第58話 潜入④
授業は中止になり、生徒は寮で待機となった。
イリスとフィオナは重い空気の中、黙ったままベッドに腰かけている。
そこへドアをノックする音がして、フィオナが開けると、リチャードが立っていた。
「失礼するよ」
フィオナは驚いた顔でリチャードを見上げた。
「生徒は部屋で待機でしょう?」
「ああ。学園長から今回の事件の調査するようにと生徒会に依頼があった。それで話を聞きにきたんだ」
イリスはうなずき、リチャードに勉強机の椅子をすすめた。そこにリチャードは座り、息をついた。
「今回のことは、俺もショックが大きい。二人は体調に異変はないか?」
「大丈夫よ。それより、なにを聞きにきたの?」
イリスがそう答えると、リチャードは真剣な表情をした。
「メアリーについて、なにか気になったことなどあれば教えてほしい」
それにイリスとフィオナは顔を見合わせ、フィオナが答えた。
「あたしたち、メアリーとはそんなに仲良くない」
リチャードは軽くうなずき、わずかに口元に笑みを浮かべた。
「全員に聞いていることだ。他殺なのか、事故なのか、もしくは自殺なのか、まだわかっていないんだ。俺はこれからメアリーの部屋に手がかりがないか確認しにいく」
そう言って立ち上がったリチャードをイリスは止めた。
「リチャードひとりで?」
リチャードは振り返った。
「ああ。他の生徒会メンバーは聞き込みや、屋上の調査に回した。人手が足りないんだ」
「なら、私とフィオナも同行するわ。メアリーの同室は、たしかバーバラよね? 同性の私たちがいた方がバーバラも安心するんじゃないかしら?」
イリスの言葉にリチャードは考える素振りを見せ、うなずいた。
「イリスさんの言う通りだな。お願いしよう」
イリスたちは部屋を出て、静かな廊下を歩いた。メアリーとバーバラの部屋のドアをノックすると、泣きはらした目をしたバーバラが顔を出した。
「イリスさん? どうしてここに……」
リチャードがドアに手をかけ、顔を覗き込ませた。
「生徒会だ。メアリーのことで調査している。部屋に入れてもらえるか?」
バーバラは戸惑いながらも、道を開けた。イリスは室内に入り、中を確認する。部屋の作りはイリスの部屋と同じで、左右に個人スペースが分けられている。バーバラに尋ねた。
「メアリーはどっちを使っていた?」
「あっち」
バーバラは左側を指差した。イリスはうなずき、調査を始める前にバーバラに優しく声をかけた。
「メアリーのこと、ショックだったでしょう。リチャードは今、メアリーが亡くなった原因を探しているの。気分を悪くするかもしれないけど、少しだけメアリーの荷物を見させてね。――フィオナ、バーバラについていてあげて」
フィオナはうなずき、バーバラの肩に手を添え、ベッドに一緒に座った。
リチャードは腕まくりをした。
「よし、やるか」
リチャードは机の周辺の確認をはじめた。イリスはベッド脇のキャビネットの引き出しを開けた。そこにはペンダントが入っていた。メダルのようなペンダントトップがついていて、羽の生えた人と、その周りにリースが掘られている。それを目線の高さまで掲げ、首を横に傾げた。
「これ、見覚えがあるけど、なんだったかしら……」
リチャードが顔を上げ、ペンダントを見た。
「ああ、メアリーも妖精教の信徒だったのか。この国では珍しくない」
そう言って、また机の引き出しの中に視線を戻した。
イリスは妖精教と聞いて、以前、本で読んだのを思い出した。リース王国で根強い信仰を集めている宗教だ。ペンダントを引き出しに戻し、下の段の引き出しも見たが、手がかりになるようなものはなかった。
リチャードの方も同様で、首を横に傾げている。バーバラを振り返った。
「辛いことを聞いて悪いが、メアリーのことでなにか気になることはないか? 悩みがあったとか……」
バーバラは首を横に振った。
「メアリーは自殺するような子じゃない!」
わぁと泣き出したバーバラの背をフィオナが撫でた。
イリスは机の上に置かれた『ルイスとミュリエル』の表紙に手を触れる。
「メアリーは劇を成功させるため、真摯に向き合っていた。自殺を考えていたとは思えない」
リチャードは目頭に手を添えた。
「なぜ授業を欠席し、屋上にいたのか……。真面目なメアリーが授業をサボったとも思えない」
それにはイリスも同意だった。
結局、何の成果も得ないまま、部屋を出た。
リチャードは軽く肩を回している。
「二人とも手伝ってくれてありがとう。あとは生徒会の方で調査するから部屋で待機していてくれ。ちゃんと鍵かけておけよ」
イリスはうなずき、フィオナと共に部屋に戻った。
フィオナは机に置いておいたブローチを手に取り、ベッドに座った。
「カルロス、ホセ」
少し間をおいて、ホセが答えた。
『何かあったか?』
フィオナはうなずいた。
「今、メアリーの部屋にイリスと行ってきた」
『は? なんで?』
今度はカルロスの声だ。
「話すと長いし、重要じゃないから経緯は割愛する。メアリーの部屋には、犯人に繋がる確証も、遺書のようなものも見当たらなかった」
それにホセがわずかに沈んだ声で言った。
『オレがこの間、揺さぶったせいだったとしたらごめん……』
『何の話だ?』
カルロスはそう尋ねると、またホセの声がした。
『メアリーに校章を落としたことについて尋ねた。もしメアリーが犯人で、オレが追いつめたのだとしたら……』
フィオナは眉をひそめた。
「ホセ、悔やんでもしょうがないよ。メアリーが犯人のひとりだった証拠はまだない」
『フィオナの言う通りだ。ホセ、あまり思いつめるなよ』
カルロスがそう言ったが、ホセからの返答はなかった。
カルロスはため息交じりに言った。
『もう少しシャーロットとロバートを調査したら引き上げよう。森の魔女の解析の進捗も気になるし、他の切り口を探した方がいいかもしれない』
「そうね。タイムリミットは、文化祭が終わるまで」
イリスはそう決意した。




