第42話 アレクセイ王国
時折、海が荒れることがあったが、無事にアレクセイ王国にたどり着いたイリスたちは久しぶりの陸地に降り立ち、伸びをした。
トムはそんなイリスたちに微笑みながら、お辞儀をした。
「イリス王女殿下、俺はここまでです。旅のご無事をお祈りいたします」
「トム、約一か月の間、お世話になりました」
イリスが頭を下げると、トムは慌てた様子で両手をイリスに向けた。
「おやめください。困っちまう……」
ホセ、カルロス、フィオナはトムの様子に笑った。
トムと別れ、アレクセイ王国の港を歩きながらカルロスは辺りをきょろきょろと見回した。
「これからどうするか……。アレクセイ王国の地理は全くわからない。とりあえず、街に行って、今日の宿をとるか」
そう決まって異国の雰囲気あふれる街を歩いていると、宿屋を見つけ、イリスたちはそこに入った。カルロスがカウンターの女性に声をかけた。
「四人、泊まりたいんだが……」
女性は首を横に傾げ、何か言ったが、カルロスは聞き取れなかった。カルロスは、はっとして、イリスたちを振り返った。
「言葉が通じない……!」
それにホセとフィオナが戸惑った顔をすると、イリスがカルロスの隣に立ち、ペトロフ語を流暢に話し出した。
「泊まりたいのだけど、部屋は空いていますか?」
女性は笑みを浮かべた。
「空いていますよ。三〇五号室をどうぞ」
そう言って、カウンターに鍵を置いた。イリスはうなずき、鍵を取った。
「ありがとう」
すると、女性は少しなまってはいたがボリス語で言った。
「ごゆっくり」
イリスは三人を振り返った。
「三〇五号室だって。いきましょう」
そんなイリスを三人は目を丸くして見ていた。イリスは首を横に傾げた。
「……どうしたの?」
フィオナは黄金の瞳を輝かせた。
「イリス、この国の言葉を話せるの?」
「ええ。少しだけ。国交があるから勉強した」
カルロスはイリスの隣を歩きながら言った。
「心強いな」
イリスたちは部屋で少し休んでから、街を散策することにした。目的は地図を手に入れることで、地図は本屋ですぐに購入できた。
夕食を近くの食堂でとりながら、イリスたちは地図を眺め、今後について話し合っていた。
イリスが首を横に傾げる。
「まずは、どこに向かうかよね……」
フィオナは腕を組み考えながら唸った。
「風が吹く場所……」
カルロスはハンバーグを一口食べ、飲み込んだ。
「抽象的すぎる」
ホセがフォークを片手に言った。
「谷とか? 死の谷の風はすごかったよな! あとは……」
すると、隣のテーブルの男性がこちらにやってきた。
「懐かしい言葉だ」
それは聞き慣れたボリス語で、イリスたちは、はっと顔を上げた。そこにいたのは、身なりがしっかりとした男性だった。言葉が通じないため、警戒せずに話していたイリスたちは、顔を強張らせる。それに男性は苦笑した。
「突然、知らない人間から話しかけられたらそうなるよな。俺は以前、アルド王国にいたんだ。商人をしていて、拠点をアレクセイ王国に移してだいぶ経つ。ボリス語が聞こえてきて、つい話しかけてしまった。驚かせてすまなかったな。俺はエドワードだ」
エドワードは手を差し出し、カルロスはうなずき、代表してその手を握った。
「俺はカルロス。エドワードはこの辺りの地理に詳しいのか?」
「ああ。商人だからな。アレクセイ王国のことは詳しいよ。君たちは旅行か?」
「まぁ、そんなところだ」
カルロスはエドワードからどう情報を引き出そうか思案していると、エドワードが尋ねた。
「さっき谷と聞こえたが、もしかしてボロドゥリンの谷に行くのか? あそこは大きな滝があって、景色もいい。観光名所だし、おすすめだぞ」
それにイリスたちは顔を見合わせた。観光名所なら人も多いだろう。そんな場所に風の魔女がいるだろうか。イリスがそう考えていると、ホセがエドワードに尋ねた。
「そのボロドゥリンの谷はどこにある?」
エドワードはテーブルにある地図を指差した。
「この辺りだな。秘境だから気をつけろよ。道を外れると迷うぞ」
フィオナはエドワードを見上げた。
「秘境なのか……。うん、候補としてはよさそう。エドワードは行ったことあるの?」
「ああ。素晴らしいところだった」
イリスは微笑んだ。
「ありがとう。行き先に迷っていたから助かったわ」
エドワードも微笑んだ。
「よければ、食事の席に俺も混ぜてくれよ」
そうして、エドワードも交え、イリスたちは食事を終えた。
宿の部屋に戻り、それぞれベッドでくつろぎながら、イリスたちは話していた。
カルロスはベッドの上で腕を組み、悩んでいた。
「ボロドゥリンの谷に行ってみるか、否か……」
ホセは寝転がり、枕に肘をつき、頭に手を添えていた。
「他に手がかりないしなぁ。観光名所だっていうし、行って損はないんじゃない?」
カルロスはホセに呆れた顔を向けた。
「旅行気分だな、ホセは」
ホセはそれに笑った。
「せっかくアレクセイ王国にきたんだ。楽しもうぜ」
フィオナはうつぶせに寝転がり、枕を抱えている。
「あたしはホセに賛成かな。秘境だって言っていたし、観光名所から外れれば、人が立ち入らない地域なのかも。そういうところ、魔女は好きだよ」
イリスはベッドの淵に座り、足をぶらつかせている。
「行ってみる価値はありそうね」
カルロスもうなずいた。
「そうだな。行ってみるか。明日から歩くぞ。早く寝よう」
カルロスはそう言って、ランプの灯を消した。




