第61話 学園祭②
「すごい来客だな」
カルロスは呆気にとられたように言った。
学園祭当日、開場と同時に多くの人たちが学園を訪れ、賑わっている。活気にあふれ、校庭で出店している生徒たちが呼び込みをしていた。
劇の上演は午後なので、午前中はフリーのイリスたちは学園祭を見て回っていた。
校舎の入り口にはミスコン参加者の肖像画が飾られていて、微笑んだイリスの絵も飾られている。絵の下にはキャッチフレーズが掲げられ、『ルーベンスの秘宝 魅惑の姫君は可憐な旅人』と書かれている。
フィオナはそれに苦笑した。
「シャーロットは、結局、決めかねて全部詰め込んだね……」
イリスは恥ずかしそうに顔を手で覆った。
ホセはそんなイリスの肩を叩いた。
「ミスコンは夕方だっけ?」
「ええ。講堂で結果発表される……」
イリスはわずかに顔から手を離した。その顔は青い。ホセは投票用紙にイリスの名前を書き、投票した。
「オレはイリスちゃん推しぃ」
フィオナも覚えたての文字で書いて投票した。フィオナとホセはカルロスに視線を向ける。
「な、なんだよ」
「一番のイリス推しが投票しないの?」
フィオナがにやにやしながら視線を向けると、カルロスがぶすっとした顔で、ペンをとった。汚い字だったが、なんとか『イリス・ルーベンス』と書き、投票した。
「これでいいんだろう?」
ホセもにやにやとしながらカルロスの肩に手を置いた。
「もう素直じゃないんだからぁ」
カルロスはホセの頬を掴んだ。
「いひゃい!」
カルロスが手を離すと、ホセは頬を撫でた。
「オレはフィオナ姐さんと違って、頬をつねられたって嬉しくないんだからね!」
「あたしだって嬉しくないよ!」
フィオナはホセの肩を叩いた。
学園祭の雰囲気を楽しみ、昼前には劇の準備のため講堂へと向かった。カルロスは大道具係で別行動だ。
控室は男女別で、ホセとも別れ、イリスとフィオナは女子控室に入った。
イリスは白いワンピースに着替え、衣装係のクレアに化粧をしてもらった。仕上がった顔にイリスは感心した。
「上手ね」
「化粧、好きなんだ。休みの日は化粧の研究している」
大人っぽい雰囲気の彼女はそう言って微笑んだ。それから紫色のワンピース姿のフィオナを振り返った。
「次はフィオナね」
フィオナは返事をして、クレアの正面の椅子に座った。
イリスは空いている椅子に座り、セリフの確認をはじめた。もうすぐ開演という緊張感からそわそわしてしまう。
「イリスさん、リチャードが呼んでいる」
バーバラがドアのあたりからそう声をかけてきた。
イリスは部屋を出て、リチャードを見た。衣装を身にまとい、すでに準備はできているようだ。
「ちょっと歩きながら、最終確認をしないか?」
イリスは戸惑ったようにドアを見た。フィオナは今準備中だ。護衛に誰もつけずに行くのは、はばかられた。
「そこら辺を歩くだけだよ」
イリスは渋々うなずき、リチャードと共に歩き出した。
リチャードは苦笑をイリスに向けた。
「緊張して手が震える」
「生徒会長として人前に出るのは慣れていそうなのに」
「演説と演技とでは違うよ。セリフ、とちらないといいけど……」
イリスはくすっと笑い、前を見た。
「『ああ、ルイス。あなたを想うと胸が張り裂けてしまいそう』」
それにリチャードは微笑んだ。
「『ミュリエル、君と共に生きられるのなら、俺はすべてを捨ててもいい』」
ふたりはセリフを確認し合いながら、廊下を歩いていた。
気がつけば裏庭に出ており、ここはひっそりとしていた。
「そろそろ戻りましょうか。開演の時間も迫っているし……」
イリスはリチャードに視線を向けた。そのリチャードの顔にイリスは驚く。いつものさわやかな笑顔ではなく、どこか緊張感のある顔だった。そこへどこからか男子生徒が数人集まってきて、イリスは体を強張らせた。
「イリス王女殿下、俺たちと共に来ていただきたい」
リチャードはイリスの腕を掴み、その力の強さにイリスは逃れようと身をよじった。
「いったいどこへいくというの?」
リチャードは少し躊躇したが、答えた。
「妖精教宗主、ジェイソン・クーパー様がお会いしたいと仰せだ。危害は加えないから安心してほしい」
「妖精教……」
イリスは眉を寄せた。メアリーの部屋で見たペンダントを思い出した。
「離して! あなたも妖精教の信徒だったのね……」
「ああ。この国には多いと言っただろう?」
リチャードはイリスの腕をさらに強く掴み、歩き出した。イリスは顔をしかめ、引きずられるようにして数歩進んだ。リチャードと一緒にいる男子生徒たちも妖精教の信徒なのだろうかと考え、それよりも今はどうやって逃れるかが先決だと考え直した。
そこへひとり、男子生徒たちの前に飛び降りてきた。黒ずくめの恰好で、頭巾で顔は隠されている。男女の区別もつかない。しかし、リチャードたちがたじろいだので、仲間ではないのは確かだ。
「何者だ!」
リチャードが黒ずくめの人の頭巾をとろうとした手を、黒ずくめの人は躱し、腕を掴んで投げた。地面に叩きつけられたリチャードは、うめき声をあげて動けずにいる。他の男子生徒たちも次々に挑み、黒ずくめの人にいなされた。
リチャードたちは後ずさりし、イリスを置いて逃げだした。
イリスはほっと胸を撫で下ろし、黒ずくめの人を訝しげに見た。すると、黒ずくめの人は、頭巾を取り、跪いた。
「イリス王女殿下、ご無事で何よりです」
その顔にイリスは目を見張った。




