表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時の守人~時に翻弄された王女イリスは諦めない~  作者: 冬木ゆあ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
63/70

第63話 戦争の気配①

「何? 失敗しただと?」


 リース王国城の王の執務室で、肉付きのいい肥えた男性が腹立たしそうに言った。国王であるアンドリュー・リースだ。

 報告している細身の男性は青い顔で、小さくなっている。

 アンドリューは舌打ちした。


「小娘ひとりさらえぬとは。こんなことならさっさと騎士団を動かせばよかった」

「しかし、そんなことをすれば、国際問題に発展します。外聞が……」


 アンドリューは机を叩き、細身の男性は体を震わせ、黙った。


「小娘を捕まえ、必ずわしのもとに連れてこい」


 細身の男性は怯えた様子で頭を下げ、部屋を出ていった。


 翌日。

 イリスたちは早朝に馬車に乗り込み、サリス学園を出た。揺れる馬車の中でイリスの表情は固い。

 フィオナはそんなイリスに視線を向けた。


「結局、リチャードは見つからなかったね」


 カルロスはくつろいだ様子でうなずいた。


「逃げたんだろう。王女をさらおうとしたんだ。捕まれば、罪は重い」

「逃げ足の速いやつだな。オレといい勝負だ」


 ホセは感心したように言った。


 リース王国とルーベンス王国の国境を通過しようとしたとき、国境警備に当たっていた兵士が御者に声をかけた。


「その紋章、ルーベンスの馬車だな。イリス王女殿下が乗る馬車か?」


 御者は困ったような顔で首を横に振った。


「いいえ。わたしはルーベンスへ帰るところで、馬車にはどなたも乗っておりません」


 兵士は顔を険しくし、座席の方へと回り、扉を開けた。他にも集まってきた兵士と共にそこを覗くと、御者の言った通り、誰もいなかった。

 兵士はバツが悪そうに、御者へと顔を向けた。


「失礼した。いっていい」


 御者は帽子をとって会釈した。


 一方、イリスたちは徒歩で国境を越えようとしていた。

 兵士に身分証を求められ、イリスは差し出す。それを見た、兵士はうなずき、イリスたちを通した。

 関所が見えなくなり、ホセは身分証をまじまじと見た。


「よくできているな、この偽造の身分証」

「サリス学園を出る前日の夜、寮の部屋のドアの下から差し込まれたんだよ」


 フィオナがそう言うと、カルロスはイリスを見た。


「これも『思わぬ味方』のしわざか?」

「たぶんね」


 イリスがそう答えると、カルロスは真剣な顔で尋ねた。


「正体は教えてくれないのか?」

「言えない」


 イリスがそう答えると、カルロスは首を横に傾げ、小さくため息をついた。

 ホセは頭のうしろで手を組んだ。


「なんで偽の身分証で関所を越えないといけないんだ? 行きは自分たちの身分証で通ったじゃないか」

「事情が変わったのよ」


 イリスは鬼気迫った雰囲気だ。カルロスは肩を掴んだ。


「お前は『思わぬ味方』から何を聞いた?」

「リース王国が、ルーベンスに戦争を仕掛けようとしているかもしれない」


 カルロスはイリスを見る緑の瞳を見張った。


 国境から一番近い街で、御者と落ち合った。御者はイリスの姿を見てほっとした表情を見せた。


「ご無事で何よりです。イリス王女殿下のおっしゃったとおり、関所で止められました。イリス王女殿下が乗っているか確認しているようでした」


 それにイリスたちは顔を見合わせた。ホセはほっと胸を撫で下ろしている。


「危うく捕まるところだった?」


 フィオナはうなずき、イリスを見た。


「イリスが『思わぬ味方』から情報を得ていなかったら、危なかった……」


 イリスもうなずき、御者に顔を向けた。


「急いで城に戻るわ」


 御者はうなずき、馬車のドアを開けた。


 城に戻ったイリスは、出迎えた侍女に息つく間もなく言った。


「じいを応接室に呼んでちょうだい」


 侍女は「かしこまりました」と、頭を下げて去っていく。

 イリスは応接室でライオネルを待った。カルロス、ホセ、フィオナはイリスが座るソファーのうしろに立っている。

 しばらくしてライオネルが入室してきた。


「お帰りなさいませ、姫様」

「じい、さっそくだけど、まずは森の魔女は?」


 ライオネルはソファーに腰かけた。


「森の魔女は解析を終え、今は自宅の方で薬づくりに当たってくださっています」


 それにイリスはわずかに口元に笑みを浮かべた。


「解析が終わったのね!」

「ええ。思ったより簡易な魔法だったとおっしゃっていました」


 しかし、それにフィオナが口を挟んだ。


「喜ぶのはまだ早いよ。薬を一から作るんだ。まだ時間がかかると見た方がいい」


 イリスはフィオナを振り返り、肩を落とした。

 今度はライオネルが尋ねた。


「姫様の方はどうでしたか? なにか掴めましたか?」

「掴めたけど、犯人である学生は死んでしまった。わかっているのは、妖精教の信徒だったこと。あと、私をさらおうとしたのも妖精教の信徒だった」


 ライオネルは茶色の瞳を大きく開き、わずかに腰を浮かせた。


「さらわれそうになったのですか?」

「ええ。妖精教の宗主が私に会いたい、その理由でね」


 ライオネルは白いあごひげを撫でた。


「妖精教……。リース王国の主要な宗教ですな」

「おそらく襲撃事件の裏には、妖精教が絡んでいる」


 イリスの言葉にライオネルは唸った。


「次はどうなさるおつもりですか? 妖精教本部に乗り込むとか言い出さないでくださいよ」


 それにカルロス、ホセ、フィオナはぎょっとした。イリスなら言い出しかねない。

 イリスは笑った。


「じいったら、さすがにそれは難しいでしょう」


 ライオネル、カルロス、ホセ、フィオナは見るからにほっとした様子だ。

 イリスは全員のそんな様子に気づいていないのか、話を変えた。


「リース王国の動向について、なにか知っている?」


 それにライオネルは顔色を変えた。


「どこでそれを? わたしもつい最近、報告を聞いたばかりです。姫様を呼び戻そうとしたところ、姫様から帰国の手紙を受け取り、ほっとしておりました」


 イリスは少し考えてから言った。


「じいも接触したのね?」

「はい。陛下が石化しているため、わたしに。姿を見たのは、はじめてでしたが、存在は知っておりました。まさか姫様のもとにも?」


 イリスはうなずいた。


「お父様不在の今、リース王国との開戦は避けたいけれど、難しいわね……」

「まだリース王国からの宣戦布告はございませんが、騎士団長には戦の可能性を伝え、内々に準備をさせています。しかし、リース王国は数年前から計画を立てている様子。準備の差で不利です」


 イリスは重いため息をつき、顔を手で覆った。


「今は、お父様とお母様の石化を解くことを優先したいのに……」


 しばらくイリスはそのままで、やっと上げた顔には覚悟の色が見えた。


「アルド王国に援軍の依頼をしましょう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ