第2話 左遷先は地下保管庫
地下保管庫の夜は、窓口より正直だ。
誰も笑顔を貼りつけないし、出世のための美談もない。ただ、遅れて戻ってくる探索者の靴音と、冷却機の唸りだけが一定のリズムで響く。
私は異動初日の二十二時半、棚札と実在庫の照合をしていた。回収済みのはずの装備が、帳簿上はきれいにそろっているのに、現物だけがところどころ抜けている。
そのとき、警報灯が赤く回った。
『第三搬路で崩落。救助班、保管庫前集合』
防火扉が開き、先頭の男が短く言った。
「回復薬六箱、簡易担架三、予備盾二。今すぐ出せるか」
市営救助主任の城崎蓮司だった。三十五歳。無駄な声を一つも持たない顔をしている。
「帳簿上はあります」
私は棚を見る。ない。空き列だけがきれいに残っていた。
「二十秒で答えてくれ」
城崎の声は低いのに、時間が削れていく音がした。私はとっさに棚札の束を握った。
その瞬間、白い文字が視界へ浮いた。
回復薬六箱、北側冷却壁面裏。
簡易担架三、非常用ロッカー二番。
予備盾二、搬入口仮置き台車の下。
「……こっちです」
「根拠は」
「あとで説明します。今は動いて」
自分でも驚くほど迷いなく走れた。冷却壁の点検板を外すと、本当に回復薬が六箱、ぴったり押し込まれている。非常用ロッカーにも担架があり、台車の下には救助用の折り畳み盾が二枚隠されていた。
「見えていたのか」
城崎が箱を抱えながら私を見る。
「持ち主と場所が、急に頭へつながったんです」
「なら、そのつながりを今夜は信じる」
責めるでも驚くでもなく、必要なものとして言われたのは久しぶりだった。
私は空になった壁面裏を見た。
保管庫でも、誰かが意図して物をずらしている。




