表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
3/7

 

 パートナーのいないパーティーは悲惨である。もっとも俺にもツレはいなかったわけだが、一国の王子にそれがいないとなると沽券に関わる。おそらく、姉はそう考えたのだ。


 そのせいで、俺は無理やり女装させられ、姉のふりを頼まれたのだったが……。


「馬鹿王子にそんな心配はなかったんだよ」

 

 聞こえないように小さく悪態をついて、ルーカスに目をやる。その横には派手なドレスに身を包んだ、化粧のキツイ黒髪の女性が立っていた。女性はその装飾に反し、怯えた様子でこちらを眺めながらも、その指をルーカスの腕に執拗に絡めていた。


「失礼ですが、殿下。そちらの女性はどなたですの?」


 笑顔を崩さないまま投げかける。聞かなくても本当は知っている。彼女はアリス・キャンベル。中等部から編入してきた女生徒だ。貧民街から独学で勉学を学び、編入試験でトップの成績を収めた才女だという噂を聞いたことがある。


 ルーカスはアリスを愛しそうに見つめる。アリスが現れて以来、心優しい姉のことを王子は邪険に扱っていた。

 

 姉というものがありながら、他の女にうつつを抜かす馬鹿王子が許せなかった。


 ルーカスがアリスをパートナーに選ぶことは、俺にとっては予想通りだった。


 だから、いざとなれば馬鹿王子の代わりに、俺が姉をエスコートする気でいたのだ。


 それは叶わなかったが、今はそれでよかったと思う。ルーカスはパーティーの序盤から、ずっとアリスを侍らせていた。パートナーがいないパーティーは悲惨である。奴だってそれを知っているはずなのに。挨拶にだって来なかったのだ。そのうえ、公衆の面前で婚約破棄?馬鹿を通り越して頭がおかしいとしか思えない。


「酷いです!リリィ様……私の名前すら覚えていなかったなんて……」


「ああ、可哀想なアリス……あっ……謝れ!謝れリリィ!!」


 わざとらしく顔を覆うアリス。それをあわあわとしながら宥めるルーカス。これが茶番でなかったら、なんと呼べばいいのだろうか。


「えっと……婚約破棄ですよね?なんでまた」


 ルーカスはこちらをしっかりと見据えた。その青い瞳は敵意がこもっているようだった。


「お前は、俺に愛されているアリスに嫉妬し、彼女に酷いいじめをしたそうじゃないか。そんな者。この国の国母にふさわしいわけないだろう。だから婚約破棄をするのだ!」


「私……リリィ様に叩かれたり、水をかけられたり、嫌なことを何度も言われて……黙っていようと思ってたのですけど……」


 堪えきれなくなったというように、アリスは涙を流す。膝から崩れそうになるアリスをルーカスは支えるようにして抱きしめた。


「かわいそうな、アリス。俺はお前を許さないからな!」


 ああ、本当馬鹿みたい。誰よりも善良な姉が、そんなことするわけないじゃないか。俺の深いため息は静まり返った会場によく響いた。


「お、お前……なんだ、その態度。俺はお前と婚約破棄すると言ったんだぞ」


 髪飾りが重い。結い上げられた髪が痒い。締め上げられた腰が痛い。馬鹿王子の態度が腹立たしい。身体の全てに不快感を感じる。目に映る全てが不愉快であった。


「いやもう。いいよ……。婚約破棄っていうけどさ。このこと王様知ってるの?」


 一応今までは姉の口調を真似ていたものだから、急に変わった俺の声にルーカスは一瞬だじろぎ、瞳が揺れた。


「……父上はまだ。だが、分かってくれるはずだ」


「分かるって何を?」


「俺は、お前との婚約を破棄してアリスと婚約する。アリスは国母となるんだ!お前声をかけることも許されない立派な俺の妃に……」


「あ、そう。よかったね。パパが認めてくれるといいね」


 適当に返事をすると、ルーカスはわなわなと震えた。


「警吏!あの不敬な奴を取り押さえろ!」  


 怒鳴り声をあげるルーカスだったが、命じられた警吏は身じろぎ一つしない。


 俺が手を上げると、数人の警吏がルーカスとアリスを抑えた。地面に膝をつき、ルーカスは信じられないものを見るかようにあたりを見渡す。


「お前ら、不敬だぞ!俺はこの国の王子だぞ!首を刎ねられたいのか!」


「そ……そうよ!私は未来の国母よ!こんなことして許されると思ってるの……!」


 喚きつづける二人の前にゆっくりと歩みを進める。


「王子はまるでこの国の成り立ちが分かっていない。貴方もだ。アリス・キャンベル。編入試験でトップだったというのは嘘だったのか?」


「何を……」


 動揺から、もはや怯えに変わった彼らの顔は、この茶番の中で、唯一俺が、面白いと思える一幕だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ