表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
4/7


「では、何も知らないお二人に歴史のお勉強を。この国は500年に一度、悪魔によって滅亡の危機を迎えると言われています。まぁ、よくある神話ですね。ここまでは良いですか?」


「そんな伝説。幼子でも知っている。馬鹿にするな。それがどうしたというのだ」


「それが、どうかするんですよ。それがここ最近が500年目になるそうなんです。つまりこの国は滅びの時を迎えている。分かりますか?このままだと滅びるんですよこの国」


「貴様っ!!不敬だぞ!!」


 暴れる王子を警吏たちが押さえつける。ああ、滑稽。すっごくおもしろい。いい気味だ。


「まぁ、そんなに怒らないでください殿下。言い伝えには続きがあります。同じく500年に一度、救世主が現れ、その危機を救う。その救世主たる人物と王から認められたのが聖女リリィ・アンダーソンです。分かりますか?私です」


 王子が驚いたようにこちらを見つめる。会場もざわざわと声をあげ、好奇の視線が集まってくるのを感じた。あ、やばい。これ言っちゃいけないんだっけ。


「分かりませんか?この婚約はそもそも、王家がわざわざアンダーソン家に申し込んできたものなのです。それを一介の王子が破談にしようなんて……とっても失礼だと思いますの。ああ、貴方のお父上に、陛下に報告したらなんというか。私の機嫌一つで廃嫡なんかになっちゃったりして?」 


 しゃがみ込み、指先でルーカスの顎を持ち上げる。怯えたような震えた瞳に、くっきりと姉そっくりの顔が映っていた。


「あんたも、折角才能あって、ここに入学できたんだから。王子なんて高望みしないで……その辺の適当の貴族にしとけばよかったのに」 


 嗜めるように言うと、アリスは俯いたまま震える。善良な姉を悪役令嬢に仕立てようとした時点でこの女も終わっていたのだ。別れの挨拶代わりにぽんっと頭を叩き、そのまま立ち上がる。


「皆様!今宵は私の婚約者が失礼いたしました。さあ、パーティーの続きを!」


「………です」


 ぽつりと、アリスは呟く。


「リリィ様にいじめられていたことは本当なんです!」


 響き渡った声に会場が静まり返る。


「何を言って……」


 これ以上姉を悪く言うようであるなら、流石に怒鳴りつけようかと考えていると、「あの」という消え入りそうな声が一つ響いた。


 その声を発した女生徒に皆の視線が集まる。女生徒はおずおずと視線を逸らしながら続けた。


「私、リリィ様が……。アリスさんを叩いている所を見たことがあります。校舎の裏でアリス様の背中を叩いていました。何度も……。私、誰にも言えなくて……」


「は?何言って……」


 そしてそれを皮切りに、手がどんどん上がっていく。


「俺も見た!キャンベルさんが王子に用意したケーキを取り上げて捨てていた!」


「出てけって凄んでるところ見たかも……」


「水をかけてるところを見たことある」

 

 知らない姿の姉に、戸惑う。あの善良な姉が本当に?王子の寵愛を受けるアリスに嫉妬して?嘘だ。姉がそんなことするわけがない。


 不意に、後ろで警吏に両手を掴まれた。


「何を……離してください!私を誰だと思って……」


「形成逆転だな」


 拘束の外れたルーカスとアリスが目の前まで歩みよる。ルーカスは人差し指で俺の顎を持ち上げる。先程の仕返しというわけだろうが、ぞわりと背筋が粟立った。そして王子は警吏から短刀を受け取ると、俺のウエストに刃先を当て、そのまま上へ引き裂いた。ドレスとコルセットが裂け、平らな胸元が顕になる。


「やはり、お前ノアだな。面白い。もともと似ているとは思っていたが。化粧でここまで似るのだな……」


 しまった。先ほど近づき過ぎてしまったのだ。さすがの馬鹿王子でも、目と鼻の先にいれば違和感を感じたようであった。


「リリィの国での立場が俺より上だったということは理解した。だが、同じアンダーソンでも、お前は違うだろ?なんの力も持たない。聖女の残りカスのお前なんか、国にとってはゴミ同然だ。もちろん俺にとってもな」


 聖女の残りカス。優秀な姉に対して、不出来の弟。周りが俺を呼ぶ蔑称だった。


 クスリと、ルーカスの横でアリスが勝ち誇ったように笑う。こいつがきっとみんなを買収したのだ。そうは見えない。でも、そうに決まってる。そうでなければいけない。姉が、馬鹿王子への嫉妬如きでこんなことをするわけがない。


「なぁ、アリス。この姉弟にどんな罰を与えようか……鞭打ちしたうえに窓のない部屋に閉じ込めようか……」


「そうですわ。ルーカス様。裸にして市中引き回しというのは?」


「それはいい!そうしよう」


 まるでティータイムのお茶請けでも決めるかように二人は楽しげに話した。


「姉貴が……姉貴がそんなことするわけない!」


「事実を認められないようだな。とにかくだ。きな臭い伝説なんて俺は信じない。信心深い父上も聖女が実は悪女だったことを知れば、この婚約破棄を受け入れてくれるだろう。そして俺と、俺の妃になるアリスを馬鹿にしたお前ら姉弟を俺は許さない。アンダーソン家は取り壊しだ!」


 短刀が再度振り上げられる。ルーカスがそれをどうする気かは分からないが、どう転んだって俺にとっては最悪であることに変わりはなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ