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区役所ダンジョン対策課 〜住民票の次はボス部屋です〜  作者: やどかり


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第11話:住民という名の味方

会場の空気が変わった、その瞬間を、郷田会長は逃さなかった。


「黒田さんよ!」彼が立ち上がり、よく通る声を響かせた。「俺たち住民は、何をすればいい。立派な公園より、町の子どもが先だ。なあ、みんな!」


「そうだ!」「捜してやれ!」声が、次々に上がる。さっきまで再開発に傾いていた住民が、今度は捜索継続へと、雪崩を打って動き始めた。


遠野が、静かに口を挟んだ。「お気持ちは分かります。ですが、捜索には予算と人手が要る。区にも本庁にも、それを長期で出す余裕は──」


「予算がねえなら、人手で補えばいいだろ!」郷田が遮った。「俺たち三丁目だけじゃねえ。桜ヶ丘全体の町内会、二千世帯だ。署名くらい、明日には集める。地域の見回りも、炊き出しも、できる。役所が金を出せねえなら、住民が手を出す。それも『区政への住民参加』ってやつだろ!」


黒田の目が、見開かれた。


住民参加。──それは、行政の言葉だった。そして、書類になる言葉だった。


彼は、頭の中で、猛烈な勢いで条文を繰り始めた。


「会長」黒田はマイクを握った。「今の発言、正式に提案として記録させてください。──『住民協働によるダンジョン安全管理および捜索支援』。これを、区の事業として立ち上げます」


「どういうことだ?」


「住民の皆さんが、見回り・物資搬送・記録の補助を『ボランティア協働』として担う。すると、捜索は『区単独事業』ではなく『住民協働事業』になります」黒田の声が、熱を帯びた。「協働事業には、別枠の補助金が下りる。しかも、二千世帯の署名がつけば、それは『地域の総意』だ。本庁が一存で潰せば、住民の声を無視したことになる」


新庄が、はっと息を呑んだ。「住民の力を、書類の根拠に変えるんですね。お金じゃなく、『総意』っていう、もう一つの財源に」


「その通りだ」黒田は遠野を見据えた。「遠野さん。あなたは『数字にならない正当性を、数字で示せ』と言った。──これが、その数字です。二千世帯の署名。住民協働事業の枠組み。捜索継続は、もはや俺一人の感情じゃない。地域の、正式な意思決定です」


遠野は、しばらく黙っていた。タブレットに、何も打ち込まなかった。


「……二千世帯の署名と、協働事業の枠組み」彼は、ようやく口を開いた。「それが揃えば、確かに、再開発計画は『住民合意なし』として、一度止まる。あなたは、私の土俵で、私を上回る数字を作った」


「あなたが、教えてくれたんですよ」黒田は言った。「感情だけじゃ、行政は動かない。数字が要る。──だから、住民の声を、数字にした」


遠野が、ふっと、息を吐いた。それは、笑いに、近かった。


「面白い」彼はタブレットを閉じた。「いいでしょう。署名が集まり次第、私は本庁で、財産登録の延期を上申します。──ただし、忠告を一つ。黒田主任」


遠野の目が、わずかに翳った。


「私の上に、本当の『流れ』を作っている人間がいます。再開発を、何としても進めたい人物が。その人は、私のように、論理では止まらない。あなたの『数字』が揃ったとき、その人は、別の手を使うでしょう。──気をつけて」


黒田は、メモに記した。「再開発を進めたい、本当の人物」と。


説明会の翌日。郷田会長の動員は、凄まじかった。三日で、二千百世帯の署名が集まった。回覧板、立ち話、商店街、ゲートボール場。地域の網の目が、すべて捜索のために動いた。


黒田は、その分厚い署名の束を抱え、地下二階で、深く息を吐いた。


「住民を、敵にしてたら、終わってた」彼は呟いた。「味方にできて、よかった」


ハルが、剣の手入れをしながら言った。「あんた、人を動かすのが上手いね。書類だけじゃなかった」


「人を動かしてるのは、俺じゃない」黒田は署名の束を見つめた。「この町の、人を見捨てたくない気持ちです。俺は、それを書類の形にしただけだ」


捜索継続が、決まった。再開発は、止まった。


だが──遠野の警告が、黒田の胸に、棘のように残っていた。


「本当の流れを、作っている人間」


その正体を知るのは、もう少し、先のことだった。


大型イベント②、住民説明会の逆転。郷田会長の動員力=住民自治が、ついに最大の武器になりました。お金がないなら、「総意」というもう一つの財源を。

遠野も、黒田を認めました。「あなたは、私の土俵で、私を上回る数字を作った」。好敵手が、少しずつ、別の関係へ。

そして遠野の警告──「本当の流れを作っている人間」。再開発の、真の黒幕の影。

次回、いよいよ捜索は最終局面。だが、迷宮の危険等級が、跳ね上がる。

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