↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
昏き深淵のオフィーリア~婚約破棄の末に処刑された公爵令嬢は、二度目の人生をやり直す~  作者: 物部 妖狐
第三章 死の染料と月影の姫

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/68

第7話 月影の薬

「エステラ、クラリッサはその……大丈夫、なの?」


 クラリッサの今の状況を考えれば、いつ私も彼女のようになってもおかしくはない。

 そう思いながら、後ろで静かに佇んでいるエステラへと語り掛ける。


「その、私は……」

「あなたがここに居るということは、クラリッサの看病をしていたのでしょう?」


 言葉を発しようにもうまく話せないのか、口を忙しく動かしているクラリッサをよそに、周囲の状況を見渡す。

 見たことのない色の液体が満たされた水差しに、彼女の体を拭いてあげていたのか、濡れたままのタオルが綺麗にたたまれている。


「あ、あの……エス、エステ、ラさんは、私の……その」

「無理に話さないで横になっていた方がいいわ。病人は身体を治すことが仕事よ?」

「……は、はい」


 何かを言おうとしたクラリッサの肩に触れると、ゆっくりとベッドへと体を倒していく。


(……見た目のわりに結構、身体つきはしっかりとしているのね)


 弱っているとはいえ、手から伝わる貴族令嬢らしからぬ感触に、言葉にできない違和感を覚える。

 これではまるで――。


「ごめんなさい……クラリッサ? あなた、もしかし――」

「オフィーリア様、彼女は病人ですよ? なにを聞こうとしているのかはわかりませんが、負担をかけるようなことはしないでいただけますか?」

「……え?」


 声がした方向に振り向くと、今までとは違い、凛とした佇まいで私を見るエステラがいた。


「オフィーリア様の言いたいことはわかります。けれど、病人に対して失礼なことはおやめください」

「そ、そうね……。クラリッサ。その、悪かったわね」

「あ、い……いえ、その、わ、わたし、その……はい」


 私が感じた違和感はきっと、気のせいだったのかもしれない。

 そう思いながら、改めてクラリッサを見るけれど、服の上から見る彼女の姿は、どう見ても貴族の令嬢にしか見えない。


(……私が男装しているせいかしら、変に気にしてしまったのかもしれないわね)


「それで……エステラ? 私の言いたいことがわかると、いきなり意見を変えてくれたわけだけれど、いったい何がわかったというのかしら?」

「え? あ……あの、オフィーリア様もお気づきかと思うのですが、その、クラリッサさんの身を侵しているのは……」

「この部屋とクラリッサが着ている服だって、いうことよね?」


 静かにエステラが頷くと、ゆっくりと壁に近づいて優しく指で触れる。


「……はい。どうやってオフィーリア様がこの色の毒性について、気付いたのかわからないのですが。これは、その、私の国で作られたものです」

「あら、簡単に認めてしまうのね?」

「ここで嘘をついてしまっては、私が尊敬するオフィーリア様に失礼ですから……」


 出会ってからまだそんなに経っていないというのに、尊敬していると言われても……なんだか、うさん臭く感じてしまう。

 どうせ、レクトールが何かしら吹き込んでいるのだろうけれど、だからといって、無条件に信頼されるのは、少しだけ怖い。


「あ、あの……オ、フィーリア様が、あの時言っていたことって、こ、これが、原因で、すか?」

「そうよ? その、クラリッサ……あの時は私の言葉が足りなくてごめんなさい。もっとしっかりと伝えていればよかったわね」

「そ、その、はい。けど、それだと私、信じられなかったとおも、います」

「……そう」


 たどたどしくも、どこか力強い彼女の言葉を聞いて、あの時のことを改めて思いだす。


(……本人から直接言われるのは、なんだかくるものがあるわね)


「やっぱり……そうなるわよね」

「……はい」


 これ以上、なんて言葉を返せばいいのかわからない現状を変えようと、視線を水差しへと向ける。

 エステラが使っていたものだとは思うけれど、この中にはいったい、何が入っているのだろうか。


「クラリッサ、あなたはもう休んでいて? 私はちょっと、エステラと外でお話をしたいから……ね?」

「あ、はい。で、でしたら、その、ここを使ってくだ、さい」

「……いいの? ここだと、あなたが休めないのではなくて?」

「大丈夫、です。その……一人になるよりも、誰かがいてくれた、ほうが、うれ、しいので」

「あら、ずいぶんと可愛らしいことをいうのね」


 恥ずかしそうにシーツを手繰り寄せて、顔を隠してしまったクラリッサの頭を軽くなでる。

 気持ちがいいのか、声を出さずに静かに目を閉じる彼女を見ていると、私に妹がいたらこんな感じなのかと思えて、なんだか微笑ましい。


「ねぇ、エステラ? あの……水差しの中身は何かしら?」

「あれは……そう、ですね。あの染料の毒性を抑える……薬です」

「抑えるって、あなた……これがどういうことかわかって言っているの」

「……はい」


 静かに頷いたエステラが、水差しへと近づいて行く。

 そして中の薬を勢いよく飲み干すと、小さく咳き込み、私を見る。


「この通り、私が飲んでも問題がないので、毒では……ありません」

「……だからってあなた、大人しそうな見た目の割には、ずいぶんと大胆なことをするのね?」

「えぇ、だって……オフィーリア様が言ってくださったんですよ? 自分の思うように生きた方がいいって、だから……その」

「……そういえば、そんなことを言ったような気がするわね」


 だからと言って、クラリッサのために用意した薬を飲むのはどうなのだろうか。

 そう思いながら水差しをエステラから受け取ると、まずは何から聞こうかと、彼女の顔を見て微笑んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。