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第1話 功績を奪われた返却窓口

返却札は、持ち主の手に戻るまでが仕事だ。


 私は都営東環ダンジョン遺失物センターの窓口で、その札を毎日何十枚もめくってきた。剣、盾、回復薬の帯箱、魔力電池、迷子になった補助端末。討伐そのものより地味だけれど、返ってこなければ次の探索で誰かが死ぬ。


「三谷さん、白牙フロントの救命盾の件、説明してもらえる?」


 夕方の会議室で、総務課長の早乙女恒一が薄く笑った。四十三歳。現場を知らないくせに、責任者の顔だけは誰より早く作る男だ。その隣には後輩受付嬢の姫野真白が、心配そうな顔で書類を抱えている。


「救命盾《蒼壁》は昨日の三層崩落で回収済みです。返却待ち棚へ移した記録もあります」


「でも棚にはない」


 早乙女が机に置いたのは、私の端末から印刷した移送記録だった。そこには確かに私の承認番号がある。だが、その下へ後から追加された保管庫番号は見覚えがない。


「この番号、私が入れたものではありません」


「また言い訳ですか?」


 白牙フロントの渉外担当が鼻で笑う。姫野は小さく息をのみ、次の瞬間には「澪さん、昨日お忙しそうでしたし」と私を庇うふりをしてみせた。庇うふりだけで、視線はしっかり自分の手柄の席へ向いている。


「今回の混乱は大きい。センターの信頼回復のためにも、窓口責任者を替える」


 早乙女は私の異動通知を画面に出した。


「本日付で地下保管庫夜勤へ。後任は姫野くんだ」


 功績も昇進も、ずいぶん手早く決まるものだ。


「先に移送記録の改ざんを調べるべきです」


「現場を荒らした人間の発言は信用できない」


 会議はそれで終わった。席を立つとき、私は書類の端に押された電子印を見逃さなかった。追加保管庫番号を承認したのは早乙女の権限帯だ。


 盾は失くなったんじゃない。


 失くしたことにされたのだ。



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