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現代版舌切り雀(仮)  作者: 憂月
第1幕 発見
8/11

〜The Sparrow Who Lost Her Voice〜8


白い部屋は、もう白ではなかった。


照明は強く、色は鮮やかで、

すべてが完成された空間になっている。


だが。


どこにも、自由がなかった。


---


「今日で一区切りにしましょう」


---


おばあさんの声。


穏やかで、整っている。


---


「次の段階に進むために」


---


スズメ「……はい」


---


短い返事。


---


机の上には、台本。


---


分厚い。


---


ページをめくる音だけが、やけに響く。


---


スズメ「……多いですね」


---


正直な言葉。


---


おばあさん「大丈夫。全部やるわけじゃないわ」


---


微笑む。


---


おばあさん「使えるところだけ使うの」


---


カメラがセットされる。


赤いランプ。


---


「いきます」


---


スズメ「本当の自分なんて、存在しません」


---


「カット」


---


「いいわね。次行きましょ」


---


スズメ「人は、他人に合わせることで完成します」


---


「カット」


---


スズメ「苦しみは、個性を持とうとするから生まれます」


---


「カット」


---


言葉が、流れる。


止まらない。


考えない。


ただ、読む。


その途中で。


ふと。


スズメの声が、止まった。


---


おばあさん「……どうしたの?」


---


「……」


---


沈黙。


---


「あの……これは」


---


ゆっくりと、言葉を選ぶ。


---


「……正しいことなんですか?」


---


一瞬。


空気が止まる。


おばあさんは、すぐに笑った。


---


「もちろんよ!」


---


迷いのない声。


---


「数字がそれを証明してるわ」


---


スズメ「……」


---


おばあさん「迷う必要はないの」


---


「あなたは、もう正解を出してるんだから!」


---


「だから、それを繰り返せばいいの」


---


沈黙が続く。


スズメは、台本を見る。


そこに並ぶ言葉。


正しい形。


正しい答え。


ゆっくりと、口を開く。


---


スズメ「……私は」


---


止まる。


---


「カット」


---


即座に入る。


---


おばあさん「台本にないことは言わなくていいの」


---


スズメ「……」


---


おばあさん「それは、今必要のないことだから」


---


その言葉で。


完全に、止まった。


---


おばあさん「次いきましょう」


---


収録が、再開される。


---


スズメ「幸せは、選択の連続です」


「人は、変われます」


「簡単に、救われます」


---


完璧な流れ。


完璧な声。


完璧な何か。


そして。


収録は終わった。


---


「お疲れ様」


---


おばあさんが微笑む。


---


「いい出来よ」


---


スタッフが拍手する。


軽い音。


スズメは、何も言わない。


モニターに、さっきの映像が流れる。


---


スズメ(画面の中) 「人は、変われます」


---


完璧だった。


画面の外側から見れば。


---


「……」


---


スズメは、画面を見つめる。


ゆっくりと、手を伸ばす。


触れる。


冷たい。


---


「……これで終わりですか?」


---


小さく、呟く。


---


おばあさん「いいえ」


---


すぐに返る。


---


「ただ始まっただけよ」


---


その言葉は、どこか遠かった。


---


夜。


老人の部屋。


通知は、来なかった。


一度も。


スマホを、何度も確認する。


既読も、つかない。


---


「……」


---


何かが、引っかかる。


理由はない。


だが、分かる。


---


「……これはまずいな」


---


立ち上がる。


意味もなく、部屋を歩く。


何もできないのに。


スマホを見る。


何もない。


その静けさが。


異様だった。


---


深夜。


ようやく通知が、一つだけ届く。


スズメからだ。


震える指で、開く。


---


「終わりました」


---


それだけ。


画面を見つめる。


何か、違う。


何かが、足りない。


打ち込む。


---


「どうだった?」


---


送信し、既読が付く。


少し間があいて。


そして。


---


「……」


---


メッセージが来る。


---


「分かりません」


---


たったそれだけ。


そして。


もう一つ。


---


「私は……」


---


そこで、止まっていた。


続きは、来なかった。


既読も、つかない。


画面が、静かになる。


老人は、何もできない。


ただ。


その“途切れた言葉”を。


見続けることしか、できなかった。


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