第25話 青薔薇の派閥
「……ふーん、昨晩にそんなことがって、フィー? あんたそれ、うちら以外には言わないほうがいいよ?」
「それくらいわかっているわよ。けど……そうね、忠告は受け取っておくわ」
昨晩、私とリゼがアルフォンスの部屋に居たことを話した後、サフィーが真剣な顔で、そう言葉にした。
「サフィーラ。まぁ……いいじゃないか、結果としてアルフォンス殿下と専属の気遣いがなければ、オフィーリアはここにいなかったのだからさ」
「……まぁ、たしかにそうっすけど、なぁんか納得いかないっす」
「まぁ、いいとは思うわよ? いくら私がアルフォンス側だったとしても、やっていることは貴族として非常識だとしか言えないもの」
ここで必要以上に言ってこないのを見る限り、彼女もわかっているのかもしれない。
(だって……サフィーもあの場で私と同じ立場だったらきっと、私と同じ行動をするはずだもの)
「……とはいえ、あなたも早朝からアルフォンスのところに行くのはどうなの? 仮にも婚約者がいるというのに」
「まぁ、そこはほら……うちにも王家の血が流れてるから、例外ってことっすよ」
「いや……例外だからって、そう何度もアルフォンス殿下相手とはいえ、異性の部屋に行かれたら、僕としては気が気ではないけどね」
「器が小さいっすねぇ。うちの婚約者だっていうなら、ドーンと構えて待つことくらいできないものかねぇ」
「……僕としては、器の大きさよりも自由奔放に好き勝手されて、相手に不安な思いをさせるほうがどうかとは思うけどね」
……また始まった。
喧嘩するほど仲が良いとは言うけれど、ここでされたら話が進まなくなる。
「まったく……夫婦喧嘩は、二人きりの時にいくらでもしてちょうだい。そんなことよりも、サフィー? あなたはアルフォンスと何を話したの?」
「夫婦喧嘩って、ずいぶんと言ってくれるじゃん。……あぁ、アルフォンスとはあれっすよ。うちがどちらの派閥の人間か直接言いに行っただけっすね」
「どちらのって、あなたも……私の味方なら、アルフォンス側の人間でしょう?」
「うちはフィー……いや、オフィーリア側の人間だよ?」
どうしてルシアンといい、サフィーラといい。
私側の人間だと主張するのか。
これでは……アルフォンスをこの国の王にする前に、私が担ぎ上げられてしまいそうだ。
「……私の方につくって言うけれど、私はアルフォンスをグランツェルの王にするつもりなのよ?」
「けど、今のアルフォンスじゃ、王になる以前に、まず人として未熟じゃない? いくら人に寄り添える人だとしても、優しいだけじゃ誰もついてこないし?」
「だからって、わざわざ派閥を三つに分けてどうするのよ。これじゃあ、サフィーがアルフォンスに対して宣戦布告しに行ったようなものじゃない」
「いや、問題ないとは思うよ? オフィーリアはアルフォンス殿下側だからね。派閥の主が支持する相手を変えない限り、宣戦布告だなんて物騒なことにはならないさ」
たとえそうだとしても、なぜアルフォンスにわざわざ言いに行くのか。
タイミングを見計らったかのように、リゼが乱入してくれたみたいだから良かったものの、状況次第では……あまりにもよくないと言わざるを得ない。
「それにフィー? あんたさ……わかってる?」
「わかってるって……何を?」
「アルフォンスをグランツェルの王にしたとしても、今の彼のままでは傀儡の王にしかなれない。五大貴族のソルライトやナイトロードはまだ問題ない、けど……ね?」
「……ルシアン、あなたはともかくとして、サフィーラ。あなたはつまり、そのことを危惧しているのね?」
「まぁ、そうっすね。特にグロリアンサ侯爵家の現当主や、フロライト伯爵家、あそこは性根が腐ってる奴が多いからね。アルフォンスを利用するために何をしでかすかわからないよ?」
サフィーの隣で、苦虫を噛み潰したような顔をするルシアンを横目に、アルフォンスがこのまま王位を継いだ時のことを考える。
グロリアンサ侯爵家現当主の人柄については、私の記憶の中にそこまで残っていない。
精々、寡黙な人だったとは思う、けれど……フロライト伯爵家はどうだろうか。
(……この国の財政を管理する家名だもの、アルフォンスの良心に付け入られたら、たしかに危険かもしれないわね)
国内の税収すら、自分たちのいいようにしかねない。
リューネベルク公爵家に生まれた私では、財政に関して対処することは難しい。
なら……アルフォンスはどうなのかと言えば、王家の人間としての教育は受けているだろうけれど、現状では力不足だ。
そうなると、認めるようで悔しいけれど、現状……王位を継いだ際に、フロライト伯爵家をけん制できるのはレクトールしかいないだろう。
「……グロリアンサ侯爵家の小侯爵が隣にいるのに、ずいぶんな言い草だね」
「あんたの隣だから言うんだよ。侯爵家を変えたいって思ってるなら、現状を正しく理解した方がよくない?」
「まぁ……それは、そうだね」
「それで? 残りのスコルピナ子爵家に関して、二人の見解はどうなのかしら?」
「あぁ……あそこは、そうだね。僕としては、君がアルフォンス殿下の部屋で話をした通り、オフィーリアに頑張ってもらうしかないかな」
ルシアンの言葉に同意するように、サフィーが静かに頷く。
(この二人からも言われると、なんだか……負担に感じるわね)
「まぁ、そこらへんは私の方で上手くやるわ。それに、ほら……お茶会のこともあるもの」
「不安なのが凄い顔に出てるけど、うちもその……お茶会についていこうか?」
「ありがとう、でも……そう、大丈夫よ? だって、その……そう! 隣国からの留学生として貴族学校に来たエステラと一緒に行く予定、だもの?」
「……君にしては、面白いくらいに動揺しているね?」
自分でも動揺していることくらい、わかっている。
表面上を取り繕えないほどに、スコルピナ子爵家のユフィールが苦手なことくらい。
それでも……わがままだとわかっているけれど、できれば黙って察してほしい。
「……うるさいわね。次、同じようなことを言ったら、二度と言葉を話せないようにしてあげる」
「今度は辛辣が過ぎる……サフィーラ、僕はなんか失礼なことでもしたのかな?」
「まぁ、デリカシーって言葉を辞書で引いたら……わかるんじゃない?」
「……えぇ?」
ルシアンには悪いけど、二人のおかげで負担に感じていた思いが、少しだけ軽くなった気がする。
そう思いながら紅茶を口に運び、ふと時計を見ると、いつの間にか短い針が昼を告げようとしていた。
「……ねぇ、二人とも? 今日ってその、学校の授業ってどうなっていたのかわかる?」
「ん? あぁ……今日はそうだね。教育全体の流れについての説明以外、特にはないはずだから、ある程度の理解や事前知識のある生徒は、参加せずに寮内の模様替えとかに精を出しているはずだよ」
「……そう、なら良かったわ。さすがに初日から、授業を休むだなんてしたくないもの」
「まぁ、そういう意味ではうちら、紅茶を飲みながらさぼってるようなものっすけどね」
「……それは、言わないお約束ということにしてちょうだい」
私の言葉に返事を返す代わりに、二人が笑みを浮かべる。
なんだか……この時間が……私にとって、とても大事な物に感じた。




