第45話 フィードラー王国②
噴火で壊滅した地域に入り、イリスたちは街道沿いで見つけた村に立ち寄ることにした。やはりここもお祭り騒ぎで、村人たちは浮かれた様子だ。
カルロスが声をかけたのは若い女性だった。
「この辺りは噴火で被害に遭った地域だと聞いたんだが……」
カルロスは辺りを見回すと、そんな様子はなく、のどかな農村だった。
女性は明るい笑顔で振り返り、うなずいた。
「そうよ。わたしも生き返った人のひとり。突然、あそこに見えるフェルネル火山が噴火をしたの」
女性はそう言って山を指差した。フェルネル火山は、大きく綺麗な山だった。女性は話を続けた。
「噴石が降り注ぎ、フェルネル火山は火を噴いていた。まるで地獄のような光景だったわ。わたしは逃げる途中、噴石に当たったと思ったの。でも、目を開いたら、まるで何事もなかったかのようで、聞けば、十七年が経っていた。これはきっと神様がくれた奇跡なんだわ!」
イリスは首を横に傾げ、聞きづらそうに尋ねた。
「生き返ってから、なにか体に異変とかはないんですか?」
「全然! やりたいこともたくさんあった。結婚して、子供を産んで、幸せな家庭を築いて、これから幸せに生きていくの!」
女性は満面の笑みで両手を広げ、流れている音楽に合わせてくるりと回った。
イリスたちはお礼を告げて、街道を歩いていく。みんな難しい顔をして、それぞれなにか考えているようだが、誰一人として口を開かなかった。
街道の向こうから馬に乗った男性がやってきて、声をかけてきた。
「首都ブルガーへ向かうのか?」
カルロスはうなずいた。
「そのつもりだが、何かあったか?」
男性は真剣な顔をイリスたちに向けた。
「神の奇跡かなんだか知らないが、死人が生き返り、街も元通り。それに誰一人としておかしいと感じていない。俺は気味が悪くてしょうがない」
フィオナは馬上の男性を見上げた。
「おじさんはブルガーに行ってきたの? どんな感じだった?」
「そこらの村と同じでお祭り騒ぎさ。君たちも関わらない方がいい」
そう言って、男性はまた馬を走らせ、アレクセイ王国の方角に向かって去っていった。
その日の夜。
フィオナは焚火を見つめ、ずっと考えていたことをイリスたちに話した。
「今回、時の妖精が魔法をかけたのは、おそらくフィードラー王国の範囲内だけだろう。その証拠に、その頃、この国にいなかったあたしたちは、この異変に違和感を覚えている」
カルロスは剣の手入れをしながらうなずいた。
「昼に会った人も、俺たちと同じようだった。フィオナの考えは間違っていないだろう」
ホセは首を横に傾げた。
「以前は世界中の人の時間を止めたのに、今回はなんでフィードラー王国だけだったんだろう。だって、フィードラー王国の外の人間は、みんなフィードラー王国での出来事を認識できてしまう。それって、危なくないか?」
イリスはうなずいた。
「神の奇跡として崇められるか、異端者として迫害を受けるか。どちらかでしょうね……」
フィオナもうなずき、黄金の瞳をホセに向けた。
「おそらくだけど、今回、時の妖精が叶えた願いの持ち主は、魔女じゃない。魔力が足りなかったんじゃないかな?」
カルロスはそれに首を横に傾げた。
「人間が魔法を使ったっていうのか? 知識もなく?」
「イリスだって魔法が使える。人間も魔女ほどではなくても魔力を持っている。もし、時の妖精は、願った人の魔力を糧に魔法を使うのだとしたら……。って、全部仮説でしかない!」
フィオナは赤い髪を両手でかいた。
イリスはフィオナに微笑んだ。
「しかたがないわよ。私たちはまだ確証を得られるほどの情報を持っていないもの」
カルロスはうなずいた。
「そうだな。イリスの言う通りだ。それにフィオナの仮説は、俺たちが時の妖精を見つけるための指針にはなる。惜しみなく仮説を立ててくれ」
フィオナは苦笑し、肩を落とした。
「頭がおかしくなりそうだよ。とにかく、明日にはブルガーにつく」
「気を引き締めていかないとな!」
ホセが腕まくりして言った。その顔はどことなく楽しそうで、イリスはホセらしくて思わず笑ってしまった。
翌日の昼過ぎにはブルガーに到着した。
異国情緒あふれるアレクセイ王国に対し、先祖がボリス大陸からの移民であるフィードラー王国の首都ブルガーは、どこかルーベンス王国に似た雰囲気があり、親しみを感じた。
人々が行き交う中、イリスたちは街の様子を観察しながら歩いていた。やはりお祝いムードで、人々の表情は明るい。
三人の衛兵がこちらに向かって歩いてきたので、イリスたちは道の端に避けると、衛兵のひとりがこちらを驚いたように見て、声をかけてきた。
「失礼ですが、お名前をお聞かせいただけますか?」
それはカルロスに向けて言われたようで、カルロスは驚きながら首を横に傾げた。
「カルロスだ。俺になにか用か?」
衛兵たちは顔を見合わせた後、またカルロスの顔を見た。
「ご同行いただきたい」
それに今度はイリスたちが顔を見合わせた。フィオナはこそっとカルロスに尋ねた。
「え? 何かした? カルロス」
それにカルロスは焦ったように言った。
「何もしてねぇよ。ただ歩いていただけだ」
イリスはカルロスの腕を掴んだ。
「従った方がいいわ。揉め事は避けたいもの」
ホセもうなずくので、カルロスは小さくため息をついた。
「わかった。それで、どこへ行くんだ?」
衛兵は先導するように歩き出し、カルロスを振り返った。
「ついてきてください」
歩き出したイリスたちの背後からは二人の衛兵がぴったりとついてくる。
ついた先は城で、すれ違う人々は驚いたような視線をカルロスに向けてきた。居心地が悪そうにカルロスは身じろぎした。
客間で待つように言われ、イリスたちは椅子に座った。侍女がお茶まで入れてくれる。
ホセは部屋をじっくりと眺めている。
「捕まったわけじゃなさそうだな」
フィオナはお茶を一口飲んでうなずいた。
「みんなカルロスを見ていたね。これがイリスだったら、ルーベンス王国の王女だとばれたのかと想像できるけど……」
イリスは首を横に傾げた。
「ここは十七年前に滅びた地域だもの。その頃、私はまだ生まれていないし、知る人はいないはずよ。それにフィードラー王国については、私も聞いたことはない。当時、国交があったのかどうかもわからないわ」
ホセは腕を組んで首を横に傾げた。
「いったい何の用だろうな?」
ホセがカルロスに顔を向けると、カルロスも思い当たる節がなくて首を横に傾げた。




