第51話 デート②
日が暮れはじめ、カルロスは街はずれの丘にある公園へとイリスを連れてきた。そこは街が一望できる場所で、イリスは景色の良さに顔を綻ばせた。二人はベンチに座り、景色を眺めていた。
イリスは隣に座るカルロスに視線を向けた。
「どうしてこの場所を知っていたの?」
カルロスはオレンジの髪を掻いた。
「昨日、トムに聞いたんだ。デートするのにいい場所はないかって……」
少し照れた様子のカルロスの顔は赤い。イリスは嬉しそうに微笑んで、カルロスの肩に頭を寄せた。
「ありがとう。今日はとても楽しかった」
「ルーベンスじゃ、こうはいかないからな」
カルロスはおそるおそるイリスの肩に手を回した。
しばらく二人は寄り添い、街を眺めていた。カルロスはかばんから先ほど買ったローズクォーツのネックレスをとりだし、イリスに差し出した。
「もらってくれるか?」
イリスは薄い茶色の瞳を細めた。
「私にだったの? てっきりダニエラへのお土産かと思っていた」
「イリスに似合いそうだったから……」
イリスはカルロスに背を向けながらココアブラウンの髪を脇によけ、わずかに振り返った。
「つけてくれる?」
カルロスはうなずき、イリスにネックレスをつけた。イリスはそのネックレスに手を添え、嬉しそうに微笑んだ。
「カルロスはローズクォーツの石言葉を知っている?」
「石に言葉なんてあるのか?」
イリスは立ち上がり、首を横に傾げているカルロスを満面の笑みで振り返った。
「ありがとう、カルロス!」
「なんだよ、教えろよ。気になるだろう?」
カルロスも立ち上がり、イリスの手を取った。
二人は手をつなぎ、歩きはじめた。
イリスはローズクォーツに手を添えた。ローズクォーツの石言葉は『愛の告白』。カルロスはそれを知らなかったようだが、それでもそれを贈られたことが嬉しかった。
カルロスはまだ意味を聞いてくるが、教えたらきっとカルロスは困ってしまう。
「さぁ、帰りましょう。暗くなってしまうわ」
カルロスは教える気のないイリスに肩をすくませ、うなずいた。
その日の夜。
暗い部屋のベッドの中でイリスはカルロスにもらったネックレスに触れていた。
――昼間はとても楽しかった。
幸せな気持ちでイリスの顔は綻んでいる。時が止まり、カルロスと旅をはじめたころのことを思い出す。
――何でもわかっているような言動が鼻につくこともあったけど、すぐにカルロスがいなければ旅は不可能だって思い知ったんだっけ。
イリスはふふっと小さく笑った。仰向けになり、瞳を閉じた。
――あの緑の瞳に見つめられると、嬉しくてたまらない。
開いた薄い茶色の瞳は、不安げに揺れた。
――カルロスは私のことをどう思っているのだろうか……。
デートをしてネックレスをくれた。嫌われてはいないし、むしろ好いてくれているのだろうと思う。これから先、ずっと一緒にいられたらどんなに幸せだろう。
イリスはバルコニーに出た。日中は賑やかだった通りも、今はしんと静かで、空に散らばる星を見上げた。寒さにわずかに震えた。
「ああ、苦しいなぁ……」
カルロスへの恋心が、今はイリスの胸を締めつけている。涙がこぼれ落ちそうで、唇をきゅっと結んで耐えた。
「イリス、どうしたの? 眠れない?」
その声はフィオナで、イリスが振り返ると、少し寒そうにしながらフィオナも外に出てきて、イリスの隣に並んだ。
「ちょっと外の空気を吸いたくなって」
イリスは笑顔で答えたが、フィオナは首を横に傾げた。
「今日、カルロスと何かあった?」
そう尋ねるフィオナの顔は心配そうで、イリスは首を縦に振った。そして、ネックレスをフィオナに見せた。
「ネックレスをもらったの」
フィオナは月明かりに照らされたネックレスを見て、にやにやと笑った。
「おお。カルロス、やるじゃん。それなのに、どうしてイリスは悲しそうなの?」
イリスは目を丸くして、フィオナから視線を逸らし、星空に目を移した。手すりに肘をつき、頬に手を添える。
「私はルーベンス王国の第一王女。いずれ王位を継ぎ、女王になる。きっと遊牧民のカルロスとの恋は許されない」
フィオナは伏し目がちにうなずき、イリスと同じように星空を見上げた。
「人間は身分とか立場とか、縛られるものが多くあって大変だね」
「だから、きっとカルロスは言葉にはしてくれない」
イリスの言葉にフィオナは苦笑した。
「あの男は余裕ぶっているけど、根は大真面目だからね」
イリスはくすくすと笑った。
「そういうところもカルロスらしくて好き」
「つらいね。でも、あたしはふたりに幸せになってもらいたいよ」
イリスはフィオナに頭を寄せると、フィオナは抱き寄せるようにしてイリスの頭を撫でた。




