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区役所ダンジョン対策課 〜住民票の次はボス部屋です〜  作者: やどかり


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第21話:再開発の、本命

「商店街の地下を、なぜヴァルゴが、あれほど急ぐのか」


黒田は、地図と資料を前に、考え込んでいた。連鎖湧出の七か所のうち、ヴァルゴが最も力を入れているのが、商店街だった。他の案件は手早く「処理」して去るのに、商店街だけは、立ち退きまで強引に進めようとしている。


その答えを持ってきたのは、遠野だった。


本庁の都市再生推進室。かつて黒田の好敵手だった男は、今や、不本意な協力者として、こっそり地下二階を訪れていた。


「桜ヶ丘の一件以来、私は、真壁議員の動きを、内側から調べています」遠野は、一枚の図面を、机に置いた。「これを見てください。商店街一帯の、再開発計画です。──三年前から、水面下で、進んでいた」


図面は、巨大だった。商店街を取り壊し、跡地に大型の複合商業施設。その中心に、ダンジョンを「観光資源」として活用する、テーマパークまがいの計画。


「ダンジョンを、観光資源に」新庄が、目を丸くした。


「ええ。安全化したダンジョンは、今や、立派な"集客装置"です」遠野は淡々と言った。「真壁議員と、その後援企業は、それで莫大な利益を見込んでいる。だが、そのためには、商店街を、丸ごと立ち退かせる必要がある。──だから、ヴァルゴを使って、ダンジョン処理という"大義名分"で、立ち退きを加速させている」


黒田の目が、細くなった。


「ダンジョンの処理は、口実か」


「そうです。本当の目的は、再開発だ」遠野は頷いた。「連鎖湧出は、彼らにとって、千載一遇のチャンスだった。『危険だから、早く処理を』という空気の中で、強引な立ち退きが、正当化される。誰も、反対できない」


ハルが、低く言った。「だから、鷲尾は、あんなに急いでた。一人の年寄りのために遅れるのが、許せないんじゃない。再開発のスケジュールが、遅れるのが、許せないんだ」


「その通りです」


黒田は、図面を、じっと見つめた。混乱に乗じた、巧妙な利権。ダンジョンの恐怖を煽り、効率を旗印に、民間に処理を投げ、その裏で、町を、丸ごと、金に変える。


「遠野さん。一つ、聞かせてください」黒田は、顔を上げた。「あなたは、本庁の人間だ。再開発を進める側にいた。なのに、なぜ、俺たちに、これを?」


遠野は、しばらく黙っていた。


「……桜ヶ丘で、あなたは言った」彼は、ゆっくりと口を開いた。「『この区が、どんな区でありたいか』。あの言葉が、ずっと、引っかかっていた」遠野の目に、静かな怒りがあった。「私は、効率を信じている。今も、です。でも、真壁のやっていることは、効率じゃない。私利私欲のために、効率を、隠れ蓑にしている。──あれは、最適解じゃない。ただの、不正だ。効率主義者として、許せない」


黒田は、頷いた。好敵手は、もう、敵ではなかった。


「ありがとうございます。この図面、お預かりします」


「ただし」遠野は、釘を刺した。「真壁は、用心深い。直接の証拠は、どこにもない。彼に繋がる記録は、すべて、巧妙に隠されている。ヴァルゴとの繋がりも、表向きは、ただの業務委託だ。──尻尾を掴むのは、容易じゃない」


「分かっています」黒田は、メモに「ヴァルゴと真壁の接点」と書いた。「でも、記録は、必ず、どこかにある。隠したつもりでも、誰かが、どこかで、判子を押してる。──探します」


遠野が帰った後、黒田は、ヴァルゴの過去の業務記録を、片端から、取り寄せ始めた。


「商店街だけじゃない。ヴァルゴが、これまで、どこで、どんな仕事をしてきたか」黒田は呟いた。「過去をたどれば、真壁との、本当の繋がりが、見えてくるはずだ」


その作業が、やがて、思いもよらない「地名」に、行き当たることを、このときの彼は、まだ、知らなかった。


商店街の地下を、ヴァルゴが急ぐ理由──真壁の再開発の本命でした。ダンジョンを観光資源に、町を丸ごと金に変える巨大利権。

そして遠野が、完全に黒田側に。「真壁のやっていることは、効率じゃない。ただの不正だ」。効率主義者の、矜持。

黒田は、ヴァルゴの過去の記録をたどり始めます。その先に待つ「地名」とは。次回、若き探索員・一ノ瀬の、迷い。


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