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時の守人~時に翻弄された王女イリスは諦めない~  作者: 冬木ゆあ


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第11話 分かれ道

 山へと戻っていく狐を見送り、イリスたちは山を背にして歩きだした。

 少し歩くと、小さな一軒家があり、家の陰からひとりの体格のいい男性と一匹の大きな犬が現われた。イリスたちに気づくと立ち止り、憮然とした顔を向けた。


「お前ら、まさか山から来たのか?」

「ああ、山を越えてきた」


 カルロスが答えた。

 男性はカルロスを頭から足の先まで見た。カルロスの背後にいるイリスとフィオナにも目を向けた。


「その軽装で? お前らだけで山を越えてきたのか?」

「ああ、そうだ。ひとつ教えてもらいたい。北へ行くにはどうしたらいい?」

「……ついてこい」


 男性はきびすを返し、家へ向かった。カルロスは言われた通りについていく。イリスとフィオナは、顔を見合わせてから、カルロスのあとをついていった。

 男性は家の中にイリスたちを招き入れた。平屋で、玄関を入ってすぐにリビングがあった。そこにキッチンと二人掛けのテーブル、棚があるだけの質素な部屋だ。

 そこにはひとりの女性がいた。ふっくらとしたおおらかそうな女性だ。男性とともに入ってきたイリスたちを見て、目を大きく開いた。


「どうしたんだい?」

「山から来たんだと。北へ行きたいらしい」

「はぁー、山から? それは難儀だったね。お茶でも飲むかい?」


 女性はそう言って、キッチンに立った。

 男性は棚をごそごそと漁り、なにかを探しているようだ。一度手を止めて、玄関の前で立っているイリスたちを振り返った。


「その辺に座っていろ」


 また棚へと視線を戻した。カルロスは絨毯の敷かれた適当な場所に座った。イリスとフィオナもそれに倣う。

 女性がお盆に乗せたお茶をイリスたちに手渡し、そばに座った。


「なんで子供だけで旅なんかしているんだい? しかも、山越えなんて無謀だね。まぁ、無事でよかったよ」

「まぁ、俺もそう思ったんだけど……」


 カルロスはフィオナを見た。

 当初、カルロスはイヴァン山脈を迂回する道を考えていた。しかし、フィオナがイヴァン山脈を越える道を提案した。イヴァン山脈を越えれば十日程度の道のりだが、迂回するとなれば一カ月半はかかる。わざわざ遠回りをする必要はないと言った。

 フィオナは自分がいれば山越えがそう困難ではないことをわかっていたのだ。今ではフィオナの選択は間違っていなかったと言える。しかし、カルロスは無謀だと思っていた。せめてフィオナの能力を教えてくれていれば、不安に思うことはなかったのに。

 少しばかりフィオナへの不信感があることは否めない。

 そんなカルロスの胸中など知らずに、フィオナは両手でカップを持ってお茶を啜っていた。


「あったぞ」


 男性が古い羊皮紙をカルロスに手渡した。それは古ぼけてはいたが、地図だった。


「ここから北東に進むと、首都カレルを通る街道に出る。その街道は、北の街レオーネまで続いている」

「街道を行かなきゃだめか? この道は?」


 カルロスは街道から逸れる細い道を指差した。街道は東にある首都を通るため、迂回していた。カルロスが指した道は、一度、街道から逸れるが、北へとまっすぐに伸び、いずれまた街道に戻る道だった。その道を使えば一週間ほど短縮できるだろう。しかし、男性は首を横に振った。


「街道を逸れるのは止めた方がいい」

「獣か?」

「いや、人だ。この辺りは治安が悪い」


 カルロスはうなずいた。それから地図を眺め、考えるようにあごに手を遣った。


「もう日も暮れる。納屋を使っていいよ」


 女性の言葉にイリスたちは甘えることにした。


 日もすっかりと暮れ、イリスたちは納屋で地図を囲んでいた。ランプが地図を照らす。


「街道を行こう」


 カルロスはそう結論づけた。


「でもさ、あたしたちなら大丈夫でしょう」


 そう言うのはフィオナだ。フィオナはカルロスが目をつけた細い道を指さす。


「この道を行けば近道だ。カルロスもそう思ったんでしょう?」

「だが、治安が悪いと言っていた。わざわざ危険に身を晒す必要はない」

「獣ならいいの?」

「なに?」


 カルロスは顔を上げた。フィオナは黄金の瞳でカルロスを見ていた。


「カルロスはおじさんに『獣か?』と聞いた。だけど、人だと聞いて考えを変えたよね? それって獣は殺しても、人は殺したくないってこと?」

「そうだ。人を殺すことは避けたい」

「どうして? なにが違うの?」


 フィオナは首を横に傾げた。カルロスはフィオナをじっと見つめ、山に入る前にフィオナが「あたしは魔女だよ。人じゃない」と言っていたことを思い出した。その本当の意味が、今、わかったような気がした。フィオナにとって人間は同族ではない。獣も人もフィオナにとっては同じ括りなのだ。


「……俺とイリスは人だ。同族を殺すことは避けたい」

「ああ、そうか。人が人を殺すことは倫理に反するんだっけ……」


 フィオナは思い出したようにぽつりと言った。腕を組んで地図を見下ろすフィオナを、カルロスは自分たちとは違うものなのだと改めて認識した。


「でもさ、やっぱりこの道で行かない?」


 カルロスは呆れた視線をフィオナに向けた。


「俺の話、聞いていたか?」

「聞いていたよ。その上で言っているんだ。首都を通るのはどうなのかな」

「どうして?」

「見てごらんよ。あたしは赤い髪に黄金の瞳。カルロスはオレンジの髪に緑の瞳。こんな目立つ二人がいて、子供が三人で旅をしていたら怪しいじゃない」


 カルロスは黙った。フィオナの言葉には一理ある。


「首都なんて人も多いし、衛兵だっているでしょう? 見咎められたら? 人目につくのはよくないよ。治安が悪いと言っても、必ず襲われる訳じゃない。もし襲われても逃げればいいんだよ」


 カルロスはがしがしとオレンジ頭を掻いた。


「イリスはどう思う?」

「……私もカレルは避けたい」


 イリスはそうぽつりと言った。道は決まった。


「……わかった。カレルは避けよう」


 カルロスが意を決したように言った。

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