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昏き深淵のオフィーリア~婚約破棄の末に処刑された公爵令嬢は、二度目の人生をやり直す~  作者: 物部 妖狐
第二章 青薔薇と黄昏の少女

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第26話 抱いた疑念

 三人で楽しい時間を過ごすのはいいのだけれど、一つだけ気になることがある。


「……リゼ、遅いわね」

「気にしすぎじゃない?」

「そう?」


 いくらアルフォンスの元へお菓子を食べに行っているとはいえ……遅すぎる。

 サフィーは気にしすぎだとは言うけれど、それでも、気になってしまう。


「ルシアン、あなた……私の言葉から、リゼの状況を視ることってできる?」

「……できはするとは思うけれど、過保護が過ぎるのはどうかと思うよ」

「別に過保護ってわけじゃ……いえ、ごめんなさい。あなたたちの言う通りね」


 二人がいうように、今の私は……リゼに対して過保護になっているのかもしれない。

 今まで彼女が側にいることを当然のように感じていたから、たった数時間であるはずなのに、気持ちが落ち着かない。


「こういう時は、話題を変えた方がいい気分転換になるっすからねぇ。んーそうだなぁ、ルシアン? なんか面白いこと話してよ」

「面白いことって、いきなりそんなことを言われて、はいそうですかと話せるわけがないだろ」

「まったく、使えない婚約者で嫌になっちゃう。うーん……そうだ、フィー? そういえば、隣国の第三王女様と、話して仲良くなったんでしょ? それについて話してほしいんだけど……ダメ?」

「エステラのこと? まぁ……いいけど、特に面白い話題でもないわよ?」


 通路でエステラに出会った際のことを二人に伝える。

 私としては、彼女に対して親しみを感じてはいるけれど……。


「……んー」

「サフィー?」

「いや、これはうちの勘なんだけど、その子……なぁんかありそうだなって、思うんだよね。ルシアンもそう思うっすよね?」

「僕は君みたいに、実践で学んだ勘はないから、そういうのはわからないね」

「……なら、そうっすね。エステラを留学させたのはレクトールなのに、どうしてあのバカと一緒にいないで、一人で行動してるの?」


 たしかに……そう言われると、少しだけ気になることがある。


「サフィー? さっきも伝えたけれど、エステラは校長の元へ行くって言っていたでしょう?」

「……あぁ、まぁそれはそうなんすけど、あぁ、もう……なんて言えばいいんすかね。ルシアン、あんたの魔法でうちの考えを伝えてくれない?」

「いや、確証が持てない先を視るために、家門の人間を犠牲にはできないよ」

「あなたはそれでいいわ、けど……そう、私もサフィーの言葉を聞いて、少しだけ……本当に、少しだけれど気になるところが、たしかにあるわ」


 広間で行われたレクトールの挨拶の後、エスペライザの王族である彼女なら気付いていたはずだ。

 フロライト伯爵家の令嬢、クラリッサが……死の緑を着ていたことに。


(……いや、それとも私の考えすぎかしら。それに死の緑が大勢の人を殺すのはまだ先だもの、エステラが知らなかったとしてもおかしくはないわね)


「……フィー?」

「いえ、ごめんなさい。ちょっとだけ疑い過ぎてしまったみたい、バカね。友人を疑うだなんて……」

「友人って言っても、エステラ王女とはまだ、出会って一日しか経っていないだろう? 疑いを持つのは何もおかしいことではないと、僕は思うけどね」

「あら、ルシアン? それをあなたが言うの? あなただって、私やサフィーと会ってまだ一日しか経っていないじゃない」

「そ、それは……えっと、うん。ほ、ほら、馬車での出来事に関しては、ちゃんと反省してるよ」


 本当に反省しているのなら、今のような軽口は出ないはず。

 ルシアンの言っていることはもっともだとは思うけれど、ここで感情を優先してしまっては、サフィーが抱いた疑念も、私に芽生えた違和感も形にできない。


「反省しているのならいいわ。でも、そう……サフィーの疑いを晴らす方法があるわよ?」

「……あぁ、なるほどね」

「あら、こういう時だけは物分かりがいいのね。それとも、わかったふり?」

「もちろん、ちゃんとわかってるさ」

「ちょ、ちょっと? なんで……二人で勝手にわかり合ってるのさ」


 ユフィールとのお茶会に、サフィーを連れて行けばいい。

 先ほどは断ってしまったけれど、彼女がその場に同席して、エステラのことをその目で見れば、納得のいく答えが出せるはず。


「サフィー、えっと……ね? さっきは断ってしまったけれど、お茶会に来て……くれないかしら」

「それは別にいいけど……あぁ、うん、そういうこと? うちに直接エステラを見て判断しろってことでいいんすね?」

「……それに、私もどうして彼女をほんの少しでも疑ってしまったのか、理由が欲しいの。友人として信じるために……ね?」


 とはいえ、そこにスコルピナ子爵家のユフィールがいるのが問題だ。

 彼女が近くにいて、尚且つ……レクトールと親交を深めているエステラがいるとなると、あまりにも場所が悪い。

 私たちのやり取りから、リューネベルク公爵家の秘密に触れられた場合、逃げ場がなくなってしまう。


「けど……うん、そうなるとユフィールの存在が邪魔ね。いっそのこと、呼ばないでいい気がしてきたわ」

「それは無理じゃないっすか? エステラにユフィールとのお茶会に招待するって伝えちゃった以上、はぶいてしまったら……スコルピナ子爵家の家名に泥を塗るようなもんっすよ?」

「言われなくてもわかっているわよ……まったく、本当に憂鬱ね。せっかくの紅茶が苦くなってしまいそうよ」


 そう言葉にしながら飲んでしまったせいで、サフィーが淹れてくれた紅茶の味が、心なしか苦々しく感じる。

 気持ち一つでここまで味が変わってしまうのなら、ユフィールとのお茶会では……どうなってしまうのだろうか。


「あぁ……それなら、僕がお茶会の当日にユフィール嬢を呼び出して、外に連れ出すなんてどうかな? ほら、そうすれば三人で話せると思うし」

「……あんた、その意味をわかって言ってる?」

「もちろん、君たちのために必要なことだろ? それに相手は僕やサフィーラと同じ五大貴族だからね。呼び出す方法はいくらでもあるさ」

「……サフィー、これはあなたの言っていることがわかっていないわよ?」

「そうみたいっすね。まったく……教育のし甲斐がありすぎて、目が回ってしまいそう」


 サフィーの気持ちを理解できていないルシアンが、助けを求めるように私を見る。

 けど、これに関しては私ではどうすることもできない。

 そう思い、口を開こうとした時だった。


「……あら?」


 扉をノックする音が部屋に響いて、私たちの視線がドアに集まる。


「……リゼ? ずいぶんと遅かったわね?」


 すると、わずかに開いたドアからリゼが顔を覗かせていた。


「あ、はい。アルフォンス殿下から、色々と相談されちゃって……」

「……相談? なにかあったの?」

「んー、それは私とアルフォンス殿下の秘密ですよ? いくらお嬢様の専属と言えど、口止めされてしまってるので、あぁ、でも! 代わりに口止め料としてお菓子を沢山もらってきたので、皆で食べましょう?」

「……はぁ、口止めされてるなら言わなくていいのよ? でも、そうね。せっかくだから頂こうかしら」


 話に集中しすぎたせいで、すっかり冷めてしまった紅茶にも合うのだろうか。

 そう思いながら、リゼが手際よく並べてくれるお菓子に、私たちは手を伸ばすのだった。

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