第3話 【照合】は持ち主を間違えない
救助が終わったあと、保管庫の床には泥と血と壊れた装備だけが残った。
私はその一つ一つへ触れてみた。すると、また白い文字が流れ込んでくる。持ち主の名前、受領した時刻、通った搬路、最後に触れた人間。
どうやら【照合】は、帳簿と現物と履歴を勝手につなぐスキルらしい。
「試してみるか」
城崎に促され、私は泥だらけの籠手を持ち上げた。
「小隊《青灯》の若林奏太さん。二層東路で片方を落として、そのまま救助要請に回っています」
「行き先まで出るのか」
「今は救護室です」
ちょうどそこへ、夜勤専門の配信記者・加賀野灯がカメラを抱えて駆け込んできた。二十九歳。空気を読むより事実を拾うのが速い女だ。
「城崎主任、さっきの救助、映像押さえました。ついでに、持ち主不明の装備が山なんですけど」
「三谷さんが返せる」
城崎が当然みたいに言ったので、私は少しだけ息を止めた。
灯の簡易配信で、私は籠手と魔力端末と救難ビーコンを次々持ち主へ返した。画面越しの視聴者は、派手な討伐より地味な返却に驚いていたけれど、受け取る探索者たちの顔はもっとわかりやすかった。
「これがないと、次の潜行許可が下りないんです」
若林さんが両手で籠手を抱えた。私は返却札へ受領印をもらいながら、少しだけ胸の奥がほどけるのを感じた。
返すだけの仕事で、人はちゃんと助かる。
その夜の最後に、私は救命盾《蒼壁》の受領履歴を照合した。表示された最終接触者は、白牙フロントではなかった。
総務課長・早乙女恒一。
保管庫の冷気より先に、怒りが背骨を通っていった。




