第21話 どうか良い夢を
「そういえばオフィーリア。君はリゼットさんと一緒に貴族学校の寮で暮らすのかい?」
話がある程度まとまり、陽が落ちたころ。アルフォンスの従者が淹れなおしてくれた紅茶を飲んでいた時に、聞かれて思い出す。
(……日々が忙しすぎたせいで、そこまで考えられてなかったわね)
「あぁ……そうね。私は、王都の屋敷から通おうと思っているわ。ほら、定期的に外に出るようにした方が、動きやすいでしょう?」
「俺もその方がいいとは思うけれど、その様子だと……さっきまで忘れてたんだ?」
「そ、そんなこと……ないわ」
「……目が泳いでるよ?」
「気まずくなるから、そういうのは言わなくても察してちょうだい」
思わず顔に出ていたみたいだけれど、指摘されてしまうと……言葉に詰まる。
「ご、ごめんなさい! 本来なら専属の私が手配するべきことなのに、えぇっと……ですね。私」
「いいのよ。私もあなたに指示を出していなかったでしょう? だから、この場合の落ち度は主人である私よ」
とはいえ、完全に陽が落ちて夜の帳が降りてしまっている以上、不用意に外に出るわけにもいかない。
もし、帰宅の最中にレクトールに会うようなことがあったら、それこそ……リゼが近くにいたとしても、望まぬ噂が広がってしまう。
(夜の貴族学校で、レクトールと蜜月を過ごしていたとか……言われたくないわね)
「ねぇ、アルフォンス? 今から寮に泊まることって……できるのかしら」
「問題ないんじゃないかな。下級貴族の人たちとは違って、王家や上級貴族、それに五大貴族には、あらかじめ申請を通していなくても部屋が用意されているはずだよ」
「……あぁ、そうだったわね」
以前の人生では、レクトールが私のために寮内の部屋を用意してくれたから、そのような制度があることを忘れていた。
(私の世話をしてくれる使用人も全て、そういえば……レクトールが集めてくれたのよね)
そう思うと、今のレクトールとは方向性が違うけれど、当時の彼は……彼なりに私を大切にしようとはしていたのかもしれない。
「もちろん、家具も一通り揃っているから今すぐにでも使えるはずだけど、珍しいね……オフィーリアだから、わかっていると思ってたよ」
「私だって……抜けているところくらいあるわよ」
「はは、そうだね。なら……抜けているついでに、貴族学校の正門で待っているリューネベルク公爵家の馬車には使いを既に出して、寮に泊まることは伝えてあるから、今日はもうゆっくりと休めるんじゃないかな」
「あ、あなた、いつの間にそんなことをしたの?」
「いつの間にって、入学式の後、リゼットさんのことを頼まれた時かな……君のことだから、色々と動き回るだろうし、それなら俺もできることをやろうと思ったんだ」
気持ちは嬉しいけれど、その行動にレクトールの姿が重なる。
まるで、こちらのことを気遣うようなふりをしながら、少しずつ支配されていくような。
その感覚に身体が氷のように冷えていく。
「……レクトールみたいなことをするのね?」
「えっと……今のはなんていうかさ。俺ってオフィーリアに頼りすぎている気がしたから、少しだけ格好つけてみたくて、リゼットさんと相談して決めたんだけど、その、嫌な思いをさせたならごめん」
「馬鹿ね。気持ちは嬉しいけれど……変に見栄を張って、かっこつけようとしなくていいわよ。あなたにはあなたの良さがあるでしょう? まぁ、でも……そうね。ありがとう」
見栄を張るなとは言わない。
あなたになら、いくらでも頼ってもらって構わない。
だから、そのままのアルフォンスでいてほしいと思うのは、私の……わがままなのだろうか。
「まって、ということはリゼ? あなた……謝っていたけれど、知っていて演技をしたのね?」
「え、あ……あぁ、はい。ちょっと……リゼットお姉ちゃんとして、男の子にいいところを見させてあげたいなぁって」
「……もう、二人して何をしているのかしらね。でも、嫌いじゃないわよ? そういうの」
レクトールのように、私の行動を先読みするのとは違い。
二人のそれは、私のことを気遣ってくれたものだから、嫌なわけがない。
「ところで……リゼットお姉ちゃんって言ってるけど、ここは貴族学校の寮なのよ? どこに人の目があるかわからないのだから、軽はずみな発言はよくないわ」
「いや、俺はリゼットさんの距離感の方が安心するから、これでいいよ。むしろ、王家の人間だからって距離を取られる方が、俺は……嫌かな」
「そう? あなたが……そう言うのならいいけれど、外では気を付けるようにね?」
「……大丈夫ですよ? だって、私はお嬢様の専属ですからね。しっかりとやるべきところはやるので、安心してください」
本来なら、リゼの言葉に注意するべきなのだろうけれど、彼女がそこまで言うのなら信じたい。
だから、返事をする代わりにソファーから立ち上がり、アルフォンスに目配せをする。
「……もう、いくのかい?」
「えぇ、いくらあなたとはいえ、いつまでもここにいたら……それこそ、あらぬ噂が立ってしまうでしょう? それとも、寂しいのかしら?」
「まぁ、うん……そうだね。俺には親しい友人が少ないからさ、味方が少ない環境だとどうにも、思うところがあってね」
「……そう? けど、あなたなら大丈夫よ。特別に私が保証してあげる」
嬉しそうに微笑んだアルフォンスが、椅子から立ち上がり、扉へと近づいていく。
「それは……なんとも心強いね。君が保証してくれるなら、本当に大丈夫だって思えるよ」
「それは光栄ね。……じゃあ、いくわね」
「……オフィーリア」
彼が開けてくれた扉を通って、通路に出ようとした時だった。
アルフォンスが耳元で囁く。
「……なぁに?」
「良い夢を見てほしい。ほら……君は、なんでも自分一人で抱え込みがちだから、夢の中だけでも、ね?」
「ふふ、ありがとう。アルフォンス? あなたも良い夢を見られるように祈っているわ」
「はは、ありがとう」
そして……部屋を出た時だった。
後ろを見ても、リゼの姿が見えない。
もしかして、何か……この短い時間であったのかもしれない、そう思い、彼女の名前を呼ぼうとしたけれど――。
「ア、アルフォンス様! 残ったお菓子、その……持ち帰っていいですか?」
「リゼットさん……全部持って帰っていいけど、早くしないとオフィーリアに置いて行かれてしまうよ?」
「……! あ、じゃ、じゃあ! 明日、全部食べにくるので、残しといてくださいね? 絶対ですよ!」
「は、はは……」
アルフォンスの部屋から聞こえた。
リゼのみっともない言葉に思わず苦笑いをしながら、彼女が出てくるのを一人、通路で待つのだった。
本日投稿のお話、リアルが忙しくてAIを通した誤字脱字チェックと校正が行う時間がなかったので
生原稿となります、もしかしたら誤字脱字が多い可能性があるので、酷い誤字脱字があったら、ごめんね!




