第69話 明かされた真実
ドアから入ってきたのは鮮やかな赤髪の女性。自信にあふれた笑みを浮かべている。
「お母さん!」
フィオナがそう言うと、イリス、カルロス、ホセは驚き、フィオナに視線を向けた。フィオナはそれ以上に驚いていて、わたわたとしながら言葉が続かないようだ。
「フィオナ、久しぶりね。相変わらず魔女やっている?」
「二百年ぶりくらいに会ったっていうのに軽くない?」
フィオナがそう言うと、赤髪の女性は微笑んだ。
「あら、やだ。もうそんなに経つ?」
フィオナは何度もうなずいた。
シャーロットは赤髪の女性に手を向けた。
「ドロシーです。フィオナ先輩とわたしのお母さん」
驚きが止まらない。フィオナは泡を吹きそうな顔で尋ねた。
「まさかシャーロットも魔女だったの……?」
ドロシーはシャーロットの肩を抱いた。
「ううん。魔力は人よりあるけど、シャーロットはどちらかというと人間寄り。人間とほぼ同じスピードで成長している」
「ちょっとだけ魔法が使える程度です。――それでは、本題に入りますね」
イリスたちはアルド王国のキンバリー港に来ていた。多くの人が行き交う中で何かを探しているようだ。
ドロシーはにやっと笑った。
「見つけた」
「まじかよ……」
ホセは呟き、フードを被った人を凝視している。
フードを被った人もこちらに気づいたようで、駆け出した。それをイリスたちは追う。フードを被った人は路地に逃げ込んだが、その先は行き止まりで、もう逃げ場はない。視線を合わせないように俯いている。
フィオナ、ドロシー、シャーロットは杖をとりだし構えた。ドロシーは楽しげに言った。
「驚いたわよ。あなたを木の映像から見つけだしたときには、震えたわ」
フードを被った人は観念したようにため息をついた。フードを外し、イリスに視線を向けた。イリスは未だに信じられないような視線を返した。
「メアリー、生きていたのね……」
メアリーは諦めたような笑みを見せた。
「あーあ。大陸を出られれば、逃げ延びられると思っていたのに。あと一歩ってところで捕まるなんて、ついていない」
イリスは眉間に皺をよせ、戸惑うように言った。
「あなたは確かに死んだはず。私は転落死したあなたの顔を見たわ」
「あれは、浮浪者をわたしの姿に変えて、屋上から突き落としたの。わたしの身代わりにするために。フィオナには、ばれるかと思ったけど」
メアリーは嘲るように笑った。フィオナは悔しげに奥歯を噛みしめる。
イリスは尋ねた。
「あなたが城を襲撃し、お父様とお母様を石化させた魔女ね?」
「ええ、そう。まさか校章を落としていたなんて、バカだったな」
ホセはそれに尋ねた。
「なんで校章を持ったまま城を襲撃したんだ?」
「校章は身分証代わりになるのよ。わたしの身分証で国境を通った記録を残したくなかった。それをポケットにいれたままにしてしまったのよ。まぁ、校章だけで、犯人がわたしだと断定できるとは思っていなかったけど。運よく、夏休み中に校章を失くしたのは、わたしだけじゃなかったみたいだし」
カルロスは鋭い視線をメアリーに向けた。
「なら、どうして死を偽装した?」
「ホセが思った以上に鋭かったから。正体がばれる前に撤退したかったのよ。ただ消えるだけより、死んだように見せかけた方がいいでしょう?」
フィオナは先ほどの屈辱を返すように笑った。
「そこまでしたのに見つかったんだ。残念だったね」
メアリーは少しだけ顔をしかめた。
イリスは一歩前に進んだ。
「他の犯人はどうしたの?」
「あれは傭兵を雇ったのよ。襲撃事件のあと、口封じで殺した」
メアリーは何でもないことのように言った。その異常さにイリスは顔をしかめた。
「私を狙った理由はなに?」
それにメアリーは視線を逸らした。
「師匠の望みを妨害した。わたしは風の魔女の弟子だった」
イリスは薄い茶色の瞳を揺らした。藤紫の長い髪を持った風の魔女の顔が浮かび、微笑んでいる。
今まで平然としていたメアリーの顔には、怒りが滲んでいた。
「師匠は望みを叶えるため、わたしを破門し、時の妖精と共に消えてしまった。そして、望みは、結局、イリスに止められ、師匠は死を選んだ。だから、復讐しようと思った。わたしを捨ててまで、叶えたかった望みだったのに!」
イリスは戸惑いながら尋ねた。
「リース国王に私が時の妖精の加護をもらっていることを伝えたのもあなたね?」
「ええ、そう。わたしは失敗したから、他にやらせることにした。イリスが不幸になるのが目的だったから」
カルロスはそれに顔をしかめた。
「八つ当たりも甚だしいな」
メアリーはカルロスを睨んだ。
ドロシーは小さくため息をついた。
「あなた、なんで風の魔女が破門にしたかわからない?」
メアリーは問いかけるようにドロシーに視線を向けた。ドロシーは杖をつき、首を横に傾げた。
「時を止める大罪を犯せば、風の魔女はすべての魔女から追われる存在になる。それに巻き込みたくなかったからでしょう。なのに、あなたは自ら魔女に追われる道を進んだのね。哀れだわ」
メアリーはぐっと言葉に詰まった。ドロシーはイリスに顔を向ける。
「もう聞きたいことはない? イリス王女殿下」
イリスはうなずいた。それを見たドロシーは杖を構え、メアリーに笑みを見せた。
「ルーベンス王国の城を襲撃し、多くの人を石化した。さらに人を四人殺している。魔女の掟に従い、あなたを排除します」
悪あがきにメアリーは杖をとりだし、ドロシーに火球を数発撃った。それをドロシーは杖を振るっただけで消した。その隙にメアリーはほうきにまたがったが、ドロシーはまた杖を振るうと、メアリーは炎に包まれた。もがき苦しむメアリーはこちらを向き、口角をわずかに吊り上げた。
それは苦痛に歪んだものだったのか、笑みだったのか、イリスにはわからなかった。ぞっとしたものが背筋を走り、目を逸らせずに息を呑んでそれを見つめていた。
メアリーは骨も残らず燃え尽きた。
ドロシーはふうっと息をつき、イリスに笑みを向けた。
「さて、帰りましょうか」
馬車の中は重い雰囲気だった。ドロシーだけは足を組み、平然とした顔をしている。
イリスはホセに尋ねた。
「ホセはこのままアルド王国に戻る?」
「いや、国王陛下と王妃殿下の石化が解けているか気になるし、いったんルーベンスに戻るよ。イリスちゃんはユアン王子に会っていく?」
イリスは馬車の窓からアルド王国の城を眺めた。
「ううん。今は顔を合わせづらいわ」
「アルド王国が援助要請に応じてくれなかったから?」
フィオナの問いに、イリスはうなずく。
「でも、それはしかたがないわ。責めるつもりもない」
「じゃあ、なんで?」
フィオナは首を横に傾げ、尋ねたが、イリスは答えなかった。
きっとユアンの方がそのことを気にしているだろうから、謝られても困ってしまう。それにイリスもルーベンスで起こったことを、ユアンに伝えるのは、まだ憚られた。
会ったところで、話すことはない。
イリスは深く息を吐き、椅子の背に凭れ、少し休もうと目を閉じた。




