表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/37

第35話 無色の神と、旨味の子

四人の大男が幼児忍を囲んで牛丼を頬張る、あの騒がしい食卓の余韻が残る寝室に――

突如、黒衣の群れが雪崩れ込んだ。


「全員、ひれ伏せ! 大司教バルカ様のお越しである!」


先頭に立つのは聖公会の最高指導者・バルカ。

その背後には、神聖力を暴走させたエルゼが虚ろな目で浮遊していた。


「王太子殿下、諸侯の皆様。……その幼児(あくま)から離れなさい」


バルカの声は、神を騙る傲慢さに満ちていた。


「その少年は“味”という毒で皆様を惑わせる魔物。聖公会は――『神権行使』を宣言します」


「神権行使だと……!?」


王太子が立ち上がるが、黒衣の信徒たちが一斉に杖を向けた。

アレックスが一歩前に出る。


「……ふざけるな。忍が魔物? 笑わせるな」


足元から闇が噴き上がる。


「この子は、お前たちが“安らぎ”の名で枯らした心に灯をともした。その灯を消すというなら――祈る暇もなく斬るだけだ」


「異端者が吠えるな!」


バルカが杖を振り下ろすと、エルゼが両手を広げた。

無色の波動が寝室を侵食し、色も匂いも音も奪っていく。


「……あう……いたい……の……」


三歳児の忍が耳を押さえてうずくまった。


「忍!!」


四人の咆哮が重なる。

レオナードが炎を纏い、ゼノスが杖を構え、王太子が剣を抜く。


「レオナード、ゼノス卿! 忍を奥へ!」


「殿下、父君を守れ!」


「アレックス、てめぇ一人で突っ込む気か!」


「……黙れ。忍の後ろに立つのは、私だ!」


アレックスの闘気とエルゼの神聖力が激突し、天井が爆ぜ、衝撃波が廊下を吹き飛ばす。


「ひゃははは! ついに本性を現したな、偽善者どもめ!」


忍の影からクリスティナが現れた。

クリスティナはかつての威厳を身に纏い、毅然と立っている。

飄々とした隠遁者の姿はそこにはない。


「忍、泣くでない。お主の“醤油”には、神の力なんぞに負けぬ“血の絆”があるわい。頑張るのであろう?ならば、見せてやれ、本当の『浄化』を!」


忍は頷いた。

グイっと忍は涙を拭い、震える手で懐から小瓶を取り出した。


「……じいちゃん。……これ、あけて……」


ゼノスが震える手で栓を抜く。


――トプン


落雷のような芳醇な香りが、無色の世界を貫いた。


「な……なんだ、この香りは……!?魂が……揺さぶられる……!」


究極の旨味を極めた 『再仕込み醤油・天の雫』。


「……おい、忍……これはまさか……」


忍は小さな拳を握りしめて言った。


「……これを……みんなの“たましい”に……かけて…… ……そうすれば……負けないもん……っ!」


ゼノスはその一滴を、アレックスの剣、レオナードの拳、王太子の胸甲へ振りかけた。

その瞬間、 聖公会の“無”が、 忍の“旨味”に食い破られた。


「……これは……温かい……光……?」


王太子が震える。

漆黒の剣が琥珀色の輝きを纏い、炎は香ばしい爆炎へと変わり、王太子の胸甲は柔らかな光を放つ。

無色の波動が揺らぎ、崩れ、黒衣の信徒たちが次々と膝をつく。


「ぐっ……腹が……減って……戦え……ぬ……!」


「なんだこの香りは……! 神聖力が……溶ける……!」


エルゼの結界が砕け散り、バルカが後ずさる。


「ば、馬鹿な……! 味が……神を……上回る……だと……!?」


アレックスが剣を構え、レオナードが炎を纏い、王太子が前に出る。


「行くぞ。忍の“旨味”を侮辱した罪……償わせる」


王宮は、信仰と食欲、そして愛がぶつかり合う、最終決戦の場と化した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ