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第27話 護送のはずが、王都を揺るがす“料理革命”

王都へと続く街道を、鉄錆色の甲冑を纏った重装騎士団が進んでいた。

その光景は、一国の反逆者を捕らえたかのような物々しさであったが……列の中央だけは、異様な空気を放っていた。


「……アレックスさん。これ、本当に『護送車』なの?」


忍は、目の前の光景に呆れ果てていた。

そこにあるのは檻付きの馬車ではなく、白亜の木材に金細工が施された巨大な特注馬車。

内部には最新の魔導コンロ、揺れを完全に相殺する防震魔法、さらには氷魔法による巨大な冷蔵庫まで完備されている。


(キッチンカーじゃん……しかも、別にベッド付馬車まであるし……)


「忍、道中で君の肌が荒れたらどうする。不潔な野宿など、私の誇りが許さない。……さあ、中へ。食材はレオナードが南から運ばせた最高級品を詰め込んでおいた」


「へっ、忍! 俺がさっき狩ってきた魔獣のロースもあるぜ。最高に脂がのってやがる!」


南から同行していたレオナードが馬を寄せ、窓越しに誇らしげに肉を差し出す。

レオナードは期待満々の目で忍をみていた。

連行されているはずの忍は、気づけばエプロンを締め、最高級の包丁を握らされていた。


(……これ、護送じゃなくて“豪華料理旅”じゃん……)




その夜、街道脇の野営地では、騎士たちが聖女から支給された「聖なる保存食」を口にしていた。

それは一切の味も匂いもない、無機質な乾燥クッキーのようなものだ。

「……あぁ、今日も安寧を……」

聖水と保存食を続けて摂取してきた騎士たちの瞳は、どこか乾いていた。

感情が薄れ、ただ“無”に沈むような静けさが漂っている。

その時――

中央の「厨房馬車」から、暴力的なまでの『香ばしさ』が夜風に乗って溢れ出した。


ジューッ!!


肉の焼ける音。

そこに忍が秘蔵の醤油と出汁を流し込む。


「よーし、今夜は 特製・スタミナ焼きうどん だよ!」


味噌の濃厚な香りと、出汁の芳醇な匂いがキャンプ地を制圧した。

騎士たちの鼻がピクリと動く。

聖女の「無味無臭の教え」に染まったはずの胃袋が、本能的な叫びを上げた。


「……おい。あの匂いは……なんだ? 腐敗臭(不浄)のはずでは……」


「馬鹿な……。こんなに……こんなに心が騒ぐ匂いが、不浄なわけが……」


その瞬間、ゼノスが杖を突きながら馬車から降りてきた。


「待て! 貴様ら、近寄るな! この料理に不浄が混じっていないか、私が……私がすべて検閲(完食)せねばならん!」


ゼノスはそう叫ぶなり、忍が差し出した皿をひったくるように受け取った。

ハフハフと湯気を飛ばし、うどんを一気に啜る。


「……っ!! この、小麦の弾力! そして、脂の甘みを引き立てるこの黒い液体の深いコク……! ……不浄だ! 実に恐ろしい不浄うまさだ!」


言いながら、ゼノスの箸は止まらない。

その様子を見ていた騎士たちの一人が、ついに膝を突いた。


「忍殿……! 私にも……私にも、その不浄を分けてください! 魂が汚れても構わない、その匂いを……味を……っ!」


「あはは、いいよ! みんなの分もあるから、並んで並んで!」


その夜、騎士団の野営地には、これまで聞いたことのない“満腹のため息”が響き渡った。




数日後。

ついに王都の巨大な正門が見えてきた。

石畳の整備された道。

外灯に吊るされた素朴な花の鉢植え。

噴水のある広場。

おとぎ話のような街並みがそこにはあった。

だが、何かがなかった。

忍を乗せた馬車が通るたびに、こちらを見てひそひそと話す人々。


(完全にアウェイじゃん……)


門の前では、聖女エルゼの側近たちが、連行されてくる「不浄の少年」の無様な姿を拝もうと待ち構えていた。

だが、現れた騎士団を見て、彼らは絶句した。

騎士たちは皆、かつてないほど血色が良く、

その瞳にはエルゼの聖水では決して得られない“野性的な活力”が宿っていた。

そして中央の馬車からは、もはや隠しきれないほどの『美味しそうな匂い』が、王都の静謐な空気を蹂躙するように漂っている。


「……あれが……不浄……? いや、あれは……」


側近たちがざわつく中、

遠く離れた大聖堂の塔で、エルゼがわずかに眉をひそめた。


(……この匂い……何? 胸がざわつく……不快……)


馬車の窓から顔を出した忍は、肌ツヤをピカピカに輝かせ、不敵に笑った。


「さあ、王都に到着! ……まずは、聖女様に、熱々のなべ焼きうどんでも食べさせてあげようかな」


「もちろん、俺たちの分もあるよな、忍」


レオナードが牙を剥いて笑っている。


「何度言ったらわかる。貴様のはない」


忍の背後では、アレックスが剣の柄を握り、臨戦態勢に入っている。


(……僕、連行されてるはずなのに……なんで“王都攻略戦”みたいになってるの?)


「連行」は、いつの間にか「王都陥落」へのカウントダウンへと変わっていた。


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