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第6話 三十五歳救助主任は受領印を見る
城崎蓮司は、装備の名前より受領印の癖を先に覚える男だった。
「この印、同じ人間が急いで三件押してる」
彼が差し出したのは、白牙フロント案件と、別件の紛失補償申請書だった。どちらも担当欄は違うのに、印の沈み方が同じだ。
「圧が強い。朱肉も乾きかけ」
「そんなところまで見ます?」
「救助報告も印ひとつで人が飛ぶ」
私は苦笑した。けれど、その感覚はよくわかる。数字や印が雑に扱われるとき、そこには大抵、隠したい流れがある。
休憩室で缶コーヒーを開けた城崎が、一本を私へ滑らせた。
「三谷は、なんで遺失物なんだ」
「返してもらえなかった経験があるからです」
父の工具箱を思い出す。昔、事故現場から戻らなかった道具があった。物が戻らないと、人はずっと途中のままだ。
「だから私は、終わらせる側でいたかった」
城崎は少しだけ目を細めた。
「なら、今の仕事は合ってる」
短い言葉だったのに、妙にまっすぐ胸へ入った。




