン・エルバ帝国は、大陸の歴史上初めて、単独で全方位の包囲網を完全無血開城させたのだ……!」

帝都グラディウスの中央広場は、集まった数十万人の市民たちの、地鳴りのような歓呼の声に包まれていた。

広場に設置された巨大な魔導スクリーンには、教国の枢機卿や周辺国の国王たちが、帝国の圧倒的に有利な「永久隷属契約」に涙を流しながらサインする姿がリアルタイムで映し出されている。

「ルミエラ様万歳!」「帝国の天才相談役、ルミエラ様万歳!!」

市民たちが叫ぶその名前は、かつてルミナス王国で「悪逆非道な悪役令嬢」と蔑まれていた少女のものだった。

今や彼女は、帝国の全平民から「戦火から国を救った、神聖なる知の女神」として、熱狂的な信仰と敬意を一身に集める存在となっていたのだ。

最高経済院の大講堂でルミエラに敗北したハインリヒも、今や広場の最前線で、その目に熱い涙を浮かべながら彼女の名を叫んでいた。

「ルミエラ様……! あなたこそが、この大陸に真の平穏をもたらす、新たなる時代の支配者だ……!」

2. 真の戴冠式、未来の女帝へ

その熱狂の渦の中心、黒晶石で造られた皇宮の最上階にある『大謁見の間』。

歴史上、最も格式高いとされるその聖域で、今、一国家の「婚約発表」という枠を遥かに超越した、事実上の『戴冠式』が執り行われようとしていた。

重厚な黄金の扉が左右に開き、厳かな魔導オルガンの旋律が響き渡る。

「――グラン・エルバ帝国皇太子妃内定者、ルミエラ・フォン・アルカディア公爵令嬢、ご入場です」

筆頭侍従長の声とともに姿を現したルミエラを見た瞬間、参列していた帝国の全高位貴族、外交官、そして将軍たちが、一斉にその場に深く跪いた。

今日のルミエラが身に纏っているのは、帝国の最高技術を結集して織り上げられた、神秘的なまでに輝く「純白と深紅の魔導ドレス」だった。燃えるような赤髪は完璧に整えられ、その頭上には、帝国の次期女帝としての正統性を示す、白金とダイヤモンドで造られた美しいティアラが戴かれている。

その歩みはどこまでも優雅で、その知的な瞳には、世界を揺るがす大偉業を成し遂げた者としての、圧倒的な威厳と不敵な光が宿っていた。

壇上の玉座の前で待っていたのは、ギルバート・フォン・エルバだった。

今日の彼は、帝国の最高最高指導者としての黒正装を完璧に着こなし、その腰には世界を平定した覇者の証である聖剣を帯びている。

ギルバートは、ゆっくりと歩み寄ってくるルミエラを見つめ、その端正な唇の端を、狂おしいほどの熱情と独占欲を込めて釣り上げた。

「――待たせたね、私の美しい悪魔」

ギルバートは自ら階段を下り、ルミエラの前に立つと、彼女の細く白い右手を、全貴族の目の前で恭しく取り上げた。

「君のその圧倒的な頭脳が、世界の半分を戦わずして跪かせた。教国も、周辺の小国も、今や我が帝国の足元で這いつくばるだけの家畜に過ぎない。ルミエラ……君こそが、私の隣に座るべき、唯一無二の女帝だ」

「お褒めいただき光栄ですわ、ギルバート殿下。ですが、これはまだ『最初のゲーム』が終わっただけに過ぎませんのよ?」

ルミエラはギルバートの極夜の瞳を見つめ返し、フッと、最高に妖艶で挑戦的な笑みを浮かべた。

「これからは、この広大な帝国の新領土の全内政、全予算の再編成、そして新たな法律の策定が待っていますわ。私の数理モデルを完璧に運用しなければ、せっかく手に入れた世界もすぐに腐ってしまいますもの。……覚悟はよろしくて?」

「くく……、ハハハ! 本当に、一瞬の油断もくれない女だ。いいだろう、私の命も、帝国の全財産も、すべて君のその完璧なロジックに預けよう。君になら、どこまでもハメ殺されても本望だ」

ギルバートは歓喜に声を震わせると、ルミエラの腰をグッと強く抱き寄せ、全貴族の、そして魔導スクリーンを通じて世界中の全人類が見守る中で、彼女の唇に、深く、情熱的な「誓いのキス」を落とした。

会場全体から、割れんばかりの拍手と、地鳴りのような凱歌が沸き起こる。

ルミナス王国の狭い箱庭で「悪役」として捨てられた少女は、今、大陸最強の超大国の中心で、名実ともに世界の頂点ヒロインへと君臨したのだった。

3. 泥の底、二度と届かぬ光

その同じ時刻。

ルミエラが世界の頂点へと上り詰めたその美しい映像は、ルミナス王国の辺境、『ガルバ地熱炭鉱』の底に置かれた、たった一台の、ひび割れた旧式の魔導受信機にも投影されていた。

「あ……、あ……」

ドロドロの泥の中に膝をつき、口を半開きにしてその映像を見つめていたのは、エドワードだった。

彼の身体は年中無休の重労働によって完全にガタが来ており、ツルハシを握る両手は血と膿ですすけている。かつての王太子としてのプライドも、端正な顔立ちも、現実の過酷な労働の前に、跡形もなく消え去っていた。

画面の向こうで、世界の誰よりも美しく、最高級のドレスとティアラを身に纏い、最強のスパダリ皇太子とキスを交わしているルミエラ。

その輝きは、炭鉱の底の暗闇に生きる虫けらにとって、直視することすら許されないほどに眩しく、圧倒的だった。

「ルミエラ……。お前は、本当は……あんなに、あんなにすごくて、価値のある女だったのか……」

エドワードの目から、血の混じった涙が溢れ、煤汚れた床にポタポタと落ちる。

「俺が、俺があの夜会で、マリアの言うことなんか聞かずに……お前をちゃんと愛して、お前の言う通りに書類をやっていれば……あの隣にいたのは、俺だったはずなんだ……。俺が、俺がルミナス王国の王として、世界を……!」

「おい、エドワード! またサボって画面を見てるんじゃねえ!」

背後から、容赦のない看守の鞭がエドワードの背中を激しく引き裂いた。「ぎゃあぁっ!?」と無様な悲鳴を上げて、エドワードは再び泥水の中に顔面から突っ込んだ。

「何が王さまだ、この大バカ者が! お前がルミエラ様を追放したせいで、我がルミナス王国は財政破綻して帝国の完全な奴隷(属国)になったんだぞ! お前は国を滅ぼしたA級戦犯だ! 一生、そこで泥を食ってろ!」

看守たちはエドワードをゴミのように蹴り飛ばし、魔導受信機の電源をバチンと切った。

画面は真っ暗になり、執務室の地下牢で生涯終わらない洗濯を命じられたマリアの「エドワード様、あんたのせいでマリアの人生めちゃくちゃよ!!」という怨念の呪い詛詛詛詛詛詛詛詛詛詛のろいだけが、エドワードの耳の奥で、幻聴となって響き続けていた。

「ルミエラ……、ルミエラぁ……! 戻ってきてくれ……! 俺が悪かったんだぁぁーーー!!」

エドワードの終わりのない絶望の絶叫は、暗い炭鉱の底の岩肌に跳ね返り、誰に届くこともなく、ただ永遠に、地獄の底へと沈んでいった。

彼らが「悪役」と呼んで踏みつけようとした本物の天才は、もう二度と、その泥の底を見ることはないのだ。

4. エピローグ:次なるゲームの盤面へ

数日後。

帝都グラディウスの、陽当たりの良い美しい皇宮のテラス。

「ん〜〜〜! やっぱり、帝国の最高級パティシエが作った、魔力苺のミルフィーユは最高ね!」

ルミエラは、純白のドレスに身を包み、優雅にフォークを動かしていた。

彼女の前には、何層にも綺麗に重ねられたサクサクのパイ生地と、色鮮やかな特製ベリーソース。

世界を完全に平定し、内政の仕組みを自らの数理モデルでオートメーション(自動化)させた彼女は、今や1ミリのストレスもなく、最高の贅沢を享受していた。

対面に座るハンスが、本日の大陸全土の経済リポートを広げながら、クスクスと笑みを漏らす。

「ルミエラお嬢様、いえ、これからは『皇太子妃殿下』とお呼びすべきですな。教国からの賠償金の第一陣、金貨200万枚が、無事に公爵家の口座へと入金されました」

「あら、思ったよりも早かったわね。あの神官たち、命だけは助かりたくて必死なのかしら」

ルミエラは紅茶を一口啜りながら、楽しげに首を傾げた。

そこへ、テラスの扉が開き、マントを翻したギルバートが、仕事の合間を縫って入ってきた。彼はルミエラの姿を見るなり、その背後から自然に彼女の肩を抱きしめ、その白い首筋に軽くキスを落とした。

「おや、私の軍師は、今日もずいぶんと優雅なリゾートタイムを過ごしているようだな」

「殿下が優秀な官僚たちを私の数理モデル通りに動かしてくださるからですわ。これなら、私が1ヶ月くらいお休みをいただいても、帝国は勝手に拡大を続けますわよ?」

ルミエラがいたずらっぽく笑うと、ギルバートは彼女の顎を指先でクイと持ち上げ、その極夜の瞳を悪戯っぽく細めた。

「お休み? 君のような知の怪物が、そんな退屈に耐えられるはずがないだろう。……ほら、君のために、早速『次のゲーム盤』を用意しておいたぞ」

ギルバートがデスクの上に置いたのは、大陸のさらに海の向こう――未開の大拓地である『新大陸』の貿易航路図と、そこに眠る未知の古代魔導具の利権に関するデータだった。

ルミエラはその書類を一瞥した瞬間、その知的な瞳に、抑えきれない興奮と挑戦的な輝きをパッと灯した。

「……あいつらを片付けたら、今度は海の向こう、ですのね? 本当に、私を飽きさせないスパダリですこと、ギルバート殿下」

「当然だろう。君を満足させられる男は、この世界で私だけだ。さあ、ルミエラ……次なる世界のルールを、二人で書き換えに行こうか」

「ええ、喜んで。――私の完璧なロジックで、世界を相手に、次の『チェックメイト』を見せて差し上げますわ!」

二人の天才の、危険で、圧倒的に甘く、そして誰よりも無敵な「真の無双の物語」は、これからも終わることなく、世界のすべてを支配していくのだった。



第一部 完



第二部用意してます

来週まとめてアップします。

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