第3話 お茶会
翌日。
イリスは父である国王からの命令通り、自室にいた。
庭ではお茶会がはじまっていて、楽しげな笑い声が遠くに聞こえる。
イリスは椅子に座り、物思いに耽っていた。カルロスの「また明日な」という言葉が頭から離れない。明日になれば、カルロスはこの街を離れる。今日会えなければ、もう会えないような気がした。
――カルロスは今、あのお茶会にいるのだろうか。
イリスは立ち上がり、カルロスたちと会うときに着る服に着替えた。
自室のドアを少しだけ開け、廊下に人がいないことを確認してからそっと歩き出した。
最後にお茶会に出たのは、いつだっただろうか。時が止まって三度目の秋だったか。その頃にはイリスを見る人の目は冷たくなっていた。
そういえば、小さい頃に、庭のお茶会に迷い込んだことがあった。そこで遊牧民の男の子と出会ったことを、今の今まで忘れていた。あの少年の名は聞かなかったが、その少年もお茶会にきているのだろうか。
イリスはそこで足を止めた。父は『お茶会が開催されている間、部屋から一歩も出るな』と言った。
けれど、イリスの心は止まらなかった。薄い茶色の瞳が煌めき、駆け出した。
イリスは庭まで出て、木陰からお茶会の様子を窺った。テーブルに並べられた料理からは、よい香りが漂っている。
だが、カルロスたちの姿は見当たらない。探しに行こうかとも思うが、足がすくんでしまう。子供たちに紛れてしまえば、きっと誰もイリスだと気づかない。そう思うのに、木陰から一歩前に出ることができなかった。
――諦めて部屋へ戻ろうか……。
うつむいてそう思ったときに、名を呼ばれた。
「レイダ?」
顔を上げた先にいたのは、ダニエラだ。
「どうしたの? そんなところで」
コニーの手を引きながら、ダニエラは不思議そうに首を横に傾げている。戸惑いながらも笑みを浮かべたイリスに、ダニエラも微笑んだ。
「レイダも一緒にお茶会を楽しみましょうよ」
ダニエラの笑顔に惹かれるようにイリスはお茶会に一歩踏み出した。
「ダニエラとコニーだけ?」
「ええ。カルロスはまだ見てない」
「私、あまり長くはいられないの。内緒できてしまったから……」
人の視線から逃れるようにうつむくイリスを、ダニエラは見た。
「カルロスはしばらく来ないと思うわ。長のエイブラハムさんと一緒に陛下にご挨拶に行っているから。カルロスは長の孫なのよ」
イリスが驚いた顔を上げた。
――それを知っていれば、城の入口近くで待っていて、声をかければ済んだのに……。
けれど、ダニエラとコニーにも会いたかったし、少しお茶会に紛れるのもいいかもしれない。イリスは気持ちを入れ替え、ダニエラたちとお茶会を楽しむことにした。
テーブルに並べられた料理はどれも美味しそうで、気づけば皿の上は山盛りになっていた。
そのとき、お茶会の一角が騒がしいことにイリスは気づいた。そこには衛兵が数人いて、辺りを見回し、なにかを探しているようだ。
――きっと部屋にいないことがばれたんだわ。
イリスの顔から血の気が引いた。そんなイリスをダニエラが心配そうに見つめた。
「レイダ? どうしたの?」
――このままではダニエラとコニーに正体を知られてしまう。知られたくない……!
「わ、私、急用を思い出したの。ごめんなさい」
イリスは衛兵たちがいない反対方向に逃げだした。それを衛兵が見咎めた。
「お待ちください! イリス王女殿下!」
衛兵に呼び止められたのが聞こえたが、イリスは止まることなく走った。辺りは衛兵の一言にざわめいた。
「あのいかれた姫がきているのか?」
イリスは耳を塞ぎ、よろけながらも止まらなかった。
――嫌だ! 聞きたくない! 私は間違っていないのに!
「レイダ、こっちだ。こい!」
木陰からカルロスがイリスに手を差し出した。イリスは迷うことなくその手を取った。




