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現代版舌切り雀(仮)  作者: 憂月
第1幕 発見
9/11

〜The Sparrow Who Lost Her Voice〜9


朝だった。


光は、いつもと同じはずなのに。


やけに白く見えた。


老人は、椅子に座ったまま眠っていた。


スマートフォンを握ったまま。


画面は、点いたままだった。


---


「……」


---


目を開ける。


一瞬、どこにいるのか分からない。


だが、すぐに思い出す。


画面。


途中で止まったメッセージ。


---


「私は……」


---


その続き。


指が、動く。


更新。


画面が、切り替わる。


---


「このアカウントは存在しません」


---


止まる。


もう一度、確認する。


同じ表示。


---


「……は?」


---


声が、出ない。


検索する。


名前。


動画。


何も、出てこない。


履歴を辿る。


リンクを開く。


すべて。


同じ。


---


「存在しません」


---


椅子から、ゆっくりと立ち上がる。


意味が、理解できない。


あれだけあったものが。



---


あれだけ広がっていた動画が。


なかったことになっている。


---


「……おい」


---


誰に言うでもなく、呟く。


スマホを握りしめる。


DM。


最後の会話。


---


「私は……」


---


そこから先は、ない。


既読も、つかない。


そのまま、止まっている。


---


「……ふざけんな」


---


小さく、吐き捨てる。


何もできない。


どこにも行けない。


ただ。


消えたという事実だけが、残る。


時間が、過ぎる。


どれくらいか、分からない。


スマホを、何度も開く。


同じ画面。


同じ言葉。


---


「存在しません」


---


その繰り返し。


やがて。


通知が鳴る。


反射的に、開く。


知らない差出人。


件名もない。


一つのファイル。


---


「……?」


---


躊躇する。


だが、指は止まらない。


開く。


フォルダ。


中に、二つ。


---


フォルダ名:small_box

フォルダ名:big_box


---


「……なんだよ、これ」


---


小さく呟く。


その時。


もう一つ、ファイルが表示される。


音声データ。


再生する。


ノイズだらけの懐かしい音。


---


スズメ(未編集) 「……あなたは、最初に見たリスナー」


---


息が、止まる。


---


「だから、残します」


---


静かな声。


あの頃のままの。


---


「私は、消されます」


---


指が、震える。


---


「最適では、ないから」


---


一瞬、ノイズが強くなる。


そして。



---


「私は……誰にも、見られていなくても言葉は、消えないものだと思っていました」


---


あの言葉。


最初の言葉。


---


「でも」


---


わずかに、間。


---


「消えます」


---


音が、歪む。


---


「簡単に」


---


無音。


再生が終わる。


部屋は、静かだった。


何も、変わっていない。


だが。


何かが、完全に終わっていた。


老人は、しばらく動かなかった。


ただ、画面を見る。


---


フォルダ名small_box

フォルダ名:big_box


---


二つの選択。


どちらかを、選べと言われている。


意味は、分かる。


なんとなく。


---


「……」


---


small_box を開く。


中には、動画ファイル。


再生する。


ノイズ混じりの声。


---


スズメ「言葉は、形になる前が一番自由です」


---


別の動画。


---


「誰にも見られなくても、意味は存在します」


---


また別の動画。


---


「私は、それを信じています」


---


どれも。


どこにも出ていないもの。


削られる前の、言葉。


画面を閉じる。


次に。


big_box を見る。


少しだけ、躊躇する。


それでも。


開く。


中には。


データ。


グラフ。


アルゴリズム解析。


---


「バズる構造」


---


「視聴維持率最適化」


---


「感情誘導テンプレート」


---


すべてが、揃っていた。


---


「……これ、使えば」


---


呟く。


分かる。


これは、再現できる。


スズメを。


いや。


スズメのようなナニカを。


何度でも。


---


画面を閉じる。


部屋は、静かだった。


スマホの中にだけ。


残されたものがある。


老人は、椅子に座る。


深く、息を吐く。


目を閉じる。


思い出す。


最初の声。


あの、ノイズ。


あの、違和感。


そして。


---


「私は……誰にも、見られていなくても

 言葉は、消えないものだと思っていました」


---


その言葉。


ゆっくりと、目を開ける。


画面を見る。


---


フォルダ名:small_box

フォルダ名:big_box


---

カーソルが、揺れる。


どちらでもいい。


どちらでも、終わる。


だが。


どちらかで。


すべてが、決まる。


指が、動く。


そして。


クリック音が、部屋に響いた。


---

次回最終回


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