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【書籍2巻発売中】ノブリス・レプリカ ―元“貴族殺し”の傭兵少年、学園都市に嫌々入学させられる―  作者: アマサカナタ
4章 誰がための責務編

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3-1 アニキほど罪深くねえっす!!

 アルマとなんだかんだあったり、ヴィルヘルミナとすったもんだしたり、その父親とあーだこーだ話し合った、その翌日。


「なんだかなあ……」


 言葉の通りに微妙な気分で、ムジカは周囲の光景をぼんやりと見つめていた――どことも知れぬ空の上、ぷかぷかのんびりと空を行くバルムンクのブリッジから、である。

 ブリッジには手持無沙汰な自分の他、操舵輪を握るリムに、律義に通信席に座っているアルマの二人がいる。その二人にしても表情は微妙だ。リムはどことなく不機嫌そうだし、アルマはアルマでどことなくそわそわと――なんでかたまにこちらの顔を覗き見てきたり――しているが。

 

「なーんでアニキは毎回安請け合いしちゃうっすかね? どう考えても便利使いされてるっすよ、これ」


 というのが、端的なリムの不満の理由だった。

 ムジカが昨日請け負った仕事――つまりはアールヴヘイムの現管理者、トマス・アールヴヘイムからの依頼である。難しい依頼かというと、そうでもない。むしろ楽なほうだろう。小銭稼ぎとしてもちょうどいい……ところではあるのだが。

 今日何度目かのリムのぼやきに、ムジカは微妙な表情のまま返答した。


「仕方ねえだろ、先にラウルが請け負っちまってて、既に事後承諾の段階だったんだから。ここで俺に文句言われたって困るよ、俺のせいじゃねえんだし」

「断っちゃえばよかったんすよ、そんなこと知るかーって。せっかくそろそろセイリオスに戻れると思ってたのに……あのおっさんなんかいくらだって困らせとけばいいんすよ、毎回こっちが困らせられてるんすから。勝手ばっかりするんだから、まったくもう」

(一応、団長だから勝手する権利はあるんだけどな)


 思うが言わない。そんなことを言えば更に愚痴られるのが目に見えていたので。

 そう――今バルムンクが空を飛んでいるのは、帰るためではなく〝向かう〟ためである。

 どこにかといえば、先日のメタルハザードの起きた浮島、スバルトアルヴへだ。

 現在、スバルトアルヴはアールヴヘイムの管理下にある。理由はスバルトアルヴの住民が、管理者どころか平民の一人に至るまで全滅したためだ。そのためメタルハザードが起きた原因も含めて、今はアールヴヘイムのノーブルが調査を行っている。

 依頼されたのは、その調査隊への合流だった。

 といっても戦力として期待されての派遣ではないらしい。というのも、依頼してきた当人の態度がそもそも釈然としていなさそうだったからだ。

 曰く――ラウル卿と相談したうえでの依頼だ、とのことだが。


『別段、何かをしてもらおうというわけではない。だが……どうにも、嫌な予感がするものでね。ほんの少しの期間でいいから、調査隊に合流してもらいたいんだ』


 つまりは後詰の、しかも予備兵力として有事に備えてのんびりしていてほしい、ということらしい。

 内容を聞いている限り、本当に大したことのなさそうな依頼だ。加えてノーブルが主体の現場に傭兵がやってきても、体よく厄介払いされるのが目に見えている。その辺でサボっていても特に問題なさそうな仕事というわけだ。

 懸念点はただ一つ――これがラウルと相談した上での依頼であり……管理者という厄介な存在が、()()()()()()()()()()ということだが。


(だから怖えんだよな、今回の依頼……せめて、何が起こるかわかってれば苦労も減るんだけどなあ……)


 ちなみにそのラウルだが、今は不在だ。何やら用事があるとのことで、<ナイト>を使って先行中、らしい。曖昧なのはこれも事後報告だったからだ。出港直前までは一緒にいたのだが、いつの間にやらバルムンクを抜け出していた。ブリッジに書き置きがあり、それでようやく把握したほどだ。

 そしてこれもついでだが、レティシアもバルムンクには乗船していない。彼女は流石に管理者がこれ以上自分の浮島を空けているのはマズいとのことで、今朝がた別れた。移動はアールヴヘイムのノーブルが送ってくれるとのことだったが……


『お早いお帰りをお待ちしております……ね? 〝私の騎士様〟』


 最後に半分涙目の笑顔でそう言い置いていったのが、記憶に新しい。

 そして最後の一人、バルムンクの通信席に納まっているアルマだが。


「んで、アルマ? 出港前のさっきの話、結局どういうことだ? ()()()()()()()()()()()()()ってさっき言ってたけど――」

「――――」

「……あん?」


 反応が返ってこなかったので、怪訝に通信席を見やる。と、こちらを見ていたらしいアルマと目が合った……の、だが。

 ムジカは眉根を寄せると、観察のために彼女の顔をじっと見やった。彼女の顔は少し眠そうというのか、常よりわずかに薄目っぽいとでも言えばいいのか。どうもぼんやりとしており、心ここにあらずといった様子だ。


「……おい、アルマ? おい?」

「――――あ、うぇっ!? な、なんだね急に!?」

「急にって。さっき呼んだだろ?」


 どうやら本当にボケっとしていたらしい。慌てた様子のアルマに呆れた顔を向けてから――

 ふと気づいて、ムジカは訊いた。


「もしかして、まだ調子悪いか? 体ダルいなら休んでてもいいぞ? 俺かリムの部屋貸すけど」

「き、キミの部屋?」


 何故か上ずった声で繰り返すアルマに頷き返す。彼女はこれまで調子を崩していたのだ。であれば今日も、まだ本調子ではないのかもと思っての提案だ。

 と、リムも話に加わってこうぼやいてくる。


「バルムンク、客室ないっすからねえ……小型船っすから、狭い個室が三つだけっすし」

「今回は人運ぶ仕事じゃねえから、倉庫のほう準備してねえしな――……そういや今回、行きは会長も一緒だったんだろ? あの人の寝泊まりはどうしてたんだ?」

「急だし仕方なかったから、アニキの部屋片づけて使わせたっすよ? 元々アニキの部屋、荷物ほとんどなかったですし。布団だけ来客用出したっすけど」

「んじゃ俺の部屋、今使えるのか」


 というかその扱いだと、もはや自分の部屋という感じでもなさそうだ。まあ元々大した私物もないし、客人が乗るとなった以上そうせざるを得なかったのだろうが。

 その辺りで、ムジカはまたアルマのほうに向きなおった。彼女はなんでか、ポカーンとした顔をしていたが。


「どうする? 調子悪いなら寝てきていいけど。どうせまだ着かねえし」

「キミの部屋――い、いや、大丈夫だ! 心配かけてすまない。もう大丈夫だ、ちょっとぼうっとしていただけなんだ」

「ホントか? さっきから、なんか変だぞあんた……ちょっといいか?」

「ぅえ?」


 本人は大丈夫と言っているが、それでも気になる。

 というのも、船というのは基本的に密室だ。誰か一人でも風邪を引けば、そこから一気に大惨事に繋がることもない話ではない。クルーを多く乗せている船と違って、少数精鋭――という名の家族経営――のラウル傭兵団だと代わりがいないので本当に致命傷になる。

 なので通信席まで近寄ると。

 ムジカは少し身構えてこちらを見上げるアルマの額に、さっと手を当てた。


「……!? な、な、な、なんっ!?」

「あ、おい暴れんな」


 なぜか挙動不審になるアルマにぼやいてから、空いてるほうの手を自分の額に当てて、比較する。


「んー……? ちと熱い、か? 顔も……赤いな。やっぱり調子悪いんじゃねえか?」

「きゅ、急にキミが変なことするからだろう!? こ、こ、こ――子供扱いはやめてくれたまえよ!?」

「うお」


 顔を真っ赤にしたアルマが叫んで、こちらの腕をはたき落とす。どうやら怒ったようだが、こちらを見上げて目を吊り上げる様はどう見ても子供だった。

 そういや年上だっけ、と今更そんなことを思い出していると――じろりと、リムがこちらを睨んで言ってくる。


「アニキ……いい加減、そういうのやめないとダメっすよ?」

「あん? そういうのって、どういうのだ?」

「だから、そういうのっす。今みたいに女性の体断りなく触ったりとか、デリカシーないのとか。いつか痛い目見るっすよ?」

「人が毎度いかがわしいことしてるみたいに言うんじゃねえ」


 半眼で呻くように言い返すが、気付いてアルマのほうを見やれば変わらず彼女はこちらを睨んでいる。が、顔色は落ち着いてきていた。どうやら体温を測られたのが本気で恥ずかしかったか不服だっただけらしい。


(ま、額とはいえ人の顔勝手に触るのは確かにマズかったか)


 なんにしても、問題ないというのなら仕方ない。降参の仕草で詫びを示してから、先ほどまでいた場所へ戻る。

 が。


「む~……?」


 何やら思うところがあったらしい。リムはそんなうめき声をあげると――

 怪しむような目を一度アルマに向けてから、こちらに向けて言ってくる。


「アニキ。スバルトアルヴでアルマ先輩と何かあったっすか?」

「俺が死にかけた以上に愉快なことか? 心当たりはねえけど」

「その言い方……まあいいっすけど。アニキって、目を離すと大抵何かやらかすから心配なんすよ。すぐトラブル起こすし。ホントに何もやってないっすよね?」

「やってねえやってねえ。なあ?」

「む!? あ、ああ、何もなかった――うん。何もなかったよ、リム君」

「む~ん……?」


 なぜかアルマが息を詰まらせ、慌てたように言うのでリムは余計に怪しんだようだが。


「第一、トラブルの話ならお前が言えた義理か?」


 言われっぱなしというのはどうにも癪なので、ムジカは半眼で言い返した。


「お前だって俺の知らんとこで結構やらかしたりしてるだろ。それでこっちまで巻き込まれたり。言っとくけど、お前はお前で相当なトラブルメーカーだぞ? 自覚ねえみたいだけど」

「なんすかそれ! あーしのトラブルはあーしのせいじゃねーっすもん!」

「俺だって大抵のは俺のせいじゃねえよ」

「アニキのせいなのあるの認めてるじゃないっすか! それに、あーしはアニキより間違いなく頻度低いっすよ! アニキほど罪深くねえっす!!」

「罪っつったかお前」


 ああ言えばこう言う。お互い呆れて睨み合うのだが、内心ではしょうもない言い合いだなあと思ってはいた。

 その証拠に、とでも言えばいいのか。通信席からぼそりと「五十歩百歩……」という声が聞こえてきた。

 そちらに半眼を向けてやると、こちらを見ていたアルマがさっと顔を背けたが。

 不毛な口論はその辺りで終わらせると、ムジカは改めて話の方向を修正した。


「んで? 結局何なんだ、今回のスバルトアルヴ行きの件が、もしかしたらあんた絡みってのは?」

「あ、ああ。そのことか。そのことなんだがね……」


 そこで何度か咳ばらいをすると、どうにかいつもの調子を取り戻した様子で。

 アルマが言ってきたのは、こんなことだった。


「おそらくは、ラウル講師がある程度はフォローしてくれたはずなんだが……実は、やり損ねた仕事があってね。もう一度、スバルトアルヴの〝炉〟に行きたいんだ」

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25/5/31
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