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区役所ダンジョン対策課 〜住民票の次はボス部屋です〜  作者: やどかり


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10/12

第10話:説明会、炎上

桜ヶ丘地区センターの会議室は、開始前から満員だった。


郷田会長の回覧板と声がけで、住民が二百人以上集まっていた。封鎖された公園、湧いたダンジョン、そして再開発の噂。不安と不満が、部屋の空気を膨らませている。


壇上には、黒田と新庄、そして本庁から来た遠野が並んでいた。


最初の三十分で、説明会は炎上した。


「いつまで封鎖するんだ!」「子どもの遊び場を返せ!」「ダンジョンが家まで広がってきたらどうする!」「役所は何をやってる!」


怒号が飛び交う。新庄が、マイクを握る手を震わせていた。


そして、遠野が立ち上がった。


「皆様の不安は理解します。だからこそ、本庁は、抜本的な解決をご提案します」彼はスクリーンに、洗練された図面を映した。「桜ヶ丘第二公園一帯を、再開発します。ダンジョンは安全に封鎖し、その跡地に、新しい複合施設を。商業区画、防災拠点、そして、最新の児童公園を」


会場が、ざわついた。図面は、美しかった。今の、穴の空いた荒れた公園よりも、ずっと。


「ダンジョンという危険物を、地域の資産に変える。それが、本庁の考える、皆様の安全と利益です」遠野は淀みなく続けた。「封鎖して塞いでしまえば、危険もなくなる。公園も、もっと立派になって戻ってくる。これ以上の解決が、ありますか」


住民の空気が、揺れた。怒りが、期待に変わり始める。「立派な公園が……」「危険がなくなるなら……」


黒田は、それを見ていた。遠野は、正しいのだ。住民にとって、これは魅力的な提案だった。穴を塞いで、立派な施設をもらう。誰も損をしない。──ただ一人、底にいるかもしれない子どもを除いて。


新庄が、黒田に耳打ちした。「黒田さん、まずいです。みんな、再開発に傾いてます。このままじゃ……」


黒田は、マイクを手に取った。


何を言うべきか。理屈で、遠野には勝てない。図面の美しさにも勝てない。


ふと、郷田会長との約束が、頭をよぎった。


『役所言葉で誤魔化すな。住民には、本当のことを話せ』


黒田は、マイクを置いた。代わりに、壇上から降り、住民の前に立った。そして、ポケットから、証拠保全の袋を取り出した。


子どもの上履き。


「皆さん」彼の声は、マイクを通さない、生の声だった。「立派な公園の図面より先に、これを見てください」


会場が、しん、と静まった。


「この上履きは、封鎖された公園のダンジョンの、底で見つかりました。先月、この三丁目で行方不明になった、佐倉ハルトくん、六歳のものです」


ざわめきが、止まった。


「再開発のために封鎖するということは──この子を、底に残したまま、コンクリートで蓋をする、ということです」


会場の、誰も、声を出さなかった。


黒田は、続けた。淡々と、しかし、一語ずつ、はっきりと。


「俺は二年前、隣の緑川市で、同じことを見ました。再開発のために、子どもがいるかもしれないダンジョンが、埋め立てられた。俺は、止められなかった。──だから、今度は、皆さんに本当のことを話します。きれいな図面の裏で、何が起きようとしているのかを」


そのとき、後ろの方で、一人の女性が立ち上がった。


佐倉ハルトの、母だった。


「あの子は」彼女の声は、震えていたが、会場の隅々まで届いた。「あの子は、この町の、子どもです。皆さんに、飴をもらった子です。郷田さんに、遊んでもらった子です。──お願いします。塞がないで。まだ、捜してください」


会場の空気が、音を立てて、変わった。


説明会、一度は炎上から再開発へ傾きました。遠野の提案は、住民にとって魅力的だったのです。

だが、黒田は理屈を捨て、上履きを掲げました。「コンクリートで蓋をする、ということです」。そして、母の声。

住民自治の風向きが、今、変わろうとしています。次回、住民という名の味方──大型イベント②、逆転の説明会クライマックス。


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