第60話 学園祭①
シャーロットはイリスに懐いたのか、この日もランチを一緒に取ろうと誘ってきた。ナポリタンを食べながら、イリスに休日の予定を聞いている。
「特に予定はないけど……」
イリスがそう答えると、シャーロットは茶色の瞳を輝かせた。
「一緒に街に買い物に行きませんか?」
イリスは少し悩んでからうなずこうとしたが、カルロスがそれを遮った。
「だめだ。街なんて危険すぎる。メアリーの件だってまだ解決していないんだ」
シャーロットはしゅんとして、うなずいた。
「そうですね。軽率でした。すみません」
イリスはカルロスに視線を向けたが、カルロスはナポリタンを食べていて、それに気づかないようだ。
シャーロットは切り替えたのか、またイリスに提案する。
「なら、イリス先輩の部屋でお菓子パーティしません? 寮の部屋ならいいでしょう? カルロス先輩」
カルロスはシャーロットに視線を向けた後、フィオナに視線を向けた。
「フィオナがいいなら、いいじゃないか?」
「あたしはいいよ」
フィオナはうなずき、週末は三人でお菓子パーティをすることになった。
食事を終え、シャーロットは次の授業の準備があるからと、その場で別れた。
イリスたちは中庭の片隅で残りの休み時間を過ごすことにした。
カルロスが木の根元に座ると、イリスはその前に座った。その顔には怒りが滲んでいる。
「なんでシャーロットと街に行くことを反対したの?」
「言っただろう。危険だからだ。お菓子パーティするんだろ? 街に行かなくてもシャーロットと過ごす時間ができたんだからいいじゃないか」
「そうだけど……」
イリスは俯き、けれど、まだ納得できない様子だ。カルロスはため息をついた。
「もしシャーロットが犯人のひとりで、仲間が街で待ち伏せていたらどうする? 城を襲撃し、逃げおおせたやつらだ。腕が立つと考えた方がいい。街でフィオナが魔法を使うわけにはいかない。俺ひとりで四人相手は無理だ」
ホセはそれに首を横に傾げた。
「兄さん、オレは戦力外ですかい?」
カルロスはホセを見上げた。
「お前が戦っているところ見たことない」
フィオナもそれにうなずく。
「あたしもホセはこの中で一番弱いと思っている」
「イリスちゃんより?」
カルロスとフィオナはうなずいた。ホセはがくっと肩を落とした。
「まぁ、そういうわけだ」
カルロスはイリスに視線を向けると、イリスが涙ぐんでいて、ぎょっとした。
「な、なんで泣きそうになってんだよ?」
「……なんでもない!」
イリスは立ち上がり、駆け出した。それをフィオナが慌てて追った。
「待ってよ、イリス!」
カルロスも立ち上がろうとしたのを、フィオナは振り返った。
「二人は追ってこなくていいよ!」
カルロス、ホセは二人の背中を見送った。
カルロスはバツが悪そうにオレンジの髪を撫でた。
「なんだよ。俺、間違ったこと言ったか?」
「いや、カルロスが止めてなかったら、オレが止めていた。イリスちゃん、余裕なくなっているんだよ。今はフィオナ姐さんに任せようぜ」
フィオナは足を緩めたイリスに追いつき、腕を掴んだ。イリスは泣いていて、フィオナは抱きしめる。
「よしよし」
イリスはぎゅっとフィオナの服を掴んだ。震えているイリスの背をフィオナは撫でた。イリスは嗚咽交じりの声で言った。
「このままじゃ、犯人はいつまでもわからない。お父様と、お母様の石化を解けない……」
「……あたしたちにとって、一番はイリスなんだよ。それだけは、わかっていてほしい」
フィオナはイリスの髪を優しく撫でた。
「なにかあったのか?」
フィオナとイリスが顔を上げると、そこにいたのは通りかかったロバートだった。居心地悪そうに、金髪を掻いている。
フィオナは笑みを浮かべた。
「ちょっとね。メアリーの件もあって、情緒不安定なんだよ」
ロバートは納得した様子でうなずいた。
「まぁ、なんだ。困っているんじゃなきゃいい。邪魔したな」
イリスは涙を拭い、ロバートに視線を向けた。
「心配してくれて、ありがとう」
ロバートは照れたように視線を逸らした。
「あんたは友達のカルロスの主人だからな」
フィオナはロバートの顔を覗き込んだ。
「あんた、いいやつだね」
「うっせえ」
ロバートはそう言い捨てて、中庭の方へと向かっていった。その後ろ姿を見ながら、フィオナは微笑んだ。
「ロバートはぶっきらぼうだけど、カルロスと仲良くなるだけあるね。根はいいやつだ。さて、顔を洗いにいこうか」
フィオナはイリスの手を引いて、歩き出した。
騎士団の調査結果は、結局、事故として処理されることとなった。そして、学園祭は予定通り行われることが正式に発表された。
慌ただしく準備は進み、とうとう明日が学園祭当日。
この日は一日、学園祭準備に当てられている。イリスたちは当日劇をやる講堂で、リハーサルを行っていた。
カルロスはロバートと一緒に観客席で劇を見ていたが、終盤、衝撃のあまり顔をしかめていた。
リハーサルを終え、舞台から降りてきたフィオナは明るい笑顔でカルロスに尋ねた。
「どうだった?」
カルロスはぶすっとした顔で言った。
「キスシーンがあるとは聞いてない」
フィオナは首を横に傾げた。
「今さら? 台本もらったでしょう?」
「俺は字が読めないから、読んでいない」
いつのまにかフィオナのうしろにいたホセが笑った。
「安心しろ。口じゃなくて頬だから」
そう言って、頬を指差したホセに、カルロスはそれでも納得がいかないようで機嫌が悪そうに視線を向けた。
イリスは観客席の様子を露とも知らず、リチャードと舞台の上で最終の打ち合わせをしていた。リチャードはイリスの腰に手を当てた。
「このシーン、もう少し抱き寄せても大丈夫か?」
「ええ。その方がルイスとミュリエルの親密感が上がっていいと思う」
リチャードとイリスはお互いを見つめ合い、役になりきっている。それを見ていた女生徒たちがほうっとした表情でそれを見ていた。
「あのお二人、お似合いね」
「ええ。見惚れてしまうわ」
カルロスはそれを聞きながら、観客席から面白くなさそうに舞台を見ていた。フィオナがカルロスの肩を叩いた。
「ただの劇だよ、カルロス。嫉妬するなって!」
カルロスはフィオナの頬をつねった。
「いひゃい、いひゃい」
「フィオナ姐さん、実はカルロスに頬をつねられるの、そんなに嫌いじゃないだろ?」
ホセは呆れたようにそれを見ていた。




