↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移した金融マン、国庫金貨46枚の王国を帳簿と現代金融で立て直します  作者: rorenji


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/33

正しい税、払えない税

 税額は正しかった。


 だから、徴税人は小麦を持っていくと言った。


 持っていかれれば、北西のレムナ村では、次の収穫までに食べる麦が尽きる。


 王国暦317年春1月22日の朝、直人は財務局の長机へ3枚の紙を並べた。村の収穫帳、王国升で量り直した算定表、共同倉庫の在庫表。数字は3枚とも一致している。


「間違いはない」


 村会計補助員のテオが言った。


「今年の本税は銀貨84枚。村で集められたのは12枚です。残る72枚を小麦で納めれば、種麦か食べる分を出すしかない」


「何世帯ですか」


「41世帯、合計186人です」


 直人は在庫表を見直した。


 収穫総量から、腐敗分、家畜へ回す最低量、次の作付けに必要な種麦を引く。残った食用麦を186人で割ると、次の収穫まで1人1日分として見込んだ量に届かない。


 リヴィアが小麦を3つの皿へ分けた。来年まく種。186人が食べる分。そして税だ。


 税の皿を満たそうとすれば、種か食事の皿を空にするしかない。帳簿の数字より、そのほうが早く伝わった。


「税が正しければ、徴収しなければならない」


 評議員の1人が言った。


「あの村だけ待てば、先に払った村が損をする」


「では、足りない72枚を何から取りますか」


 直人が尋ねた。


「麦があるのでしょう」


「どちらの皿から取りますか。種を取れば来年の収穫が消える。食事を取れば、今年人が飢える」


「働かせればよい。1世帯から1人、街道修理へ出させる。働いた日数を税へ充てるのです」


 もっとも簡単な代納案だった。


 そして、もっとも簡単に強制労働へ変わる案でもあった。


* * *


「その人は、断れますか」


 リヴィアが評議員へ尋ねた。


「税を払えないのだから、働くのは当然でしょう」


「断れない仕事を、代わりの納税方法とは呼ばない」


 評議員は、働ける者のいない家は近所から代わりを出せばよいと言った。病人を看る者、幼い子を育てる者、足を傷めた者については、村長が事情を判断するという。


「村長に嫌われた家だけ、事情を認められなかったら?」


 直人が聞くと、答えはなかった。


 労働で税を納められる仕組みは、現金のない村を助けるように見える。だが、税の権限と労働者を集める権限を同じ者へ渡せば、道を直すためという名目で、払えない者を何日でも使える。


 直人は案を2枚の契約へ分けた。


 1枚には「納税延期」。もう1枚には「有給の仕事」と大きく書く。


 延期を認められた者が公共事業を断っても、期限を短くしない。財産を差し押さえない。家族や隣人へ代わりの労働を求めない。公共事業へ参加した者が途中で辞めても、すでに働いた分の賃金を減らさない。


「別の村の者も雇いますか」


 テオが尋ねた。


「募集条件を満たせば、税を滞納していない人も雇います」


 税を払えない者だけに仕事を限定すれば、その名簿がそのまま徴用名簿になる。仕事が必要な者へ開き、税との関係は本人が選ぶ形にした。


 働けない人にも同じ延期審査を認める。世帯に働ける者がいないことを、税の加算理由にもしない。


「陛下は、働かなくても税を待つとおっしゃる」


 評議員の声には非難があった。


「災害や不作で支払能力がないなら待ちます。働かせるために待つのではない」


 直人は言い切った後で、リヴィアを見た。


 彼女は2枚の紙を並べ直し、評議員へ向けた。


「働くかどうかを選べないなら、右の紙は雇用契約じゃない」


 評議員は、どちらの紙にも反論できなかった。


* * *


 延期は、税を消すことではない。


 レムナ村が今払える銀貨12枚は受領し、受領証3枚へ記す。残る銀貨72枚は、王国暦317年夏1月22日の日暮れまで、90日間延期する。延期利息と延滞罰金は0枚。30日ごとに在庫と世帯数を確認し、支払能力が戻れば村会が一部納付できるが、期限前の強制徴収はしない。


 90日後にも不作の影響が残れば、いきなり麦を持ち出さず再審査する。収穫を隠していた場合は取り消せるが、徴税人の疑いだけでは決めない。テオの記録と共同倉庫の現物を照合する。


 延期証書の正本は財務局、認証写しは国璽院、レムナ村、徴税請負人が持つ。誰か1人が「延期など知らない」と言って麦を運び出せないようにした。


「この写しを持ち帰れば、明日の徴収は止まりますか」


 テオは期限の書かれた行を指で押さえていた。


「止まる。徴税人にも同じ写しを送る。もし先に荷車が来たら、麦へ触らせず財務局を呼んでくれ」


 直人が答えると、テオの肩が大きく下がった。昨日から息を止めていたようだった。


 リヴィアは最も早い定期便へ写しを載せ、村会代表へ読むための短い通知も添えた。


 種麦は取らない。食べる麦も取らない。銀貨72枚の期限を90日延ばす。


「これなら、村のみんなへ説明できます」


 テオは初めて笑い、認証写しを濡らさないよう上着の内側へしまった。


「ほかの村も、払えないと言い始めます」


「申請は受けます。同じ条件で調べます」


 声の大きい村だけに猶予を与えれば不公平になる。だから、延期条件と審査結果は世帯名を伏せ、村名、税額、延期額、期限、理由を市場掲示板へ出す。先に払った村も、同じ不作条件だったことを証明できれば、未到来分の期限変更を申請できる。


* * *


 公共事業の候補は、レムナ村から王都へ向かう道の途中にあった。


 国有倉庫の北棟は、屋根の一部が落ち、入口までの道には雨水が溜まっている。倉庫そのものを直すには木材、石、釘、職人が要る。今の国庫で全工事を始めることはできない。


 まず2日間、排水溝の泥を除き、崩れた箇所を測り、使える資材と腐った資材を分ける。これなら新しい材料を買わずに、修理費の見積りを作れる。


 近隣の日雇い賃金を調べ、1日銅貨8枚とした。9人を2日雇えば、合計銅貨144枚、銀貨12枚である。


 国庫の支払可能現金は銀貨21枚しかない。


 銀貨12枚を賃金へ使い、国内債権用の9枚は残す。徴税請負契約の無料両替を使い、3者立会いで銀貨12枚を銅貨144枚へ替えた。王家遺産の金貨412枚には触れない。


 賃金は1日ごとに出す。2日働き終えるまで待たせない。天候や管理人の都合で仕事が中止になれば、その日までの分を払う。


「税へ充てる分は?」


 テオが尋ねた。


「本人が決めます。ただし、賃金の3分の2以上は現金で渡します」


 1日銅貨8枚なら、税へ回せるのは最大2枚。残る6枚は本人へ払う。全額を現金で受け取り、税は90日後に払ってもよい。


 税へ回す場合も、賃金を減額したとは書かない。財務局が賃金銅貨8枚の受領証を発行し、本人の指定した2枚以内について別の納税受領証を出す。国の支出と税収を相殺して消さず、どちらも帳簿へ残す。


「食べるための金を残すのですね」


「税を払うために働いて、働いた日に食べられないのでは意味がない」


 直人は答えた。


 公共事業は72枚の税を消す魔法ではない。だが、食べる麦を奪わずに現金を作り、壊れた倉庫も使える状態へ近づけられる。


* * *


 募集札には、賃金より先に任意参加と大きく書いた。


 応募者が9人を超えた場合は、税の滞納額では選ばない。今月の就労日数が少ない者を優先し、同じなら公開のくじで決める。村長、徴税人、国王の推薦枠は設けない。


 テオは募集札を読み終え、1つだけ書き足した。


 参加しなくても、納税延期は失われない。


「同じことが契約に書いてあります」


 直人が言うと、リヴィアが首を振った。


「いちばん疑われることほど、いちばん見える場所に書くべきです」


 翌朝、国有倉庫の前で応募を受け付けた。税を滞納しているかでは選ばず、最近仕事の少なかった者を優先する。同じ条件なら、名前を書いた木札を籠から引いた。


 選ばれた9人のうち、足を痛めた父親と暮らす女性が、鋤を受け取る前に直人へ尋ねた。


「明日来られなくなっても、今日の分はもらえますか」


「今日働いた分は今日払う。納税延期も取り消さない」


 女性は契約の同じ一文を指で確かめた。


「父は、仕事を断ったら種麦を取られると思っていました」


「そのために、いちばん上へ書いた。これは罰じゃなくて仕事だ」


 彼女はもう1度大きな文字を読み、ようやく鋤を握った。隣の男も募集札をのぞき込み、「本当に書いてある」と小さく笑った。


 排水溝から最初の泥が持ち上がると、詰まっていた水が細い流れになって道の脇へ走った。見物していた子どもたちが歓声を上げる。


 直人も流れをのぞき込もうとして靴を泥へ沈めた。


「国王の靴は、事業費に入らないからね」


 リヴィアが笑いながら腕を引く。


「分かってる。自分で洗う」


 日暮れ前、9人は銅貨8枚ずつを受け取った。税へ回す者には別の納税受領証を渡し、全部持ち帰る者にも理由は聞かない。朝まで空だった手の中で、硬貨が明るい音を立てた。


 それでも、正しい税を払えない者へ、種麦を奪う以外の最初の選択肢ができた。


 次は、銀貨12枚を払い、それ以上の価値が残る工事へ仕事を変える。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。